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第十九話 ”十傑筆頭” ロワ

 

 ────── 6月4日(水) ──────



 ルーゼはこの日も、帝都の東部住宅街を歩き回っていた。以前目的としていた探し物も見つかり、再び特に目的も無く住宅街の人々のありのままの生活を見て、考え、楽しむ日々なっていた。

 東部住宅街を回りだしてからおよそ一ヶ月経過し、おおよそ回ったと考えられるため、そろそろ別の所に拠点を移そうか、或いは一旦帝都の外に出ようか。そんな事も考えていた。


 そして、住宅街の中の人気の特に少ない辺りを、これといった目的もなくひたすら練り歩いていると、ふと、ある家屋が目に入る。

 それなりに大きい家ではあるが、周りの家屋と比べて明らかに建物事態が古く意識せずとも自然に目に付くものであった。


(・・・・・おや?・・・ほぉ、面白そうだな。)


 そして、その入り口の扉には掠れた文字で”書店”そう書かれていた。その古臭さにいい意味で惹かれて、ルーゼは中に入ることを即決した。


 カランカラン♪


 ルーゼが店内に入ると扉に付けられた鐘が軽快な音を立てて、入店を知らせる。しかし、


(・・・・魔力?)


 店に入るや否や、ルーゼは店中に漠然と漂う魔力を感じ、思わず顔を顰める。


 しかし、直ぐに気を取り直して、店内を見渡す。すると、店に入って正面の奥の方で初老の男性が居眠りをしていた、恐らく店主だろう。

(いくら人目に付きにくいとはいえ・・・警戒心は・・・ないのか?)ルーゼは心配になり、店主の方へ歩いて行く。勿論心配する気持ちもあったが、後で疑いが生じてはまずい、という事もあり店主を起こすことにしたのだ。


「すみません、あの・・・・え?」


 店主を起こすために店内の奥につき、店内に声をかけようとした瞬間、意外なものを見つけ、思わず固まってしまう。


 それはある男の老人が描かれた古びた肖像画であった。ルーゼはこの人物をよく知っている。随分年老いた頃のものとはいえ、人相が大きく変わってはいたが、面影はのこっておりルーゼはすぐに誰か分かった。


(・・・・・ロワ?)


 描かれているのは「十傑、ロワ=ド=アルデンツィ」、500年前、アルデンツィ大公として軍を率い、竜族に対抗していた豪傑。その後はローズの配下として軍を率い活躍し、”十傑筆頭”として戦後も帝国を支え続けた。


 ルーゼは戦闘、内政共に高い能力を持つ彼を非常に信頼し、お互いに数少ない友人として、良き関係を築いてはいたが、同時に彼の極めて高い洞察力を苦手に思った時もある。


 そんな男の肖像画が、なぜかこの書店にあったのだ。それに彼は肖像画を描かれることを嫌っていたはずだ。(どういうことだ?)と、困惑を隠せないでいると、


「いらっしゃい、お客さん。どうかしましたか?」と、居眠りから起きた店主がルーゼに声を掛ける。


「!!ああ、すみません、ええと、この肖像画って・・・」


「そうです、十傑、大公ロワのものです。私の先祖でこの店の最初の主が、ロワと交流があったと伝えられております。この肖像画はロワ様から先祖への最期の贈り物だったそうです。」


「!?・・・そうなんですか!?」


(あの堅物にそんな交友があったとのか!?いや、私が帝都を出た後の話なら絶対とは言えんが・・・)


 ルーゼは思わぬ話に驚愕しそんな事を考えていると、店主が続ける。


「ええ、詳しくは教えられませんが、そのようなことが確かにあったと伝えられています。ただ、ひとつ言うとすれば、書かれている手記の中でのロワは、よく神話で描かれている厳格な人物とは異なり、とても穏やかで他愛ない会話を好む方だったと書かれています。」


「・・・そうですか、何というか、意外ですね。」


 ルーゼはありのままにそう思い、口にする。取り繕うこともない。ルーゼとしても、ゼーレとしても、それがありのままの感情であった。


「ええ、私としても、その手記を読んだ時は衝撃的でした。でも、何度か読んでみて、納得は出来ました。」


「・・・何故ですか?」


「ロワはその圧倒的な強さと、厳格な性格から、友と呼べる者は少なかったそうです。だからこそ、そうして自然に接することが出来る人を、大事にしたかったのではないでしょうか・・・。」


「・・・フフッ、成程、面白い話が聞けました。ありがとうございます。」


「いえいえ、楽しんでいただけて幸いです。」


「ええ、それで、この書店の本を見て回ってもいいですか?」


「ええ、是非どうぞ。無理して買う必要もありませんから、ゆっくりと見て回って下さい。」


 店主のご好意に感謝してルーゼは書店を回る。と言っても、目的は決まっていた。店主と話ながら行っていた魔力探知で見つけた「違和感の正体」の方へ歩いて行く。そして、目標の物を見つける。


(・・・これか。いやしかし、何故、ロワの結界が・・・。)


 それは、一冊の小説であった。しかし、それにはロワの手でほんのりと、しかし強力な”認識阻害の結界”が張られており、ルーゼ程の魔術師で無ければ、見つけられないものとなっている。


(・・・いや、恐らく、あえて私に見つかるように作ったな?)


 でなければ、入ってすぐにその魔力に気づけやしない。ロワの結界術の実力をルーゼは誰よりも信頼している。少なくともあの時点では、ロワの方が格上であったぐらいだ。


 そう考えながら、認識阻害の結界を解除して、ルーゼはその本を開く。


(特に内容におかしな所は・・・・)そう思いながら本を見ていると、ふと、表紙に違和感を感じた。表紙を慎重になでると、表紙の中に変な突っかかりがあった。


 今すぐ中身を確かめたかったが、一応、商品の可能性であるものを好き勝手には出来ない。ルーゼはその本を持って先程の店内の元へ向かう。


「すみません、これを下さい。」


「ええ、どうぞ。お金はこちらに。」


 ルーゼは代金を支払いその店を後にした。そして、表紙の中に何があるのかすぐにも確かめる為に早足で宿に戻る。


 宿に戻り、自身の部屋に入ったルーゼは早速机に向かって座り、例の本を取り出す。その後ルーゼは部屋に置いてある自身の荷物を漁り、


(さて、と・・・・これでいいかな。)と、短刀を一つ取り出すのであった。


 そして、表紙の中にある”何か”を取り出す為に、分厚い表紙の側面を短刀で切り込む。薄くまっ平に蝋を用いて表紙の革が張りつけられており、ルーゼは慎重にそれを短刀で切り離していく。


(・・・・おっ!)


 そうして切り離していくと、ある所でその抵抗感が無くなる。そこを超えないように、まだ切り離していないところに短刀を入れる。


 そして表紙の革を剥がせるようになったであろうところで、ルーゼは慎重にそれを剝がしていく。


「おや?」


 そこにあったのは、小さな封筒であった。そしてそれを開けると、中には一通の手紙が入っていた。その題には丁寧で綺麗なロワの筆跡で「我が友へ」と綴られていた。


「この書は私の結界術において隠匿してあり、そこらの魔術師では到底見つけるのは不可能となる。

 よってこの書が暴かれる時は、遠き未来に、私が知る限り極めて優秀な魔術師が偶々これの近くに帰って来た時になるだろう。

 その上で私はこの手紙を綴る。」


(・・・・・。)


 ルーゼは無言で手紙を読み、唾を飲み込む。正直、読むのが少しだけ怖かった。恐る恐る、続きを読む。


「この書を読むことになるであろう魔術師に、一つ、頼みがある。

 帝都から出て北方のすぐにある、”ガルム山脈”の南方に赴き、そこの麓にある地下洞窟に入って欲しい。その奥にある物を授けよう。

 そこには高度な結界術によって隠匿されていおり、その上でからくり仕掛けによって入口を塞いでいるが、この書を見つけた者であれば問題なく見つけられるだろう。

 そして、万が一望まぬ侵入者が入った場合を考慮し、地下洞窟の中には至る箇所に罠と、元からいた凶悪な魔獣がひしめいている。十分用心するように。

 奥にある物を見ればこの書の意図は分かる。

 以上だ。その魔術師の無事を祈ろう。」



(・・・・・・!!)


 ルーゼはその内容を見て絶句していた。確かに、ガルム山脈には何度か行った事があるが、帝都の周りには近寄っていない。ロワはそのことを読み越していたのだろうか。


(・・・おそらくロワは私の正体を知っていたのだろう。)


 ルーゼの頬を冷や汗が流れる。もしそうであった場合、ロワは何故、何もルーゼに言わなかったのだろうか。後世に残っていないのか、幾つか疑問があるが、それはどの道その地下洞窟に行けば分かるのだろう。


(・・・・行くか。いや、でも・・・)


 そう決断したかったが、そうするならルーゼを知る者達ににしばらく帝都を離れる旨を伝える必要があるだろう。最短で行って帰って来ても、3週間以上はかかるだろうからだ。


 ルーゼは伝えるべき人間を思い浮かべる。アチーブ、ケレス、ニーナ、そしてファルベ、思えば今までのルーゼからすれば考えられない程に人と関わるようになっていた。


 その事を感慨深く思いながら、どうするかと考える。特にアチーブには私が住宅街に居る事を既に伝えてある。それを伝える手紙を送ってから届くまでの期間と、友人達に伝える時間を考慮すると、出発はおよそ一週間後になるだろう。


(さぁ、取り敢えず・・・)


 そう考え、アチーブに対する手紙を書こうと部屋の机に向かう。その時、


 コンコン!  「お客さん、いるかい!?」


 ルーゼの部屋の扉を叩く音がし、宿の主人の声が聞こえた。「はい。」そう返して扉を開けると宿の主人が。


「ああ、あんた宛に手紙が一通届いてな。前と同じ、中央学院のアチーブって子からだ。ほら、」


 と言って、ルーゼに手紙を手渡してきた、ルーゼは礼を言ってからそれを受け取り、部屋に戻る。


 以前もアチーブはこの宿に手紙を一度送ってきたことがある。その際は、自分の近況としばらく忙しく中央街に行けない言うことを伝える内容であった。


(今回はどんな内容だろうか・・・・。)と、封を切り中身を見る。


「 ルーゼさんへ。

 こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。私は、以前も書いたように、中央学院で元気にやらせていただいてます。

 さて、今度の6月7日と8日の土曜日と日曜日に、中央学院の学級の買い出しを目的に中央街に私も行きます。

 買い出しの日は日曜日なのですが、私は一足先の土曜日に中央街に行くつもりです。その際に、ルーゼさんの都合がよろしければ、以前提示していただいた場所に、十時に来ていただきたいです。

 また、会えるのを楽しみにしています。

 アチーブより。」


 と、中央街に訪れる日時を記してあった。


(土日・・・か、まぁ特に都合が悪いところもないな。それどころか・・・!)


 最高に都合のいいタイミングであったまである。これなら帝都を出る旨をアチーブに直接伝えることができるし、その直前に再開出来るのなら尚更だ。


(フフッ、良かった。彼女と会うための準備をしておくか・・。)


 アチーブとの再開を心待ちにしながら、ルーゼは宿を出て再び街に練りだすのであった。




十傑 ロワ=ド=アルデンツィ:

滅竜戦争においてローズが台頭する前から軍を率いて竜族に対抗し、その後はローズと元で将軍として軍を率いた戦闘力、内政共に十傑のなかでも抜きん出た実力を持つ豪傑。後世では十傑の筆頭として英雄視されている。

皇帝ローズと大賢者ゼーレ、及び十傑の中で最年長であり、厳格な性格もあって、信頼関係は強かったが、友人と呼べる人物は少なかったとされている。





読んでいただきありがとうございます。


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これからもよろしくお願いします。


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