第二十話 ひと時の再開
────── 6月7日 9時50分 ───────
この日、ルーゼは帝都東部の住宅街の手前で幾つか手荷物を持ち、広場の中央のベンチに座っていた。
アチーブとの約束の時間には少し早かったが、遅刻するよりかいいだろうと考えたのだ。
広場にいる様々な人間たちを眺めながらルーゼはアチーブが来るのを待つ。今日も多種多様な人間がそれぞれの活動のために動き周り、活気に溢れている。
(何度見ても、平和でいいものだなぁ。)と、帝都の栄華と平和を支える民達を見ながらそんな事を考えていると、人混みの奥から広場の方に歩いてくる人物が見える。
(お、きたか。思ったよりも早かったな。)
その人物もルーゼの存在を確認できたからか、笑顔で手を振ってきた。
「ルーゼさん!お久しぶりです!」
それに対しルーゼも笑顔で軽く手を振って返す。
「ああ、久しぶりだな。アチーブ。変わらないようだな。」
「ええ、ルーゼさんこそ。相変わらずお元気なようで何よりです。」
アチーブは以前着ていた私服ではなく、中央学院の制服と思われる格好であった。黒を基調としたデザインの制服を、彼女は綺麗に着こなしていた。
ルーゼはアチーブに早速ある提案をする。
「アチーブ、早速ですまないが、君が中央学院で学んで来たものを見せてくれるか?丁度いい場所もあるんだ。」
「はい、大丈夫ですよ。あ、でも・・・どこでするんですか?」
「ん、以前と同じ帝都魔術師団の訓練場だ。」
と言って、ルーゼは歩きだす。
「え!? また貸していただけたんですか?」
ルーゼが提示した場所を聞いてアチーブは驚いた。確かに以前決闘の舞台として貸してくれたが、あれはアチーブの中央学院入学生という理由があった上で、彼らの好意によるものだ。
(確かにあの人達もルーゼさんを見ていたから、私の知らない間に何か関係でもできたのかな?)
そう思いながらルーゼに質問すると、ルーゼは笑いながら振り返り足を止めて
「ああ、有難いことにな。詳しい事情は向こうに着いてから話そう。」
と言って、再び帝都魔術師団の訓練場に向かって歩き出した。その理由というのが気になりはしたが、どうせ後で分かるだろうと、アチーブは特に指摘せず、「分かりました。」と、言ってルーゼの横に並んで着いて行った。
こうして二人は約二ヶ月振りの再開を果たしたのであった。ルーゼはあくまで何て事無いように装うが、内心、胸の中の思いが溢れそうであった。
帝都を出てからずっと独りで生きてきて、アチーブと出会うまでは、どんな人物ともこれっきりの縁ばかりであった。しかし、彼女と出会ったことでそれは変わった。
一度っきりではない、継続的な人間関係を500年振りに築くことができたのだ。お陰で、ルーゼにとって今はあの時と同じ様な幸せな気持ちで毎日を送ることが出来ている。
ルーゼからしてみれば、アチーブもまた、恩人のようなものであった。ルーゼの人生に変化をくれた彼女との縁がしっかりと続いている。その事にルーゼは感動し、(本当にありがとう、アチーブ。)口にするのは恥ずかしく、心の中で彼女に感謝を告げた。
ルーゼはそんな気持ちを誤魔化す目的も兼ねて、歩きながらアチーブに中央学院での生活について尋ねる。
「アチーブ、中央学院での生活はどうだ?二ヶ月も経てば色々あったろう?人間関係とか、魔術の話とか是非聞かせてくれ。」
「そうですねぇ、やっぱり私よりも優秀な魔術師が沢山いましたね。先生は勿論のこと、級長達三人とか。やっぱり貴族達は違いますね。」
「ハハッ、そりゃそうだろう。学んで来た時間も金のかけ方も平民のそれとは訳が違うんだ。気にしてたらキリがない。君は君のやるべき事を確実にしていけばいいんだ。」
ルーゼは笑いながら本心でそう答える。
「勿論、分かってますよ?でも、ちょっとだけ凹みましたね。だって、同じ年なのに私よりも魔力量も出力も遙かに上回る女子がいたんですよ?」
「そうなのか!?凄いな・・・・そいつ。」
ルーゼはそうおどろく。本来、アチーブも年齢の割には異常な魔力量と出力と持っており、追随する者など殆どいない。
(それを凌駕するとなると・・・・)
「ええ、フレイア家の嫡女『ソフィア』って子です。十傑イゾルデ-チェの末裔ですね。」
恐らく十傑の誰かの末裔であろうというルーゼの予想は当たっていた、アチーブの様な例外はあれど魔術の才能はある程度は遺伝する傾向にある。
それが十傑、しかもイゾルデ-チェの末裔なら、アチーブの持つ魔力量と出力を上回っていても納得がいく。
「そうか・・・、それは納得できるな。しかし、十大貴族の嫡女がいるとは、凄い年になりそうだな。」
「それはそうですが、そんなのを言い訳には出来ませんよ。だからこうしてルーゼさんにお願いして魔術を見てもらうんじゃないですか。」
と、真剣な表情で彼女が言うのを見て、ルーゼは思わず嬉しくなり笑顔で答える。
「ああ、そうだな。出来る時間で全力で鍛えてやる。」
「ええ、お願いしますね?ルーゼさん。」と、彼女も以前と変わらぬ熱い目で真っ直ぐルーゼを見てそう言うのであった。
そして、訓練場に向かいながら、アチーブは更に学院の級長達の話をする。
「それと、今年はソフィアさんだけじゃないんですよ。私の学級の級長も十傑の末裔なんですよ。アルデンツィ家の嫡男の『ルドルフ』君です。」
「・・・・まじか。」ルーゼは驚愕し、(そんな偶然があるか。)と、思わず絶句する。
「はい、明日学級の皆と中央街に買い出しに来ますので、もし良ければ紹介しましょうか?」
「・・・おや、十大貴族の嫡男が買い出しに来るのかね。」ルーゼからすれば意外なものであった。
「ええ、本当は級長が買い出しに来るのは殆どないんですけど、『級友として、君たちばかりに任せるのは申し訳ない!!』と言って・・・」
そして、彼女は軽く笑いながら続けて言う。
「その為にわざわざ級長の仕事を前倒しで終わらせちゃって、『これで文句はないだろう!』って、正直言うと面白かったです。」
「ハハハッ!面白いし可愛いな、そいつ。でもいい奴じゃないか。」
「そうでしょう、何かと情熱的で、かなりの世話焼きな彼に皆よく振り回されますけど、結局、分け隔てなく善意で行動する人だから皆から愛されてる、って感じですね。私の事もよく気にかけてくれるんです。」
「そうか、そいつは良いな。大事にしろよ?」
「ええ、勿論です。それで・・・、」アチーブは更に続けて、
「もう一人の級長ですよ、一体どんな方だと思いますか?」
アチーブは突然、最期の級長を問題として出してきた。ルーゼはそれに対して真剣に答える。
「十傑の末裔か?・・・いや、もしや皇族か?」
「・・・・よく分かりましたね。そうです、皇女『リアム』殿下です。」
「・・・・・そうか、皇帝家からか。いや、本当に凄い年になるな。」
ルーゼはローズの弟の事を思い出し、その事を嚙み締めながらそう答えた。
ローズ直属の末裔ではなく、彼女の弟の直系になるが、それでもその弟を支え続けたルーゼからすれば、今でも途絶えず続いていることが極めて感慨深いものであった。
「ええ、学院内も『凄い年になるぞ』ってしばらくの間、そればっかりが話題になってましたから。実際、彼らと親しくなって関わったからこそ、3人との格の違いを感じさせられましたよ。」
アチーブは真剣な表情でそう言う。彼女は余りにも自然にそう言ったが、しれっと言ったとんでもない事実にルーゼは驚愕し、アチーブに確認する。
「・・・待ってくれアチーブ、今、親しい仲と言ったか?」
「あ、はい。その・・・正直自分でも未だに信じられませんが、親しい関係になってます。と言うか、目を付けられた、という感じですが。」
「目を付けられた?」
「はい、・・・・元々ルドルフ君は同じ学級ということもあって関りはあったんですが。・・・その、入学してから二週間後にあった学年全体で行う実技訓練で、私が魔術で良い成績を出した事をきっかけにして、まずソフィアさんに、それでソフィアさんに連れられて、殿下に、それから何かと級長達と関わる内に親しくなっていったんです。」
「そうだったか、まぁでも、いい事じゃないか?なんでそう妙に困った顔をしている?」
「まぁ、そうですね。三人共いい人ですし、ただ・・・・、」
「ただ?」
アチーブは深いため息を吐いてから、
「そのせいで周りの低級貴族達や平民の学友達から、ちょっと距離置かれるようになってしまいまして・・・。ルドルフ君だけならともかく、級長全員となると・・。」
「・・・・・ああ、成程。」確かに、そんな人物たちに目を付けられている「平民の」少女だなんて周囲も近寄りにくいだろう。ルーゼは少しだけ同情する。
でも、アチーブはすぐに明るい声を取り戻し、
「でも、最近は平民出身の友達も出来ましたし、何とかうまくやってます。今日もお化粧をその子に手伝って貰ったんです。」
と言って、髪を耳にかけて微笑む。よく見ると、うっすらとだが綺麗で上品な化粧が施されている。
「おお、本当だ。上手にできているな。」
「・・・・ルーゼさん、もしかしたて今気づきましたか?」アチーブは(マジかこいつ・・。)といった目でルーゼを睨む。
「・・・ああ、すまない。」ルーゼも何となく申し訳なくなってしまい。謝罪する。
「まぁ、いいですけど。結構薄いから気づかなくても仕方ないですよ。」
(きっとこんなんだから友人の女の人を泣かしたんだろうなぁ・・・。)内心こうは思ったが、本人が後悔していることを言うのも可哀想なので飲み込んで、フォローをすることにした。
(ルーゼさん、基本的にいい人だけど、こういうとこは尊敬できないなぁ。)
二人がそうして他にも色々話しながらしばらく歩いていると、目的の建物が目に入ってきた。帝都魔術師団の訓練場だ。するとルーゼが一言。
「アチーブ、この続きはまた後でにしよう。」
「はい、そうしましょう。」
そして二人が訓練場の近くに歩いていくと。その前に青緑の髪の青年が一人立っていた。
ケレスだ。ルーゼは彼を見つけて
「やぁ、ケレス。」と、声をかける。
「こんにちは、ルーゼさん。あっ、アチーブさんですね、こんにちは。」
そうケレスは晴れた笑顔で二人に挨拶をする。
アチーブは何故か帝都魔術師団と知り合いのルーゼと、ケレスと呼ばれたその彼が自身を知っている事に戸惑いながら、
「こ、こんにちは。アチーブです。えっと、ルーゼさん、この方は・・・。」
「紹介がまだだったね、彼はケレス、帝都魔術師団に所属していてね、君と別れた後に知り合ったんだ。今回は彼を通じて訓練場を貸して貰ったんだ。」
「はい、偶にですが、ルーゼさんに魔術を教えてもらったりしています。実は僕も中央学院出身なんですよ。」
「え!じゃあ先輩ってことですか?」
アチーブは目の前にいる魔術師が、まさかの中央学院の先輩であったことに驚いている。ケレスは笑いながら
「はい、そうなりますね。でも、気を使うことはないですよ。よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
そう二人の会話がひと段落したのを確認してから、ルーゼがケレスに尋ねる。
「ケレス、今からどれくらい使えそうだ?」
ケレスは訓練場の扉の前の時計を見てから、
「今、10時20分ですから、12時までの1時間40分くらいですね。」
「そうか、十分だ。さぁ、アチーブ、始めよう。」
「はい!お願いします!」
そうして久しぶりに二人の魔術の訓練が始まった。広い訓練場の中には魔術師団の魔術師たちがそれぞれの訓練をしていたり、人の訓練を見学していたりする。
ルーゼが課した内容は旅をしていた時と同じ。先ずは基本的なことの復習及び確認であった。彼女の魔力の制御や速射性、及び精度などを基本訓練や軽い実戦訓練を通した打ち合いで確かめる。
それがひと段落終わった所でアチーブがルーゼに尋ねてくる。
「ルーゼさん、どうでしたか?」そう聞かれルーゼは少し考えてから、
「・・・そうだな、以前と比べて、魔力の制御をしながらの魔術の出力が上がっているな。君の長所である出力を活かせるようになっているな。それに光魔術を主にするようになったみたいだね。それと、魔力の練り方も上手くなっている。中央学院で学んだ事かい?」
「はい、中央学院の担任の先生から、その方針を続けながら出力を上げるようにしよう、と、指導してもらってます。あと、魔術の制御がここまで出来るなら、と使える術式を増やせる為の訓練にも付き合っていただいてますね。」
「それと、光魔術については、『アレ』ですよ『アレ』。」と、付け加える。
アチーブは今まで基本的には初級魔術のみを使っていたが、中央学院に入ってから中級魔術を扱えるように練習していた。
単純に中級以上の魔導書を中々手に入らなかったのもあるが、ルーゼがこの事は後回しにして基礎ばかりに集中していたのもあり、中級以上の魔術には一切触れていなかった。
その彼女が練習で得たものを得て次のステップに進んでいたことにルーゼは感心した。
「・・・そうか、いい事だな。一応聞くが、他の学生も同じ様なことをしているのかい?」
「いえ、学級内でも一人一人が出来る範囲ごとに、学ぶ段階が違う授業の時間を担任が作っているんです。その際に、私と他の数名でこれをやってます。」
「そうか、じゃあ、もう一つ聞くぞ?が、その前に・・・」
ルーゼはおもむろに振り返り、「ケレス。」と二人の訓練を見学していたケレスに呼びかける。
「お前、前に私とアチーブの決闘をみていたよな。」
「えぇ、見てました。」
「さっきの実戦訓練とその時と比べて、アチーブの戦い方、どうなったと思う?」
唐突な質問に対し、変化した自覚があまりなかったアチーブが困惑する。体捌き等は上手くなったな自信はあるが、ルーゼがこんな風に取り上げる内容とはなんだろうか。少し緊張していると、
「ああ、アチーブ、そんなに緊張しなくていい、そこまで大したことでもないから。ケレス、どうだい?言い方が悪くてもいいから率直にな。」
「・・・まぁ、そうですね。前もその節がありましたが、以前より更に手段を選ばなくなりましたよね。」
「そうだな、言葉を選ばずに言うのなら、セコく泥臭くなったな。」
「セコっ・・・!」
アチーブが抗議する前にルーゼが割って入り、
「悪いことではないぞ?正直実践においてはその方がいいまである。君の元々の性質のあるだろうが、担任からも教わったのかい?」
「・・・・はい、というか先生がそもそもそう言う感じと言うか・・・。」
アチーブはセコいと評された事に若干の不満を見せながらそう答える。
「ハハッ、そうか、じゃあ一つだけ。」
「何でしょうか?」
「前の決闘の時もそうだったが、意表をかく事ばかり考えがちだ。そういった手段は基本的な戦いをした上で成り立つもの。意表を突くことばかり考えていると、何もできないぞ?」
「・・・・担任の先生と、同じことを言いますね。」
「そうかそうか、だったら私が言うことではないな。その担任の先生に任せるとしよう。」
「はい、あの、ルーゼさん。」と、アチーブが聞いてくる。
「何だい?」
「中級魔術について、ルーゼさんが分かることを教えていただきたいです。と、言うのもまだ上手く使えなくて。」
「そうかい、じゃあ早速見せてくれたまえ。私に向けてやって構わない。一応言うが、施設を壊す様なことをするなよ?」
「・・・善処します。」
と言うと、アチーブは光の中級魔術『アンヘル』だけを刻んだ薄い魔導書を一冊取り出す。
そして、それを聞いて魔力を込めてルーゼに向けて魔術を行使する!!
すると、ルーゼの周りに囲うように魔術で精製された7個の光の弾が同時に出現し、一瞬でルーゼに襲い掛かり、光の爆発を起こす!
「ふむ、成程。」
そう言って、光の熱で発生した中から当然のように無傷で出てきたルーゼはアチーブを見てから、
「色々言うことはあったが、まず自分ではどう思うかね?」と、尋ねる。
「・・・・やっぱり、どうしても制御が危うくなりますね・・。辛うじて出来はしますが。それと、初級魔術と違って、明らかに難しいせいで、魔力のムラもぐちゃぐちゃですね。」
アチーブは自身が一番痛感している自らの欠点を挙げた。
「ふむ、ケレス、君は?」と、ルーゼはケレスからも感想を求める。
「うーん、彼女が言ったこともそうですが、やっぱり『慣れていない』ってのが一番ですかね?僕も人の事言えないけど、以前までの魔術の難易度と今の難易度とで上手く分けられていない、ってとことですね。」
「そうか、良い回答だ。二人共ちょっとこっちに来てくれ」
と言って、アチーブとケレスを集める。そして、アチーブから『アンヘル』の魔導書を受け取り、言う。
「ケレスはもう既にやったことだろうから、先輩としてアチーブに助言を頼む。さぁ、授業を始めよう。」
アチーブ:
今話が初見と言う方は、是非最初から読んでみて下さい。彼女の事が何となく分かります。
(話の途中で出てきた、”ルーゼの友人の女性”や、”アレ”とかもそれを見れば大体分かります。)
中級魔術:
次回で細かく取り扱いますが、ここに概要を記します。
簡単で基礎的なものある初級魔術から派生させ、一段階難易度が上がったもの。
その分威力や範囲等は強化されるが、物によってはまた条件が変わってくる。
読んでいただきありがとうございます。
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ブックマーク及びリアクション、レビューなどをつけていただけると、嬉しいです。
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