第十五話 帝都大図書館
今回少し短めです。
──────── 4月30日 夕方 ────────
この日ルーゼは、帝都の大図書館にいた。と、いうのもこの一週間、開館時間から閉館時間までずっと入り浸っている。
”帝都大図書館” ルーゼが帝都を出た後の時代に建設されたものであり、500年の間に製作された書物が分野を問わず大陸中から集められている大図書館。
分野を魔術関連に絞ったとしても、10年かけても到底全てを読破できないほどの量がある。と言ってもルーゼにとっては殆ど見たことのある物ばかりだが、見たこともない本も多くある。それがルーゼにとっては堪らなく楽しく、まるで楽園の様な施設であったのだ。
ルーゼは今日、図書館内の地下書庫で書物を漁っていた。古い資料や貴重な資料を保管する倉庫のような場所であり、一般の利用者が立ち入るには図書館の許可が必要な上、図書館を警備している帝都魔術師団が見張りにつく。
(仕方ないこととは言え、見張られているとやりにくい・・・。)
実は先程、ルーゼは見張りの魔術師に話しかけにいったのだが、
「書庫に入る者との私語は禁じられていますので、ご遠慮下さい。」
と、断られてしまったのだ。何らかの形で懐柔されたりするのを防ぐためにそういう決まりになっているのだろう。ルーゼとしては分かってはいたことだが、バッサリと断られたのは少し悲しかった。
(いやしかし、どれもこれも懐かしいな。)
ルーゼからすれば、殆どが見たことのある本だし、何となくではあるが出来た経緯や時代背景も当事者目線で覚えている。ルーゼは昔の思い出を掘り返すようにそれらのタイトルを見て微笑んでいた。
中には、滅竜戦争のころに出来た物もあり、酷く劣化しているが、辛うじて読める。その内容は当時のルーゼが戦った戦争を、当時の民草目線で語った話が百個近くにも渡って書かれていた。
(作者は・・・、私が知らん人だな。恐らくこの人は旅の吟遊詩人かなんかだったのだろう。)
その中には、竜族によって家族を失くした者たちの嘆きや、皇帝ローズに救われた話。人間の連合軍との思いでなど、様々な逸話が描かれている。
(・・・・っあ。)
掠れた文字ではっきりと 「ゼーレ」と書かれているページを見つけた。
流石に無視できず、恐る恐るその箇所を見る。
そこには、まだローズと二人きりで旅をしていてた時のゼーレの逸話が載っていた。
(ふっ、ははっ。そーいや、こんな事もあったな。いやしかし、よくこんな話をこの作者は入手したな。)
苦笑いをしながら、当時の事を思い出す。
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「結局、この少年の悪戯が元凶だった、て訳だな。どうする? ローズ。」
当時、まだ出会って一年と少しのローズとゼーレは、立ち寄った村で
「竜の咆哮ような音が、夜な夜な聞こえる。今の所それだけだが、もし本当に竜族がこの地まで来ているのならば逃げなければならない。だから、調査して欲しい。」
という、依頼を受け、報酬と引き換えに調査を行っていた。
だが、真実は少年が自作した楽器で、あたかもそんな音を演出していた、というオチであった。
しかも、それだけでなくそれを暴き現場を抑えた二人とその少年を、音を聞きつけた竜族が本当に襲撃をかけてきたのだ。幸い、一切の被害なく撃退できたが、そのせいで村人は総出で避難しなければならなくなってしまった。
それの責任について、二人は少年を呼びつけ、話していた。現時点では奇跡的に村人達にこのことは知られていない。
「ゼーレ、今回はこの少年を赦してやろう。まだ幼いし、分別も付かなかったのだろう。」
「・・・俺は反対だ。いくら幼いとは言えこれは一線を超えている。」
「だが、もしこの事が村人に知られれば、この親子がどのような罰を受けるだろうか。想像出来るかい?きっと、言葉では言い表せない程の悲惨なものになる。」
そう言って、ローズは少年を見る。少年は、自身の犯した罪の重さ。そして、これから受ける罰に亡き、怯えて震えていた。
「ああ、きっと処刑じゃ済まないな。酷い拷問でもされるだろう。」
「・・・それどころか、親すらも対象だろうね。当然のことだ───────」
「そ、そんなっ!お父さんとお母さんは何もっ!」
少年の抗議を、ローズは抑え、
「それくらいの事を、君はしたんだ。君が犯した罪は、君一人の物ではないんだ。その事を嚙み締め、これからの人生を生きなさい。」
少年は泣きながら何度も何度も激しく首を縦に振る。もう、生涯こんな事はしないだろう。
「そうか、反省したな?なら今回は特別に赦してやろう。だがな?」
ローズはその優しい微笑みをやめ、真剣な表情で忠告する。
「次はない。というか、庇ってあげられないし、庇わない。だから、もう二度とこのようなことはしてはならないよ?」
ローズから放たれる余りの圧力に、少年は涙さえ忘れ無言で首を縦に振る。それを確認したローズは再び優しい笑顔に戻りゼーレに確認を取る。
「そう言う事だ、ゼーレ、いいだろ?」
ゼーレは溜息を吐きながら答える。
「分かったよ、さぁ少年、俺も今回はローズに免じて君を赦そう。ローズ、お前を信じて、だからな?」
「分かってるさ。ありがとう、ゼーレ。」
少年は再び大泣きしながら、
「ありがとうございます!ありがとうございます!もう、もう二度と、・・・こんな事はしません!本当に、ほっ、本当に、ごめんなさい!」
と謝ってきた。ゼーレはここで初めて優しい表情で微笑み、諭す。
「そうか、その言葉を忘れずに今後は人のために生きなさい。」
「はい!ありがとうございます!」
「それじゃあ、少年。」
ぐぃっ
泣きじゃくる少年をローズは自慢の怪力で軽々と持ち上げ、抱っこする。少年はそれに驚き戸惑うが、何となく恥ずかしくなったのか、顔を赤らめる。
「さぁ、村に戻ろう。大丈夫、村の人達にはバレないようにするさ。」
「ああ、そうしよう。所でローズ、力加減を誤って少年を潰すなよ?」
「こら、ゼーレ!また少年を泣かす気か!?」
「悪い悪い、冗談だ。」
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(この書き方を見るに、村人の一人から語られたものだろう。)
どうやらその中に、少年のことは一切記述は無かった。少年はきっと、生涯約束を守ったのだろう。そう思うことにした。
(さて、と。)
ルーゼはその本を閉じ、書庫の棚を睨む。すると、本と本の隙間に一冊の薄い本が目に入る。
(なんだ、これは、題名無し?)
この書庫でも題名無しはかなり珍しい。気になり思わず手に取り、表紙を捲り1ページ目を見た瞬間に絶句する。今生きている人間の中で、文字通りその作者のことをルーゼは誰よりも知っている。
(クリオシータス、だと!?)
それは十傑”クリオシータス”が書いた手記であった。筆跡からして本人が直筆したものだろう。題名は「ゼーレについて」。
(・・・お、おお。冗談だろ。)ルーゼに冷や汗が流れる。
もうこの時点で中身を見るのが怖くて仕方なかったが、見つけてしまった以上引き返せない。怖いもの見たさも相まってルーゼはその手記を開いた。
『あの人は、僕の人生で初めて僕の心を奪った男だ。あの人が使うその魔術、本当に興味深い!あんな細い体の何処にあんな力をひめているのだろうか。しかも、隣に付いているあの女とは違って、様々な魔術を行使したのだ。彼は魔術を僕に教えてくれるそうだが、そんな程度では満足いかない。彼の魔術の根幹を、彼のその正体を暴くために僕はどんな手でも使う!!』
もう読むのを辞めたかった。当事者からすれば冒頭の一文の時点で吐き気がする。
確かに、ルーゼだってアチーブの魔術の訓練を遠巻きに見ていたし、話自体が合うくらいには似た者同士の部分もあり、あんまり強くは言えない。
だが、こいつは明らかに何度も一線を超えていた。十傑じゃなければローズがとっくに叩き切っていただろう。そんぐらいのことをやっていた。
だが、今更引き返せない。恐る恐る、続きを見る。
『まず、手始めに彼が入浴した後の湯と着ていた下着に、魔力が流れるかを確かめるために────────────』
ルーゼは青い顔で無言で本を閉じて、封印するかの如く、その本を分厚い本の間に挟み見えないようにする。本音を言うなら今すぐに焚書にしてしまいたいところだったが、見張りがいる前でそんなことは出来ない。
(なんでこんな禁忌の物がこんなとこにあるんだ!)と、こんなのをここに持ってきた誰かわからない奴を心の底から呪いながら、ルーゼは書庫を出ることを見張りの魔術師に伝える。今日はこれ以上ここにいる気分にはなれなかった。
図書館を出て、何とも言えない顔でルーゼは街を歩く。本当は明日も来たかったが、あんなものを見てしまったので、気分は最悪だ。
(・・・よし、明日は、別の事をしよう。)
ルーゼは何とかそう思いながら、一旦自身の宿に戻るのであった。
帝都大図書館:
帝都に建設された帝国最大の図書館、規模的には、中央学院にある書庫がそれに次いだ規模である。
様々な書物があり、特に書庫には、何故あるんだ。と言いたくなるものもあったりする。
盗難防止のため、警備員として帝都魔術師団が配備されていて、原則、館外への持ち出しは禁じられている。
十傑”クリオシータス”
滅竜戦争にて特に大きな功績を残した十傑の一人であり、現代に続く闇魔術、光魔術の基礎、応用を創り上げた偉人。
だが、異常なまでの、魔術に対する執着を持ち、到底後世に語り継ぐなど出来ない悍ましい行為を、ゼーレやイゾルデーチェなどに繰り返しで行っていた。しかし、そこまでいかない場合は常識人であり、ゼーレも(話は合うし、俺よりも魔術の才がある。)と評していた。
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