第一話 不審な男
第一話はアチーブ目線でのストーリーです。
ただ、基本的には不審な男のストーリーです。
私、アチーブは困惑していた。
生まれながらにして膨大な魔力量、出力を持っていた私は平民ながらも今年の春から中央学院への入学が決まっていた。だからこそより一層魔術の鍛錬を重ね、中央学院に向かう移動を始めるまで後2週間となっていた。
しかし最近、この町では見かけたことがない男が毎日のように自分の魔術の鍛錬を見ているのだ。本当それだけなのだ、その時間だけ見ているのだ。はっきりと言って気持ち悪い。
だから、今日も来ていたらはっきりと言ってやる。
やはり今日も来ている。相も変わらず自分の鍛錬を見ているだけだ。
ひと段落ついたので男の方へ向かい言う。
「すみません、貴方最近ずっと私の事を見ていますよね?それも魔術の訓練の時間だけ。何が目的なんですか一体、はっきり言って気持ち悪いです。」
すると男は少し固まった後、口を開き
「・・・申し訳ない。町の人達が君の事を話してくれてね、優秀な魔導士だと。それで君の魔法に興味を持ったもので見ていたんだ。訓練の邪魔になっては悪いから見るだけにしていたのだが・・・。気を悪くしたのならすまなかった。」
そんな馬鹿な話があるか、と思うには男の目は余りにも純真だ。少しだけ信じる体にして私はもう少し質問を続ける。
「・・わけがわからないんですけど・・・。もしそうなのだとしたら、貴方も魔導士ってことですか?私の魔術に興味をもったということですね?」
「ああ、そうだ。私は魔術が好きでね、使うのも見るのも学ぶのも。特に君のような若い子の使うものは格別に面白くてね。青さと未熟さの中から輝くものを感じる。だからこうして見ていたんだ、そうだな君の場合・・・」
「待って下さい!・・・はぁ、わかりました。噓はついていないのですね。ですが、ずっと見られていると気が散るんですよ。なので出来れば控えて頂きたいほしいです。」
「そうか・・・しかしそれでも見たいのだが・・そうだ、ならばこれはどうだ?私はこれでも魔術の腕には自信があってね。君に足りないものや欲する知識や技術を教えよう。その代わりに君の訓練を・・」
「お断りです。」
「なぜ?」
なぜはこっちのセリフだ、なぜ驚いてる。本当に意味が分からない。
「当然でしょう、意味が分かりません。仮に貴方が優れた魔導士だとしても、なんで初対面のあんたの提案を受け入れなきゃならないのですか。そもそも私からしたら貴方はただの不審者なんですけど。」
「それもそうだな。では信頼を得るために君の悩みを当てて見せよう。君は魔力の出力の制御が出来ない事を気にしている。魔導書や杖をよく壊してしまっているだろ?」
今度は私が面喰ってしまった、その通りだ、なぜわかった。気味が悪い。
「なぜ分かったか、理由が気になるね?実は私は他人の魔力の流れなどを完璧に見ることが出来る。ここ数日の訓練を見ているとどうも君は魔力を無駄に乗せてしまっているのが殆どだったんだ。一応、努力はしているみたいだがね。魔力の一部の流れが抑えようとしているのが見える。」
啞然とした。自分のならともかく、他人の魔力の流れを完璧に把握するのは至難の業だ。もしこの男の言う事が出任せでないのなら、この男は本当に相当な実力をもつ魔導士となるだろう。
私も魔導士の駆け出しだ、流石に無視できなくなってしまった。
「もう少し・・詳しく話してもらえますか・・・?」
「お、漸く聞く耳を持ってくれるか、ありがとう。だがこれについては言葉よりも実践で身につけて行った方が効率がいい。」
そう言って落ちていた一本の木の枝を持つ。
「取り敢えず、これを杖に見立ててやってみよう。やり方は単純、これに魔力を込めて射つ。但しこれを壊さないようにね。先に手本を見せよう。」
そう言って男は木の枝を媒介とし自分の顔より大きな火球を出しそのまま虚空に打ち上げそして、消す。魔力の流れは私には見えなかったがそれでも一切の無駄がないのはわかる。
すごい、そう思わされた。
「とまぁ、こんな感じ。すぐに出来る様になる必要はないさ。さぁ、早速やってみよう。」
そう言って別の枝を私に差し出す。私がそれに魔力を込めた瞬間その枝跡は形もなく砕けた。失敗した理由は明確だ、魔力を込めすぎなのだろう。
しかし、それでも最低限の魔力で打とうとしたのだが、結果はこれだ。
「・・・すみません。これ相当厳しいのですが・・。」
「うん、まぁ最初はそんなものさ。それを少しでもいいから毎日の訓練の時間に組み込んでみよう。大事なのは即効性もだが結局は継続によって定着する力だ。」
「はい・・。それで、他にすることはあるでしょうか。」
「後は日々の訓練に私が色々口を挟むくらいかな。まあそんなに気張ることなくやっていこう。」
「はい、お願いします。」
いつの間にかこの男のペースに乗せられて魔術を教わることになっているが、まあいいとしよう。害意は無さそうだし、この男の魔術の技術と知識は恐らく本物だろう。
「後は…そうだな、自己紹介がまだだったね。私は・・”ルーゼ”だ、よろしく頼むよ。」
「ルーゼさんですね、私はアチーブです。よろしくお願いします。」
こうして私は出発までの2週間、ルーゼという男から魔術を教わることとなる。この男との関係はそれだけだと思っていたのだが、、、まさか、これから一生の縁となるとは、この時は私も彼も想像していなかった。
読んでいただきありがとうございます。
これからも不定期に更新していきたいと思っています。
まだまだ慣れないので拙い部分もあると思いますが、優しく指摘していただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。