第十二話 また会おう
今回で第二章は本当に最後です。
決闘をしたその日の夜、ルーゼとアチーブ、そして衛兵達は全員で出来る最後の食事会を行っていた。如何やら昼間の間に予約を取っていてくれたらしい。
(本当にありがたいことに、最初から最後まで世話になってしまったな。客だから、と言われて甘えてしまっていたが、流石に申し訳なかったな。)
そう思っていたため、ルーゼもアチーブも手伝ったりはしたのだが、結局殆どを彼らに任せていた。その為、ルーゼは少し申し訳なさをおぼえていたのだ。
そんなことを考えていると、衛兵のリーダーがルーゼに話しかけてきた。
「ルーゼさん。乾杯の音頭を取っていただけますか?」
「え、私でいいんですか?」
「ええ、この旅の最初のこれも、ルーゼさんのお陰じゃないですか。あなた達のお陰で、今までで一番楽しい旅になったんですよ?」
「そんな大袈裟な。」
「いいえ、決して大袈裟なんかじゃありませんよ。だから、是非ルーゼさんにお願いしたいんです。」
「・・・・分かりました。受けましょう。」
そうして、各々の料理が運ばれてきた。本日、ルーゼが選んだのは雉の揚げ焼き。口にした瞬間サクッとした衣と、柔らかくジューシーな熱々の肉の旨味が口いっぱいに広がる絶品である。今回、ルーゼはこの後に控えている作業のことを考慮して酒は頼まず、葡萄のジュースにしている。
「では、皆さん。お飲み物を持って下さい。皆さんのお陰でこの旅が無事に目的を果たせたこと、そして、アチーブのこれからに祝福を込めて、乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」」
そして最後の食事会が始まった。各々がこれまでの旅の思い出を振り返ったりしながら、和気藹々と食事を楽しいんでいる。その最中、アチーブが突然立ち上がって言った。
「皆さん。その、ここまで私を連れてきてくださって、本当にありがとうございました。この場でお礼を申し上げます。」
と、かしこまった挨拶をする。それを聞いた衛兵のリーダーが、
「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました。共に行くのがアチーブさん、それとルーゼさんで良かったです。こちらこそありがとうございました。」
と、アチーブだけでなくルーゼにも感謝を伝える。そのやり取りを見ていた周囲の人々の暖かい目線に気付き、アチーブは恥ずかし気に席に座りなおす。
その後しばらく食事会を皆で楽しんだ後、その会はお開きとなった。
その後、それぞれの宿に宿泊するために解散し、ルーゼも宿泊する宿に向けて歩いていた。
「ルーゼさん!」
自分を呼ぶ声にルーゼは振り向く、アチーブだ。ルーゼ自身の作業も残っており、アチーブが衛兵の女性陣達と楽しげに会話していたのでルーゼは先に宿に向かっていたのだが、どうやら切り上げたのか、走って追いついて来たようだ。
「アチーブ、もう切り上げてきたのか?」
「はい。少し、ルーゼさんとお話ししたいことがあるので。」
そう言って、彼女は続ける。
「以前も聞いたような気がしますけど、確かルーゼさんは500年祭が終わる頃までは中央街にいるんですよね?」
「ああ、そうだな。一応、多少外に出ることもあると思うが、基本的には中央街にいるつもりだがそれがどうした?」
「・・・私も、中央学院にいる間も中央街にくる機会は何度もあると思うんですよ。その時にもし、ルーゼさんさえよろしければ、また、魔術を教えていただけませんか?」
正直、アチーブがこれから中央学院でどのような成長を遂げるか、この目で見たいとは思っていた。が、中央学院に入ったアチーブと不用意に関わり、それを中央学院側の者たちに知られれば、面倒ごとになるかもしれない。そう考えた上でルーゼは答える。
「そうだな・・・、ただ私もこれから何処で何をするか決めてないから、いつ君と再開できるかの確証は出来ないな。」
「・・・そうですか・・・。」
そう言って、少し残念そうな顔をしたアチーブを見て、何か申し訳ない気持ちになり。
「その代わりと言っては何だが、君に対して手紙でも贈ろう、偶ににはなるだろうがね。そこに近いうちの予定と居場所でも記しておくから、都合が合えば是非会いに来てくれ。その時にまた君に魔術を教えよう。」
「・・・!はい、楽しみにしてますね?」
「ああ、私も楽しみにしているよ。」
ルーゼが帝都を出てから約500年、正体を暴かれない為とはいえ、彼はこれまで出会ってきた人間たちと再会することは無かったし、その人物がいる地を避けてきたまである。
そんな彼が今は、彼女との再会を誓っている。多少のリスクがあることは分かっていたが、それよりも彼女に対する興味が強かったのだ。
(・・・いや、違うな。興味だけじゃない。理由があったとしても、私は、本当は誰かと共にありたかったんだろうな。)
かつての相棒や仲間たちと共にいたあの頃を思い出し、少し胸が熱くなる。思えば、500年生きていて一番幸せだったのもあの時期だ。意識しないようにしていたが、本当はずっと寂しかったのかもしれない、そう思った。
「アチーブ、ありがとう。」そう、小声で呟く。面と向かって言うのは正直気恥ずかしかった。
「? なんか言いましたか?」
「いや、何でもない。それよりも、宿に戻ろう。私はともかく、君は明日かなり忙しいだろう?早めに早休んだ方がいい。」
「そうですね、そうしましょう。」
そうして、二人は宿に戻りそれぞれの部屋に入った。
深夜、皆が寝静まったころ、ある宿の一室から僅かな光が漏れていた。ルーゼの部屋だ。
(ふぅ、なんとか片付きそうだな。)
ある作業を進めながら、ルーゼはさっきのアチーブとのやり取りを思い出す。彼女の願いをつい受け入れてしまった。もし、500年祭までで彼女との関係が終わるのであれば問題ない。しかし、それ以降も、何なら彼女が中央学院を卒業した後も関係が続きそうなら、別の対処を取る必要がある。
(まぁ、何とかするか。)
それよりも、この作業を終わらせなければならない。二日間の徹夜は覚悟していたが問題ないと考えていた。しかし歳を取ったか思いのほかしんどい。
「さて・・・・、アチーブはどんな顔するかな・・・。」
目の前に完成しつつあるものを見ながら今から楽しみにしていた。
翌日 4月9日 午前10時 帝都中央街南門前
ルーゼ一行は、南門の前に集まり出発の準備をしていた。しかし、今日は一人だけその中から外れることになる。
ルーゼだ。彼は衛兵達の支度を手伝いながら、一人一人にこれまでの感謝を伝えて回った。
ーーーこれが今生の別れになる可能性の方が高い。だから、後悔を残したくなかった。
そして遂にその時が来た。衛兵のリーダーが点呼を終わらせルーゼに向けて言う。
「それでは、これより中央学院に向けて出発します。・・ルーゼさん。今までありがとうございました。」
「こちらこそ、本当にありがとうございました。」
「ルーゼさん、いつかまた会いましょう。」
「・・・・・ええ、きっと。」
その後、ルーゼはアチーブに声をかける。
「お別れだな、アチーブ。今までありがとう。」
「ええ、私こそ本当にありがとうございました。でも、これで最後ではないでしょう?今度逢えたら、その時はまたお願いします。」
「・・・ああ、そうだな。」
そう、嚙み締めるようにルーゼは言う。そして、
「そうだ、アチーブ。私から君に感謝と応援の気持ちを込めて、この二つを贈ろう。まずはこれだ、受け取ってくれ。」
そう言って、まず一冊の本を取り出し、アチーブに手渡す。アチーブはそれをめくる。本の中には魔術に関する様々な情報が、約50ページ近くに掛けて丁寧に細かく書かれていた。
「これは・・・・、指南書?」
「ああ、そうだ。私の自作だが、一応私なりに魔術の知識や技術について、分かりやすく解説を載せたつもりだ。是非活用してくれたまえ。」
「・・・!?何で、そんなことまで!?」
アチーブは驚愕し、ルーゼにそう聞く。そういう工場ならともかく、個人で本を作るのは本当に大変な手間がかかるはずだ。
「君への応援さ。これからも、魔術を学び続けるだろう?ならば、一度君に魔術を教えた人間として、私も君の支えになりたいと思ったんだ。是非、役立ててくれると嬉しい。もし、君さえ良ければ、学友と共有してくれても構わない。」
「・・・はい。ありがとうございます。大切に使いますね。」
「良かった。それで、二つ目はこれだ。」
そう言って、もう一冊の薄い本を取り出す。市販のものとはかなり見た目が異なるが、魔導書だ。
「・・・・これって、まさか。」
「これもまた、私の自作の魔導書さ。自由に使ってくれて構わない。」
「!!?そんなの、いくら何でももらえませんよ!」
と言って、ルーゼにこれを返そうとしてくる。魔導書を作るだなんて普通の本より更に手間がかかるはずだ。しかも既に一冊の自作の本を貰っている。そんな物を無償で貰うなど、アチーブにはできなかった。
するとルーゼは少し悲しそうな顔をして、
「そんなこと言わないで、受け取ってくれ。折角君の為に作ったのだから。」
そんな顔をされてそう言われてはアチーブも断れない。
「・・・そこまで言うのなら、受け取ります。でも、貰ってばかりで申し訳ないですよ、何かお礼ぐらいしたいです。」
「・・・そうだな、そう思うのならその魔導書に刻まれた術式を使う姿を私に見せてくれ。」
「これを、ですか?」
そう言って、彼女は魔導書の中を軽く眺める。その中には見たことのない術式が刻まれていた。
「ーーー!?ルーゼさん、これ何の術式ですか?」
「これは、私が知る限りで最高の光魔術『ルナポース』、圧倒的な威力を持つが、術式の行使に非常に高い能力を要求される。」
「・・・ルナポース?」
色んな本で魔術のことを学んできたアチーブでも、その名前を聞いたことがなかった。一体どこで、彼はこの術式を知り、身につけたのだろう。そう質問する前に彼は続ける。
「言ってしまえばこれは、私からの課題さ。さっきの本や中央学院で学んだことを存分に活かして、いつかこれを使えるようになって欲しい。極めて難しいが、君ならきっと使えるようになるはずさ。」
「・・・・分かりました、頑張ります。フフッ、また、ルーゼさんに会う楽しみが一つ増えましたね。」
アチーブはその質問を一旦胸にしまっておくことにした。今聞いてもどうせ答えないし、ルーゼとはこれが最後じゃない。謎が多い彼だが、今後、少しずつ聞いていけばいい。
「そうだな、私も楽しみにしているよ。」
と、ルーゼは笑う。アチーブの今後の成長に対する期待に胸を膨らませ。
そう、話していると、
「アチーブさん!!準備が整いましたので、馬車にお乗りください!」
そう、衛兵のリーダーが呼びかけてきた。アチーブは彼の方を向き、
「はい!今行きます!」
そして、アチーブはルーゼの方を振り返り、ニッ、と笑い、手を大きく振って別れの挨拶をする。
「では、ルーゼさん。お世話になりました。行ってきます!」
「ああ、行って来い!楽しんでこいよ!」
そうして、彼女は馬車に飛び乗り、馬車は中央学院に向けて出発する。門は開き、馬車がその先へと進んでいく。
すると、アチーブは馬車の窓から身を乗り出して、ルーゼさんに向かって手を振り
「ルーゼさん!!ありがとうございました!!また会いましょう!!」
と、叫んでくる。ルーゼも手を振って叫ぶ。
「ああ!!ありがとう!!きっと会おう!!」
そうして、お互いに門が閉まるまで手を振り続けた。
門が閉まると、ルーゼはその振っていた手を下ろし、少し寂しそうに微笑む。彼女の将来に対する大きな期待とほんのわずかな心配と、そして別れの寂しさと色々混ざった笑顔だった。
しかし、それと同時に格好つける為に張っていた気が抜けたのか急激に眠気が襲ってくる。
「・・・うぇ。流石に、2日間も徹夜したのはまずかったな・・・。」
(帝都の中央街を巡るのはじっくりと休んでからでいい。500年経ったんだ、今更大して変わりやしない。)
そう思って、宿に向かうのであった。
読んでいただきありがとうございます。
これからしばらくは、ルーゼが中央街を中心に500年ぶりに色々巡っていく話になります。
次はまた、キャラクターファイル及び設定を上げます。
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