第十七話 路地裏のお店
・・・・話づくりって難しいですね。
キャラのセリフとか行動理念とか・・・。
─────── 5月15日 夕方 ────────
その日、ルーゼは帝都の東部に広がる住宅街を散策していた。ケレスとニーナと食事をした2日後、予定通り東部の住宅街に拠点を移したのだ。住宅街での生活も今日で3日目である。
町に住んでいる人間たちの生の生活を見るのは、非常に面白いものである。そして、それは同じ帝国内でも街や領地を超える度に随分と様変わりする。
帝都グレンミューリは、帝国最大規模の街だ。当然、帝国内で最大の人口を持ち、少し街を散策するだけで様々な人間を見ることができる。
広場を走り回る幼子にそれを見守る母親。町工場やそれぞれの店で働く者、外に出て自分が働いている店に誘う呼子。昼間っから酒を飲み明かす酔っ払い共や、若干ガラの悪い兄ちゃん達、そして治安維持の為に巡回警備を行っている魔術師団や騎士団。また、路地裏の奥を覗くと、家なき浮浪者もぽつぽつといる。
どの街でもそうだが、特に帝都ではそれらの様な人間たちによって、帝国の法律とはまた違う、独自の秩序が形成されている。
ルーゼは、住宅街の中にある細い路地を歩き回ながら、何か面白そうな店か何かないかと周囲を見渡す。決して大衆向けではないが、マニアが好む様な珍しい物や人を取り扱う店は大体こういった、人目に付きにくいところにあるものだ。
そんなことを考えていながら歩いていると、ルーゼの目にあるものが目に留まる。
(・・・おや?)
背の高い女性が鼻歌を歌いながら店の前を箒で掃除していた。別にそれ自体が珍しいことでもなく、特段ルーゼの興味を引くようなものでもない。ただ、その人に妙な違和感を感じた事がルーゼの目を惹いたのだ。
元々歩いていた方向なのもあり、その人の方へ歩いて行く。
ルーゼが近寄ってきたことに気付いたその人は、ルーゼの方へ向き、言う。
「あら、ごきげんよう。どうかしたの?」
やや低めの声で、その人はそう挨拶してきた。
「ああ、いや。何をしているのかと思ってね。」
「 ? 見ればわかるでしょ?私の店の前をお掃除していたのよ。丁度、お客さんもいなかったしね。あ、そうだ、もしお兄さんさえ良ければうちの店寄ってく?」
「・・・ああ、そうさせてもらうよ。」
「そう、じゃあ、いらっしゃい。」
そう言って、その人はお店のドアを開けて中に入り、ルーゼを案内する。
(ああ、この人、そうか・・・・)
間近でその人を見て声を聴いたことで、ルーゼの違和感が確信に変わる。この人の顔や仕草は女性と見紛うほど綺麗だ、しかし細身ではあるが、よく見ると全体的に体つきががっしりしており、さらによく見ると薄っすらと喉仏も見えた。
つまり、女装した美男子だろう。
(まぁ、いいか。)
少数でこそあるが別に気にすることでもないし、指摘されたくない可能性もあるので、ルーゼは特に触れることなく店内に入る。一応、女性として扱うことにしておこう。
店内は数席のカウンター席が並んでおり、カウンター席の向こう側にある棚には、沢山の酒の瓶が置いてある。それと、しっかりと料理を出すこともあるのだろう、簡単な厨房も兼ね備えている。
さっきまで珈琲豆を焙煎していたのだろうか、店内に珈琲豆の甘くフルーティーな香りが充満していた。そう言えば、さっきからほんのりと香っていたな。そんなことを考えて
「いい匂いですね。コーヒー豆の焙煎をしてたんですか?」
ルーゼがそう言うと、カウンターに入ってエプロンをした彼女は微笑んで
「ええ、そうよ。気に入ってくれてありがとう。それで、何を飲む?」
「ああ、じゃあ、まずコーヒーを一杯いただけるかい?」
「ええ、用意するわね。あ、そうそう、今から挽くのだけれど、ドリップペーパーを使うから中挽きにするつもりだけど、いいかしら?」
「ああ、大丈夫だ。」
「ありがとう。」そう言って、彼女は早速作業に入った。コーヒーミルを用いて豆の大きさを確かめながらも、豆の劣化を防ぐためになるべく早めに挽いていく。
豆を挽き終わってから彼女はコーヒードリッパーのスタンドをセットし、紙を巻いて置きそこに挽いた豆を移す。そして予め用意しておいたお湯をゆっくりと注ぐ。そこから抽出されたコーヒーがポタポタとサーバーに落ちていく。
ふと、お湯を注ぎながら彼女がルーゼに聞いてきた。
「そう言えば、貴方お昼もう食べた?」
「いや、私はまだだ。」
「そうなの?実は私もまだなんだけど、よければ一緒にどう?勿論タダだよ?」
と、彼女は楽しそうに提案してくる。ルーゼは一瞬、大丈夫なのか?とは思ったが、彼女は純粋な善意でそう提案しているようなので、素直にそれにあやかることにした。
「いいのか?それなら是非ともお願いするよ。」
「そう!ならソーセージをマフィンで挟んだものと、軽いサラダでいい?」
「ああ、頼むよ。」
そして、彼女はコーヒーを抽出し終えてから、火の魔術を用いて釜に火をつけて暖め始めた。そしてサーバーのコーヒーを二つのマグカップに注ぎ、ルーゼに出す。
「はい、お待たせしました。コーヒーね。ご飯の方は今から用意するわね。」
「ああ、ありがとう。」
そうして、ルーゼは差し出されたコーヒーに口を付けて啜る。
その瞬間、コーヒーの香ばしくスパイシーないい香りが口と鼻いっぱいに広がる。きめ細かな口当たりがとても良い。味の方はというと、彼女の好みなのだろう、普通のコーヒーと比べて苦みが強いがそれがコーヒーの味わいの深みをより引き立たせる。味わいこそ深いが、決してくどくなく、後味はすっきりとしている。
「・・・・おお!美味いな!」
ルーゼは素直にこのコーヒーを作った彼女を賞賛していた。彼女のこだわりがよく出た、美味しいコーヒーだった。
「あら、そう!ふふっ、ありがとう♪」
マフィンとソーセージを焼いてる間にサラダを盛り付けていた彼女は、そう嬉しそうに可憐に笑う。意識して見なければ男には到底見えないほどの素敵な笑顔で。
(・・・なんか、アレを思い出すな。あん時は逆のパターンだったけど。)
彼女の笑顔を見て、ルーゼは昔のある出来事を思い出していた。すると、彼女が出来た料理を持って来てルーゼの隣の席に座る。
「どうぞ♪ 簡単なものだけど。」
そうして彼女はルーゼの前に皿を出す。分厚く切ったソーセージと軽く溶かしたチーズを、焼いたマフィンに挟んだ物と、レタス、アボカド、そして予めボイルして置いた海老を盛り付けドレッシングをかけたサラダの二つだ。
「・・・いいのか?タダにしちゃ随分と贅沢な気がするんだが・・・。」
と、ルーゼが戸惑いながら彼女に聞く。もう少し簡素なものだろうと思っていたので、素で驚いていた。どう考えてもタダで貰っていいラインナップではない。
「いいよ、余りに質素だと寂しいでしょ?それに、私も食べるんだから遠慮はいらないわ?」
そうして、彼女はマフィンサンドを食べる。「美味しいよ?食べなよ。」といって、ルーゼの方を見てきた。そう言われたのもあり、彼女の善意に甘え、ルーゼはマフィンを食べる。
「うん!美味いな!」
「そうでしょ?良かったわ、だって私が作ったんだもん。」
「そうなのか!?・・凄いな。」
ルーゼは驚いて、そのマフィンをまじまじと見る。
「趣味なの、こういうのを作って、人に振舞うのが。」
と言って、笑いながらサラダにも手を付ける。ルーゼはそんな彼女を人として素直に尊敬していた。そしてふと、彼女がルーゼに聞いてくる。
「そう言えば、貴方どっから来たの?ここの住人じゃないでしょう?」
「!? 何故分かった?」
そんな事を言った覚えは無いし、そのような素振りを見せた覚えもない。なぜ彼女がその事に気づいたのか。ルーゼは警戒しながら、彼女に問う。
「うーん、何となく、ね。ほら、私もなんやかんや帝都に26年住んでるのよね?で、そうしていると相手が他所から来たかどうか、何となく分かっちゃうのよ。ま、それだけよ。」
ルーゼは、彼女の表情と仕草、声色等を注視する。どうやら、本当のようだ。ルーゼはここで警戒を解いて。
「・・・そうか、ならいいさ。実を言うと長いこと旅をしていてね。何処から来たかって言われると答えにくいな・・・・。帝都には1か月くらい前に久しぶりに来たんだ。」
「へぇ、そうなの?やっぱり、久しぶりに来た人からすると、帝都の雰囲気って変わったように感じるかしら?」
「ああ、ガラッと変わっていたな。特にこういう住宅街もここまでの過密では無かったし、道もこんな狭くなかったような気がするなぁ。」
500年振りってのも勿論あるが、実際にそう感じたので正直にそう答える。
「あぁ、確かにねぇ。私たちが子供の頃よりも、改築工事で狭くなったのよねぇ。衛生面は結構考えてくれているようだし、悪い事だけじゃないけれど、少し窮屈になったわ。魔術師団とかが頑張ってはいるけど、やっぱり治安も悪くなったしさ。」
そう言って、彼女はコーヒーを啜り、軽く溜息を吐く。しかし、すぐに元の明るい声に戻り。
「あ、それなら、なんで貴方また帝都に来たの?」と、聞いてくる。
「ああ、ほら、今年の10月にある『500年祭』、あれを目的にまた戻って来たんだ。」
「ああ、やっぱりそうなのね!私も楽しみにしてるの!ほら、最近帝都に色んな地方から人が来ているのよ。だからひょっとしたら貴方もそうなんじゃないかとは思ってたわ!」
「おお、君も知っているのかい?」
「当たり前でしょ? 帝都に住んでいる人で知らない人なんていないわよ?もしかして、馬鹿にしてる?」
「いや!そんなつもりじゃなかったんだ!すまない。」
「冗談よ。それより、どう?一緒に回らない?・・・なーんてね、冗─────。」
「あー、いや、一緒に回る可能性のある奴がいてだな・・・。」
「はぁ!? あんた、そんな人がいるの?一体どんな人!?」
「内緒だ。」
「えぇ!?教えてよー。」
揶揄う様に笑いながら言うルーゼに彼女は不満そうに声を上げる。
そんなこんなで話している内に、ルーゼはあることが気になり、左柄にある店の入り口に目をやってしまう。すると、それに気づいた彼女が自嘲気味に呟く。
「ふふっ、お客さん、全然来ないでしょう?流石に、気になるわよねぇ。」
「あっ、いや、そんなつもりじゃ・・・。いや、すまない。」
「いいよ、こんな昼間の路地裏のお店にくる人なんて滅多にいないわよ。それに、店主がこんなんだしさ。そりゃ、余計に人が少なくなるよ。」
「・・・こんなん?」
と、ルーゼが聞く。
「貴方も分かっているでしょう?私、男なの。あんま普通じゃないからさ、たまーに来る人たちもみんな普通だからさ、断られちゃうのよね。」
「・・・・そうなのか。」何と声を掛ければいいかルーゼが考えている内に、彼は続ける。
「まぁ、気にしてないけどね。私は今が楽しいし、私はこれが私だし、無理して人に受ける必要もないさ。」
と、気丈に振舞うが、少し悲しそうな顔をして、
「ごめんね?こんな話しちゃって・・・・今日は・・・」
彼女の言葉にルーゼは割り込んで言う。
「なぁ、・・・俺はそういうのはよく分からないし、君にとやかく言う権利もないと思っている。けど、少ないながらも・・・・あぁ、すまない、やっぱり何て言葉を言えばいいのかが分からない。」
決して、ルーゼの経験が浅い訳ではない、500年も生きた中で多くの人間を見てきたし、中にはこういった人間もいた。しかし、そう言う者たちは千差万別で、悩みも千差万別なのだ。その人達が言ってほしい言葉もそれぞれ違う。多くの人間を見てきた事が、逆にルーゼの言葉を詰まらせてしまった。
だが、それでも、何とかして沈黙する彼に言葉をかけようと、ルーゼは続ける。
「でも、これだけは言わせてくれ。俺は君のそう言うのが全く気にならなかったし、何なら君のことが気に入ったから、また来たいと思っている。そう言う人もいるから、君はこれからもこの店でそんな人達を大切にして、元気にやっていって欲しいんだ。」
それを聞いた彼は、少しだけ黙ってルーゼを見つめた後、突然吹き出す。
「フフッ、アハハッ!急にどうしたの?告白?」
「・・・いや、違う。」
「フフッ、ごめんなさいね。冗談よ。でも、ありがとう。元気でたわ。」
と、再び笑顔で笑う。彼女が気を遣っている、という表現ではない。
「・・・そうか、なら良かったが。」
「うん、本当にありがとう。それに、今が楽しいのは本当だよ?」
「そうなのか?」
と、ルーゼの疑問に彼女は笑って答える。
「ええ。私の夢だったお店を開くことは出来てるし、それに、昼間はともかく、夜はこの店も結構繫盛するのよ?」
「夜が?」
「この店ね?昼間はこんな風に喫茶店みたいな感じだけど、夜はお酒メインのバーをやってるの。やっぱり、仕事終わりの酔っ払いとか、そういうのが好きな人達が結構来るのよ?」
「へぇ、そうなのか、面白そうだな。」
彼女が言った夜のこの店にルーゼが興味を示す。それを見て彼女は得意げになったのか、さらに続ける。
「後ね、たま-になんだけどね、ちょっと凄い人が来るの。」
「凄い人?」
「うん。具体的には内緒するけど。なーんか気に入ってくれたのか、気まぐれに深夜に寄って来るの。毎回沢山飲んでって、べろんべろんになって帰っていくのよね。それがもう可愛くって♪」
と、楽しそうに笑う。
「そうか、気になるな。」
「深夜、2時くらいに来てくれれば、偶々いるかもね。そん時に会えたら紹介するわ。」
「そうか、ありがとう。また来るよ。」
「ええ、楽しみにしてるわね♪」
そうして、ルーゼは店を出るために席を立ち、財布を取り出す。
「あ、今日は全部サービスでいいわよ。」
「・・・いいのか?」
「勿論!楽しかったし、嬉しかったから今回は特別にね?また来てくれるでしょう?」
ルーゼは彼女の好意に甘えることにした。申し訳ない気持ちも当然あったが、彼女の好意を無下にするのも良くないだろう。
「・・・ああ、じゃあ今回は甘えさせて貰おう。」
と言って、店の出口に歩いて行く。しかし、ふと忘れていた事を思い出して振り返る。
「そう言えば、まだ、名乗ってなかったね。私はルーゼだ、よろしく頼むよ。」
「ふふっ、確かにそうだったわね。ルーゼね?私はファルベ、ファルベ=ウェヌス。よろしくね。」
「ああ、よろしくな、ファルベ。また来るよ。」
「ええ!待ってるわ~!!!」
そうして、ルーゼは店を後にした。
(深夜の店ってのも気になるし、”凄い人”ってのも、気になるものだな。フフッ。)
帝都での生活の中でまた一つ楽しみができた。そんな事を思いながら、上機嫌に帝都の住宅街を再び練り歩くのであった。
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