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第十六話 手紙





─────── 5月10日 夕方  ────────


ルーゼはこの日、帝都魔術師団の事務所を訪ねていた。ケレスが所属している、5つの魔術師団の中で二番目の事務所、通称「帝都魔術師団・第二」である。


ケレスに渡されたメモに乗っ取り彼の寮にいったのだが、仕事だったのだろう、彼はもういなかった。メモには「もしいなければ事務所に問い合わせください。」そう書かれていたので、それ通りに魔術師団の事務所にきたのだ。


「ケレスさんですね?彼でしたら、午前中で今日の勤務は終了となりますので、この後会えると思います。良ければ、そちらでお待ちください。」


「ああ、ありがとう。そうさせてもらいます。」


受付のお兄さんに確認を取ってもらい、ルーゼは事務所のロビーのソファの一つに腰を掛け、ケレスを待つことにした。



──── 15分後  ────



「ルーゼさん。こんにちは!お待たせしてすみません。」


と、待させてしまったと詫びる。勝手に押し掛けたのはルーゼだというのに、少し申し訳なくなってしまった。


「いやいや、大丈夫だよ。こっちこそ、突然すまないね。」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ。この後暇でしたし。ところで事務所にわざわざ来るのは初めてですよね? どうかしましたか?」


ケレスと初めて会ってから、2,3回、彼の早朝の訓練の時に二人は会っていた。しかし、こうしてしっかり時間を取るのはなんやかんやで初めての事であった。


「ああ、君に話したい事と聞きたい事が幾つかあってね。と言っても、大半は大した物ではないがね。」


実際、たったいくつか例外を除き下らない世間話だ。その為実質的にはルーゼがケレスに会うための口実づくりともいえる。


「いえいえ、大丈夫ですよ。それじゃあ、僕の寮にでも移動しますか?」


「いや、折角なんだし、君さえよければ、どこかで食事でもしながら話さないか?勿論、私の奢りでだ。」


「あぁ、いいですね。って、いやいや、悪いですよ。僕ももう立派な大人の一人なんですから、自分の会計くらいは自分で払います。」


(そうか、彼のそういう年齢か。)


ルーゼはつい、ケレスを子供のように考えていた。普通の人間なら彼は立派な大人の年齢だ。とはいえ、奢って貰うのに抵抗感があるだけで、食事自体は賛成のようだ。


「じゃあ、そうするか。早速行こう。店の希望はあるかね?ないなら、私が行きたい店になるが。」


「あ、それじゃあ、ルーゼさん希望のお店でいいですよ。」


「そうかい、じゃあ、行こう。」




────────────────────────────────



しばらくして、目的の店に着いた二人は席に座り、それぞれ飲み物や料理の注文を済ませていた。


そして、注文した葡萄酒と共に前菜である「トマトと生ハムのブルスケッタ」が運ばれてきた。


「「乾杯」」


二人はグラスを合わせて、葡萄酒を味わう。そして、ブルスケッタをつまむ。


「うーん!美味しいですねぇ、僕ね、トマト大好きなんですよ。」


「おお、そうか、それは良かった。因みに、嫌いなものとかあるのかい?」


「あ、実は僕、海老が苦手なんですよね、絶対に無理ってわけではありませんが。」


「ほぅ、海老が?どうしてだい?」


逆にルーゼは海老は好きな部類だ。あんな美味いものをケレスは何故苦手なのか、気になった。


「あの食感がどうしても受け付けられないんですよねぇ、あと、その風味も正直苦手です。昔から何度か挑戦してはいるんですけどねぇ、どうしても克服できなくって。」


「そうか、ちょっと以外だな。てっきりそういうのは無いだろうと思って聞いたのだが。まぁ、確かに誰でも一つくらいあるか。」


「僕にだって一つくらいはありますよ?でも、いい所のコース料理とかだと、割と出てくるから、その時は諦めて食べてます。因みに、ルーゼさんにはあるんですか?」


ケレスは逆に聞き返してきた。当然のことだろう、ルーゼは特に隠すでもなく答える。


「あるさ、甘ったるい食べるかな?特に砂糖を大量に使ったスイーツとか。」


「ええ!?あんな美味しいのにですか?人生損していますよ?」


ケレスは若干オーバーリアクション気味にそう返す。オーバーリアクションではあるが、割と本気で疑問に思っているようだ。


「美味しいのは分かっているんだ。だが、なーんか駄目なんだよなぁ。胃がもたれる、というか、胸焼けしやすいっていうか。酒ではならんのだが。」


「・・・・年では?」


ケレスの指摘にルーゼは自嘲気味に笑う。


「・・・・・・・・・・・そんな悲しいことを言わないでくれよ。」


そんなこんなで話していると、メインの料理が二人の元へ運ばれてきた。ルーゼが頼んだのはタラのバター焼き、ケレスはパイクをグリル焼きにしたものであった。


「ルーゼさんが頼んだ物も美味しそうですねえ!」


「ああ、そうだな。さぁ、早速食べよう。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そこから二人は食事を楽しみながら、お互いの世間話や思い出話で盛り上がっていた。


ルーゼは帝都で見た面白いものや、これまで巡ってきた各地での話、あとはケレスも気になっていたようなので、大図書館で見つけた面白い本の話もした。・・・流石にあの禁忌の物の事は伏せておいたが。


確かに下らない話が殆どだ。でも、友人同士で、しかも酒も入っている。他愛のない話でも充分に楽しいものだ。


「・・・それでだ、ぞの失くし物ってのは結局どこにあったと思う?」


「えー。でもやっぱ、その店にあった、とかですか?」


「外れてはいるが、発想は惜しいな? 正解はな、なんとその行商人が泊まっていた宿に置きっぱなしだったのだ。」


「え!?じゃあ、ただの忘れ物だったってことですか!?」


「ああ、帝都を探し回った挙句これだ。彼女も大馬鹿者だったが、それにその可能性に最後まで思い至らなかった私も間抜けだ。」


ルーゼは先日出会ったうっかり屋の行商人の女性との話をネタにして、ケレスと話していた。若干の脚色を加えてはいるが、極端な噓にしなければ問題ない。それにその方がネタとして話すには面白い。


「いやー、それは大変でしたねぇ。でも、そういうのって結構ありますよねぇ。失くし物をしたと思ったら意外と分かりやすい所に置いてあったとか。それで、その行商人の女性は何か言ってましたか?」


「申し訳なく思ったみたいでな、謝ってきたんだが、その顔がまぁ面白くてな?その綺麗な顔を芸術的なまでに台無しにするくらい口をかっ開いて・・・・・」


「ちょっと!!」 ドンッ!!


ルーゼがそう話すのを阻止するよう、女性の声と共にルーゼとケレスの間に手が叩きつけられる。2人がその手と声の主の方を見上げると、栗色の髪を後ろで一纏めにした女性が怒りと羞恥心を込めた表情でルーゼを睨んでいた。


ニーナだ。


「おぉ!噂をすればご本人じゃないか。ああ、ケレス、こいつがその行商人だ。」


「そうなんですか!へぇ、ケレスです。よろしくお願いします。」


「ニーナよ。よろしく・・・って、そうじゃなくって。なぁに人のことを勝手にネタにして飲んでんのよ!」


と、ニーナは流されそうになったが、立て直してルーゼに問い詰める。それに対してルーゼは笑いながらニーナに対して答える。


「悪い、悪い、振り返ってみれば、あの出来事での君の慌てっぷりは終始面白かったからさ。つい話のネタにもしたくなる。それに、その失くし物を見つけたのは私なのだから、少しくらいいいじゃないか。」


「ぐっ・・・、確かに、そうね。」


自分でもそう思ってしまったのか、ニーナは唸りながらも認めてしまう。


「ただ、君が本当に嫌がるというなら、遠慮なく言ってくれ、今後話さないようにするよ。」


「うぅん、そこまでしなくても大丈夫よ。あぁ、待って、その商品についてだけは話さないでくれるかしら?売るその日までは、秘密にしておきたいの。何があるか、分かったものじゃないからね?」


「ああ、わかったよ、そうさせてもらうよ。」


ルーゼとニーナのやり取りの中に出てきた商品というのが気になってしまったケレスは、秘密にして欲しいというのを分かった上でニーナに尋ねる。


「あ、あの、すみません。その商品って一体どんなもの何ですか?すごく、貴重だってのは分かったんですけど。」


ケレスの質問にニーナはおどけた表情で、人差し指を頬に当てながら答え、


「だーめよ!秘密なの。でもそうねぇ、ヒントをあげるとしたら、あなた達みたいなのが、よーく欲しがるものね。」


と言って、ルーゼとケレスを交互にみる。ルーゼは何とも言えない表情で苦笑いを、ケレスは腑に落ちないといった感じに疑問符を浮かべている。


「うーん、僕たちが欲しがりそうなものですか・・・・・。魔導書とかですか?」


((・・・勘がいいな?))


ケレスの言葉を聞いたルーゼとニーナは内心そう思いながらも、ニーナは表情を崩さずに


「さぁーて、どうでしょうね♪ 気になるのなら500年祭のどこかで私のお店に来て頂戴♪」


と、誤魔化しながら、しっかり宣伝までかますのであった。それに対してルーゼが


「そうかい、楽しみにしておくよ。所で君はこれからどうするつもりだね?」


「どうって・・・・、このでご飯食べてくつもりだったのだけど。まさか、あなたがいるとは思わなかったけれどね。」


「そうか、じゃあ一緒にどうだい?ケレス、良いか?」


「僕はいいですよ。この人の話も聞いて見たいですし。どうでしょうか、ニーナさん。」


ニーナは困惑しながらも、この二人の表情を見る。とても悪意なんて感じられないし、純粋な善意と興味だけで誘っているように見える。多分二人共酒が回っているのもあり、普段よりも心が大きくなっているのもあるのだろうか。ニーナは少しだけ考えてから。


「ええ、いいわよ。折角だし私もご一緒させていただこうかしら。」


と言って、ルーゼとケレスの席にもう一つあった椅子を出して座る。そして、すぐ近くにいた店員を呼び、飲み物と料理を頼む。そして、ふと気になったことがあり、ルーゼに尋ねる。


「ルーゼ、そう言えばあんた前に私があげた女性ものの香水瓶、あれどうしたの?」


「え、ルーゼさん、香水瓶なんて貰ったんですか?」


ニーナの言葉にケレスは怪訝な表情でルーゼの方を見る。確かに、人間的に40歳くらいの外見をしたルーゼがそんなものを貰うのは変な話だ。


「あぁ、アチーブと今度会えた時にでも贈ろうと思ってな。」


「アチーブ?・・誰よそれ?」そう、アチーブの事を知らないニーナが聞いてくる。


「ああ、ニーナは知らなかったな。今年中央学院に入った平民の子でね、私は彼女に魔術を教えるついでに、この帝都に来たんだよ。」


「へぇ~!中央学院に、ね~。平民でだなんてその子凄いじゃない。」


ニーナはそう言って、素直に感心している。


「それで、偶にはまた魔術を教えて欲しい、って言うから、私の都合を彼女に伝えようとしているんだ。」


「アチーブさんからは何かないんですか?」と、ケレスが聞いてくる。


「彼女が何か私に伝えようとしても、私自身が帝都の何処にいるか把握できないから、どうしようもないんだよ。だから、私から情報を伝えるようにしているんだ。」


「ああ、そっか。ルーゼさん、住所不定ですもんね。」


「へぇ~、あんたも中々隅に置けないじゃない!・・ん?待ちなさいよ?」


とか揶揄う様に笑って言いながら、ニーナはルーゼを肘で何度か小突いてきて、何を思ったか、突然非難染みた目でルーゼを見て言う。


「確か、あんたと会ったの二十日くらい前よね?その間何も出してないの?その子、可哀想じゃない?」


「ルーゼさん、それは・・、ちょーっと良くないのではないですか?」


と、ケレスが怪訝な表情でルーゼを睨む。


「そう言うなよ、あまり頻繫に何度もしつこく贈るのも気味が悪いだろう?それに、これからしばらく、同じ場所で生活するからな、今度会えた時、直接贈るのがいだろう。」


「まぁ、貴方みたいなおじさんから何度も手紙がくるってのも気持ち悪いわね。」


と、いつの間にか来ている料理を楽しみながら、ニーナがさらっと失礼な事を言う。一方ケレスは、「これからしばらく同じ場所で生活する」という部分が気になったようで、その事をルーゼに聞いてきた。


「? 何処で生活するつもりですか?」


「帝都の、東部の方だ。そこに拠点をしばらく置くつもりなんだ。」


「え?東部ってそんな長期間滞在するようなものあったかしら?」


帝都の東部は別に寂れているわけではないが、これといった観光スポットの様な物もない。だからニーナは疑問に思ったのだろう。すると、ケレスが、


「確かに、東部は主に住宅街が広がっていますよね。僕はてっきり、ルーゼさんだったら大図書館のある南部にいるもんだと思ってましたよ。」


実際、ケレスの予想通りつい先日までは南部に滞在していたが、図書館内をある程度回ったり上、()()()()を見てしまったのもあり、一旦東部に滞在することにしたのだ。二人からの質問にルーゼが答える。


「そう、住宅街だからこそ、だよ。この帝都も繫栄も、市井の人々がいなければ成り立たないだろう?だから、帝都の栄華を地味ながら支え、懸命に生きる人々の生活を間近で感じてみたい。そう思ったんだよ。」


「あー、一応、理解は出来るわね。私も商売でよくそう言う住宅街に入り込むけど、確かに面白いわよ!」


ニーナは納得したようで、楽しそうにそう言った。一方ケレスはなんだか不安そうな表情をしてルーゼに言う。


「気持ちは分かりますけど、あの辺って西部や南部と比べて、やや治安が悪いですよ?大丈夫ですか?」


確かに、多くの住宅が集まる都合上他と比べてやや治安が悪いのはルーゼも知っていた。


「心配してくれるのは嬉しいが、まぁ、問題ない。余りにも危険な場所にはなるべく寄らないし、マズそうなら結界術とかも使って対処するつもりだから大丈夫さ。」


「そう言えば、あんた魔術師だったわね。でも、そのアチーブって子は大丈夫なの?」


そう言えば以前、ニーナにもルーゼが腕の立つ魔術師であることは言っていた。彼女の心配にルーゼは答える。


「一応、時間を指定して、その時間に東部の住宅街の入り口付近で待ってるようには、伝えておくつもりだ。それと、彼女も魔術師だ。まだまだ未熟だが、自分の身を最低限守ることくらいは出来るはずさ。」


「確かに、そこらの不良相手なら大丈夫でしょうね。でも、一応ルーゼさんも気をつけてくださいね?」


と、ケレスが付け加えてくれる。


「そう、ならいいわ。そうだ、ルーゼ、よければそのアチーブって子や中央学院の子に、私の店を紹介してくれる? いいお得意様にできたら、助かるわ~。」


ニーナはそう言ってきた。つくづくいい商売根性だ。


「ああ、考えておくよ。」




3人でそんな世間話をしながら、なんやかんや盛り上がり、2時間くらい談笑したところで、今回はお開きとなった。






─────── 3日後 中央学院 学院書庫で ───────────


その日、アチーブは本日の授業を終えて、一人、探し物をしていた。


別に学友がいないとかそういう訳ではなく、むしろ学校内での人間関係はかなり多い部類だ。中央学院に入ってから一ヶ月弱、ありがたいことに多くの友人に恵まれて、楽しい学院生活をおくれている。


書庫にいるのは、ルーゼから渡された「ルナポース」の魔導書の解析をする為。


しかし、数多の書物がある学院書庫から、ヒントに繋がる物を探すのは困難であった。全くと言っていい程、手掛かりは見つけられていない。


(はぁ、全く分かんないなぁ、もう少しルーゼさんもヒントをくれたらなぁ。・・・それに、手紙もくれないし。)


そんな事を考えながら、本棚から取り出した本を読みこんでいると、


「こんな所にいたか、アチーブ。感心だな。」


と、男の声がかかる。その方向に振り返ると、灰色の髪をした若い男性が立っていた。


今年から学級担任をするようになり、アチーブの担任教師のカルム=ブラット、である。元々は平民出身で中央学院卒業生だったそうだ。


「カルム先生、どうかしましたか?」


「君に渡したいものがあってね、君の寮の部屋にに投函しても良かったが、直接渡しておきたかったんだ。」


「ありがとうございます。お手数をおかけしました。それで、それは一体・・。」


「帝都の役所から手紙が届いてね。」


「!!!」(もしかして・・・・!)


「差出人は・・・、そうそう、『ルーゼ』だ。・・・確か、君が以前言っていた魔術の師匠だったな。・・・・アチーブ?どうしたんだい?」


アチーブは何故か安心した表情で笑い出したのだ。カルムは突然笑い出すアチーブを前に(何か不味いことをしたか・・?)と戸惑う。


「フフッ、すみません。それは私宛の手紙で大丈夫です。忘れられてなくって安心しましたよ。」


「そうか、何のことかよく分からないけど、・・・・よかったね。はい、どうぞ。」


「はい、ありがとうございます。」


そうして、アチーブは先程まで座っていた席に戻り、早速封を切り、中身を見る。その中には近況の話と、今後の予定と、会える時間帯と場所を指定していた。そして、最後には「また会う時を楽しみにしている。」と書かれている。


(フフッ、良かった。ちゃんと覚えてくれていた。)


あの日、ああやって約束こそしたが、どうしても不安であった。だからこうして、本当に手紙が届いたことにアチーブは安堵したのであった。


(よし、少しでも成果を見せれるように頑張らなきゃ。)


そう思い、先ほどよりも更にやる気の上がったアチーブは、再び魔導書の解析を始めるのであった。


帝都グレンミューリ(中央街)東部:

行商人や騎士団などが多い西部や、貴族の別荘や魔術師団の事務所が多い南部とは異なり、主に平民たちが暮らす住宅街が広がっている。(勿論、西部や南部にも平民は住んでいる。)

市井の人々の生の生活を体感できるが、ほかと比べてやや治安が悪い。(それでも、騎士団や魔術師団が巡回しているため、それなりには安全。)


アチーブの学院生活についてはまた、何処かで書いていきます。(外伝のような形になると思います。)


読んでいただきありがとうございます。


忌避なき意見と感想を是非お願いします。(誹謗中傷はおやめ下さい。)

ブックマークなどをつけていただけると、とても嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。




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