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第十八話 友の足跡

今回は過去話メインです。


─────── 5月30日 夕方 ────────



この日ルーゼは、帝都東部の住宅街に張り巡らされる路地を歩き回っていた。以前と異なり、これといった目的なく歩き回っている訳ではない。ルーゼは、500年のローズとの思い出に関する()()()()を探していた。


ルーゼの記憶の中にぼんやりと残っているそれと思しき箇所を探しては地図にそれを記し、一つ一つその候補を潰していく。そんなことをして大体二週間程たっていた。


(かれこれ、もう二週間たったのか・・・、やはり、流石に残っていないのだろうか。)


500年たっているのだ。残っている可能性は極めて少ないだろう。それにルーゼ自身もそれが何処にあったか、具体的に憶えていない。そんな中、広大に広がり、敷き詰められた住宅街からそれを見つけるなど絶望的と言っていい。


それでも、ルーゼは諦めきれなかった。ローズと共にあったその痕跡があるということを、簡単に捨てきれ無かったし、それが残っているであろう理由も、根拠もちゃんとあるからだ。


「・・・・はぁ、この辺にもない、か。」


路地裏の行き止まりや、小さな広場等を探すが、結局ここにも無い。溜息を吐きながらルーゼはまた再び歩き始める。


その時だった、


「すみません。ちょっとお話をお伺いしてもよろしいでしょうか。帝都魔術師団の者ですが。」


背後から、聞きなれた声がかかる。ルーゼはその声の主に向かって


「おお、ケレスか。どうかしたか?」と、軽い表情でそう返事をする。


この日のケレスは帝都魔術師団の制服を身にまとっていた、おそらく勤務中なのだろう。そう軽く返事をしたルーゼに対し、ケレスは軽く呆れた様な表情をして、


「どうかしたもなにも、僕はずっと貴方を追っていたんですよ。」と、言った。


「 ? 何故だい?」 ルーゼは驚いた表情でそう返す。帝都魔術師団に追われなければならないことをした覚えが無い。本気で戸惑いながらそう答えたのだ。


「ここ数日間で、『ぶつぶつ独り言を言いながら東部の住宅街を練り歩き、何やら物色までしている男。』に関する通報が、帝都魔術師団(うち)に何件も来たんですよ。それで、僕たちの方でそれに関する操作を行っていたんですよ。万が一、それが犯罪に繋がるようでしたら、それ相応の対処を取らなきゃならないし。」


ルーゼは絶句し、頭を抱えながら天を仰ぐ。まさか、そんな事になっているとは思いもしなかった。確かに、客観的に考えてみればルーゼのやっていることは完全に不審者のそれだ。


「あーー・・・・・、それが、私だった、と言う事か・・。」


「はい、そうです。まさか、ルーゼさんとは思いませんでしたよ。それで、何をしていたんですか?」


「何を・・・と、言われても困るな。特に目的も無く住宅街を散策していたんだ。」


探し物、以外についてはありのままを答える。ケレスはそれを聞いて、少し考えてからルーゼに言葉を返す。


「嘘・・・って訳ではなさそうですね。まぁ、そうですよね・・・・ルーゼさんがそんな事をする人には見えませんし、まぁ、信じることにします。」


「ああ、ありがとう。ただ、上にはどう報告するつもりだい?」


「あぁ、特に見つからなかったとか何とか言って適当に誤魔化しますよ。」


「ああ、助かるよ。」


どうやら穏便にすみそうだ。ルーゼはその事に安堵する。ルーゼを見つけたのがケレス以外の帝都魔術師団の団員ならば、物凄い面倒事になったに違いない。


「それで、東部住宅街での生活はどうですか?」


ケレスはルーゼと共に路地を歩ながらそう訪ねてきた。


「思っていたよりかは快適だな。偶に道が複雑なことに困らされるが。」


「あー、帝都の外から来た人達は皆そう言いますね。僕はもう慣れましたけど、初めて任務で廻った時は迷子になっちゃて、先輩に助けて貰いました。」


と、照れくさそうに頭を掻く。


「君もそんな事があったのか、いい先輩だな。」


「ええ、闇魔術を使う女の人なんですが、本当に真面目で優しい人で、入団以降ずっとお世話になってるんです。・・・彼女も魔術好きなんで、ルーゼさんとも話が合うと思いますよ?」


「・・・そうか、闇魔術ね、確かに、一度会ってみたいな。」


闇魔術は肉体や精神に悪影響を及ぼす効果を主にする為か向き不向きが極端に出るし、使い手によってどの様なものになるか大きく異なる。アチーブも使えはするが基本的な魔弾としてしか使えない。


ケレスが語るその先輩がどのような魔術を使うかルーゼは気になったのだ。と、考えるとケレスが


「ああ、実は今日もこの任務に同行しているんですよ。」と、いった。


「・・・大丈夫なのか?それ、こんなとこで私と駄弁っている君が怒られないかい?」


「あ、・・・・・・すみません。じゃあ、ルーゼさん、そろそろ僕は失礼します。」


「そうか、じゃあ私も今日これくらいにして宿に戻るとするよ。」


そうして、ルーゼとケレスは再び共に歩き出す。目的地は違うが、どうせ途中までは同じ様な道だ。そして、幾つかの道が交差している小さな広場に出る。


その左側にある家屋の、あるものを見て、ルーゼは驚愕する。


「ルーゼさんの宿はここを左に曲がった方向にあると思います。ただ、僕は真っ直ぐ向かうので・・・・ルーゼさん?どうしましたか?」


ケレスの言葉が耳に入ってない様子で、ある一点を見つめていたルーゼに対して、ケレスはどうかしたかと呼びかける。


「・・・!ああ、何でもないよ。それで、ここを左だったっけか?」


「ええ、そうです。ただ、僕は真っ直ぐ進むのでここでお別れです。」


「ああ、そうかい。お疲れ様、また会おう。」


「ええ、また今度。」


そう言って、ケレスを見送った後にルーゼは今見つけたそれに笑いながら近付いていく。


「フフッ、まさか本当に残っているだなんてな。」


それは、住宅街の中にあるなんて事はない小さな家。今も誰かが住んでいるのだろう、閉じたカーテンから光が漏れている。


ルーゼが見つけたかったのはその家の玄関のドアに飾られている、短剣を模した飾りであった。知らぬ人からすれば大した物ではない、おそらくこの家の人も他の家に語ることはなかったのだろう。誰かが注目しているような感じではない。


しかし、ルーゼにとっては自身がローズと共にあった一つの証拠の様なものであった。


「・・・ローズ、ありがとう。」


その言葉が適切であったかは、本人にも分からない。ただ自然と零れたその独り言を言った後。ルーゼは満足気にその場を去り、宿に戻るのであった。






────── いつかの、この大陸であったこと。 ───────




「おお、起きたか? 私が分かるかい?」


疲労と空腹で倒れた白い髪の若い男が目を覚ますと、真紅の美しい髪を短く切った若い女性がその男を覗き込み、意識を確認する。男はその顔を見て自分の状況を整理し始める。


「・・・あ、ああ、あんたは・・さっきの?・・俺は、ここは?」


「落ち着いて? まず、君は私に抱えられて賊から撤退する最中に気を失ったんだ。そして、ここは色々あって私が居候させて貰っている民家だ。」


どうやら、気を失っていたらしい。


「ああ、生きているのか・・・。」


「そうだ、無事、とは言い難いが生きてくれて良かった。」


「・・・・・・・ああ、ありがとう。本当に助かったよ、俺一人じゃ逃げ切れなかった。」


そう男は頭を下げて礼を言う。女は笑いながら、


「うん、良かったよ。そうだ、今からお婆さんに頼んで君のご飯を持ってくるよ。」


「いや、遠慮するよ・・。申し訳な─────」


と、断ろうとした男の言葉を、他ならぬ男の腹の音が遮る。それを聞いた女は吹き出して笑い、


「ハハハッ、お腹の方が正直だな!待ってて、今持ってこよう。」


「ああ、すまない。正直、助かる、もう、何日もまともに食ってないんだ。」


その女が家主のお婆さんに頼んで作ってもらった暖かいスープを、男は啜る。


「・・・・・美味いな。本当に体に沁みる。」


「そうか、良かった。・・・所で、どうして一人であの山を、それにそんなボロボロの状態で移動していたんだい?」


「・・・すまない、今はあんまり話したくはない。また後で話すから・・・・。」


その男の声色に、何か尋常でない事態があったのだろうと考えるが、後にすることにする。


「・・・そうか、じゃあ止めておこう。では、次だ、私と会った時に、使っていたあの術は何だ?()()()と、似ていたが。」


女の質問に、男はドキッとしたのか、身が固まる。しかし、スープで体が温まり落ち着いたのか、静かに答える。


「俺の地元に伝わっている、魔術、と呼ばれるものだ。でも、君も使えたし、珍しいものではないんじゃないのかい?」


この女も男を助ける際に、炎の魔術を剣に纏わせ戦っていた。男はそれを思い出し尋ねる。


「・・・実は、私以外に、あのような力を使える者を見たことがないんだ。それで、君が使っているのを見て気になったんだ。」


「・・・!? そうなのか!?知らなかった・・・・。」


「そうだ、幼い頃は苦労したよ。不意に暴発して家を燃やしちゃったり、珍しいからって、いじめられたり。」


「そうなのか、・・・苦労したな。」


「今のボロボロの君に言われたくないが・・・ありがとう。ただ、悪いことだけでは無いぞ?この力のお陰で人を救えるのだから。この家の人も、竜族から助けたんだ。」


「・・・・竜族、か。」


女の言葉に男が怒りの表情を浮かべる。(成程、竜族に何かされたのか・・・。)と、女は察するが、今は触れないでおくことにした。


「ああ、それで、断ったんだが、押しに負けてこの家に居候させて貰っているんだ。」


「いや、じゃあ、俺は・・・・。」


「大丈夫、許可はちゃぁんと、貰っているから、安心して療養するがいい。」


「いや、でも・・・・・・・・・。」


男は後ろめたさを持つ。本当は、生きるためになりふりなんて構っていられない。だが、自身を助けてくれた恩人に迷惑をかけたくないと、彼が元来持つ善性が躊躇いを生ませた。それに対して彼女は、


「良いんだ。」と、きっぱり言い切る。そして、「どうしてもと言うなら」と、付け加える。


「私に、君が使うその魔術とか、色々教えてくれないか?あと、この家の家事のお手伝いをしてくれればそれでいい。どうだい?まだ、そんな後ろめたいか?」


「・・・・いや、いい。君の優しさに、甘えさせて貰うよ。ありがとう。」


「そうか、じゃあ、これからよろしく。ああ、そうそう、私は『ローズ』、君は?」


女・・・ローズはそう言って、手を差し出す。


「『ゼーレ』だ、よろしく頼む。」


男・・・ゼーレはその手を受けて、握りしめる。




これが、二人以外知らない、皇帝と大賢者の出会いであった。



─────── 一ヶ月後 ───────



「では、お世話になりました。」


ローズがそう言って、その家の主人であるお婆さんに挨拶をする。ゼーレの魔術もあり傷も完治し、そのゼーレはローズに連れられて、旅に行くことになった。


「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございました。」


そう言って、そのお婆さんは深々と頭を下げる。ローズはそれを見て微笑んで、


「お婆さん、ささやかなお礼ですが、こちらを。」


と言って、何かを差し出す。短剣をモチーフにした飾りものであった。


「「これは・・・・?」」


それが何を意味するかを知らぬお婆さんとゼーレは、ローズにそう尋ねる。ローズは微笑みながらその疑問に答える。


「私の故郷での文化ですが、短剣を模した飾りはこの家に寄る災厄を切り払う。と言う意味があります。あくまで気休めかも知れませんが、これをお守りにして下さると嬉しいです。」


それを聞いたお婆さんは優しく微笑んで、


「・・・ありがとうございます。・・我が家で、大切にさせて貰います。」


と、返す。ローズは嬉しそうに微笑んで、改めてお婆さんに礼を言う。


「はい・・・ありがとうございます。それでは、ありがとうございました。」


「私からも、ありがとうございました。」ゼーレも彼女に続いて礼を言う。


「ええ、ありがとうございました。行ってらっしゃい。」そう言って、お婆さんが送り出してくれる。そうして、二人は旅に出た。





「短剣・・・ね。」ゼーレがそう独り言ちると、それに反応したローズが


「なんだ、お前も欲しかったか?」と、揶揄う様に言ってくる。この一ヶ月で二人はかなり打ち解けている。その為、お互いに時々からかうようなこともしていた。


「いや、いらん。」ゼーレは素っ気なく返す。


「な!そんなきっぱり言う事ないだろう。」


「あのお婆さんとはお別れだからわたしたのだろう?だが、私達はこれでお別れって訳でも無いだろう?だから要らない。」


「・・・フフッ、成程そう言う理屈か。別に、お別れでなくても渡すときは渡すぞ?だがまぁ、確かに、今お前に渡す必要はないな。だって・・・、」


「だって?」


「私がお前の短剣になればいい、だろう?私は現状、君よりも強いし、これからは共に旅をするのだから。違うか?」


「・・・・短剣か?お前の場合、唯の怪物・・・・」


「何だと?」


「何も?まぁ、兎に角、これからよろしく。ローズ。私も、君の短剣となれるよう、努めよう。」


「・・・・ああ、よろしく。」




読んでいただきありがとうございます。


ゼーレとローズの過去話ですが、本当は一ヶ月の間に色々あったのですが、今回は詳細を伏せさせていただきます。その為、今話だけでは色々不自然に感じると思います。


忌避なき意見と感想を是非お願いします。(誹謗中傷はおやめ下さい。)

ブックマークなどをつけていただけると、本当に嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。




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