第十一話 決闘
前回、次で第2章はラスト、と言ってしまいましたが今回長くなってしまったので2分割しました。
(それでも長いですが・・・)
次で、本当にラストです。
「私、アチーブ=レルネンは、ルーゼさん、貴方に決闘を申し込みます。」
「・・・理由を聞かせてくれるかい?」
彼女が言った予想外の申し込みに対し、ルーゼは若干驚いた表情を見せ、そう言った。それを聞いてからアチーブは口を開く。
「ルーゼさんが私に魔術を指南してくれたお陰で、私は以前と比べて格段に成長したと自分では思っています。本当に、感謝しています。」
そう言って軽く一礼してからアチーブは続ける。。
「だからこそ、これまで学んだことの成果を貴方に見て欲しくて、私自身も確かめたい。これが、一つ目の理由です。」
ルーゼは真剣な表情で彼女を見ながら口を開き、「・・・そうか。他には?」と聞く。
「もう一つはルーゼさん、貴方の全力を見たいからです。・・私はまだまだ素人ですが、それでも貴方が魔術師として何段階も優れていること。そして、その実力を殆ど出していない、ということは分かります。・・・そうですよね?」
「・・・それらが目的だとして手段が決闘である理由は何だい?」
ルーゼが聞いてくる。その目は決してアチーブを自身の教え子として見るものではなく、対等な一人の人間として彼女を見ている目であった。今まで見たことないルーゼの表情は、アチーブに緊張感を走らせるが、アチーブは怯まず冷静に続ける。
「・・・今私が言ったことを一度に出来ると考えたからです。魔力の制御、魔術の命中精度、速射性、後は体の捌き方、貴方から教わった魔術の全ては実戦に繋がります。だからこそ、実戦をする事によって学んだことの成果を確かめられると考えました。」
「・・・確かに、全て私の我儘です。ですが、どうか受けていただきたいです。」
アチーブの言葉を聞いたルーゼは少し考えて、そして笑いだしながら彼女に対して言う。
「フッ、ハハハッ。そうかそうか、君がそう考えた上のだとするなら良いだろう。思ったよりもしっかり考えた上での決闘の申し込みだったようだ。」
「・・・馬鹿にしてます?ルーゼさん。」
「いや、そんなつもりじゃないぞ?だがまぁ、そうだな。確かに、私が教えていた魔術は基本的には最後に実戦で有効活用するためのものだからね。だから君の考えは合ってるよ。」
「・・・そうですか、良かったです。それで、決闘の方は・・。」
自分の見立てがルーゼの思惑と外れてなかったことに一安心したが、肝心の決闘の申し込みは受け入れてもらえるのが気になってしまった。
「ああ、君の決闘の申し込みを受け入れよう。」
「・・・!ありがとうございます!お願いします!」
「手は抜かないぞ、いいな?」
「ええ!是非、それでお願いします!」
彼女がそう言うと、ルーゼは微笑んでから、見物していた魔術師達の中から、適当に一人選び、
「そこの君、今から私達の審判を頼めますかい?」
「・・!はい!了解です!」
「ありがとう。よろしく頼むよ。」
審判役の魔術師は少し奥に行ってから二つの魔導書を持って二人に渡す
「お二人とも、今回はこちらの魔導書を使って下さい。それでは、それぞれ位置についてください。」
そうして、二人はお互いが3m離れた所に立ち、それを確認した審判役の魔術師が二人に対し、宣言する。
「それではこれより、アチーブ=レルネンとルーゼの二名による決闘を執り行います。形式としましては、お互いの魔術が一回当たる度に一本とする三本先取制といたします。また、一本取るたびに仕切り直しとさせていただきます。また一本ごとの制限時間は五分とします。」
アチーブは審判役を見ながら話を聞く一方、ルーゼは話を聞きながら、目を閉じて立っている。
「禁止行為としましては、故意に相手に大怪我をさせるような魔術の行使、施設を破壊するような行為、また今回の形式上、障壁魔術などで防御を行うことを禁止行為に指定します。お二人とも、よろしいですか?」
「はい!大丈夫です!」
「ああ、問題ない。大丈夫だ。」
二人の返事を聞き審判は更に続ける。
「それでは、両者共に構えて下さい!」
その言葉を聞き、アチーブは魔導書を開き、真っ直ぐにルーゼを睨みながら右足を前に出して構える。一方ルーゼは、魔導書を持ち、左足を前に出して腰を軽く落とし、アチーブの目を見つめ、構える。そして次の瞬間、ルーゼの顔から一切の表情が消える。
(ーーー!?)
アチーブは明らかに変わった彼の異質な雰囲気に動揺するも、直ぐに気を取り直す。
(・・・落ち着け、ルーゼさんが格上なことは分かっていたはずだ!)
周りの魔術師達は中央学院に入るという若き魔術師の資質と、明らかな熟練者である男の、その実力に注目し、二人の決闘を見届けようとしている。
「それでは、一本目・・・始め!!」
その瞬間アチーブは後ろに飛び下がりながらルーゼに向けて火の魔術を打つ!
ーーーが、それよりも速くアチーブの動きを読んだルーゼが一瞬で目の前に接近し、彼女の顔めがけて火の魔術を打つ!
ボンッ!!
(ーーーー!!?)
それに反応できないまま、アチーブは軽く吹っ飛ばされ、尻餅をつく。
「それまで!」
と、審判が宣言する。一本目の勝負は、彼女が何が起きたか理解する前に、1秒もかからず終わった。
変わらず一言も喋らず無表情のまま、開始位置に戻るルーゼに対し、アチーブは尻餅をついたまま呆然としていた。
(強いのは分かっていた・・でもここまでなんて・・・。それに・・・・、もし、)
ルーゼが相当手加減した事と、アチーブが反射的に受け身を取ったこともあり、彼女に怪我は一切ない。しかし、ここがもし命をかけた殺し合いなら、これで死んでいただろう。そう考えてしまい、冷や汗が垂れ、急に目の前の ”心の中で師としていた男” を恐ろしく感じてしまい身が竦む。
何で・・・挑んだんだ?・・・そんな風にまで考え始めてしまったとき、
「アチーブさん。続いて二本目に入りますが、大丈夫ですか?」
と、審判役の魔術師が心配げに声をかけてくる。
「・・・あ、だ、大丈夫です。ただ、1分間だけ考える時間をいただけますか?」
アチーブは立ちながらそう言った。
「よろしいですか?ルーゼさん。」
と審判役が聞くと、彼は眉一つ動かさず、首だけを小さく縦に振る。
「了解です。では、アチーブさん。1分間どうぞ。」
(落ち着け・・、まだ完全に決まってない、でも・・。このままじゃ・・・。)
どうすればいいのかわからないまま、決闘相手を見る。その彼は相変わらず無表情のまま、アチーブを見つめている。そのせいで、何を考えているのか分からない。
(確かに、そう頼んだけど、どんだけ本気で集中してるの!?・・・いや、ダメだ。少しでも前向きに考えろ!)
そうして、折れかけていた思考を何とかして前向きにかえようとする。
(少なくとも、ルーゼさんは私を舐めて掛かっていない。じゃなきゃ、あんな集中して私を睨んでいない。今は、彼に勝つことだけを考えろ!)
そうだ、ルーゼは明確に実力差のあるアチーブを、未だ対等な一人の相手として見ている。そんな彼の期待に答えたい。そうとも考えて、彼女は必死に考える。
(今のは、私が後ろに下がった瞬間に出来た起こりを見事に突かれたんだ。・・・・そうだ、この決闘は先に当てるのが勝利条件。格上相手だからって怯えた闘いをして何になる!別に死ぬわけじゃない。次は思い切って先手を取る!・・・いや、待てよ?)
お互いに防御魔術は禁止行為、つまり威力不足で届かないなんてことはないため、早期決戦の早撃ち勝負か回避する事が求められる。馬鹿正直に攻めてもどうにもならないだろう。
(・・・ならば、よし!こうしよう・・・。)
「1分立ちました。決闘を続行しますが、アチーブさん、どうでしょうか。」
「はい!大丈夫です。お願いします!」
「では、両者位置について構えて下さい。」
そう言って、先ほど同様、ルーゼとアチーブは構える。
「では、二本目・・・始め!」
その合図と同時に、アチーブが仕掛けた。縦長の火弾をルーゼに向けて繰り出し、それを盾に彼女もルーゼとの間合いを一気に詰める。それをルーゼは火弾で相殺し、目前に接近した彼女の顔に向かって火弾を放つーーー。
瞬間、ルーゼの視界から彼女が消え、火弾は空を切る。
アチーブはその体の力を抜き、滑らかに倒れ込むことで攻撃を躱しながらルーゼの視界から外れ、足元に潜り込む。
(当たれッ!!)
倒れながら仰向けになり、ルーゼの胸目がけ火弾を放つ!
が、直前にルーゼが体を捻り、火弾は虚しく躱される。
それと同時にルーゼが放った火弾がアチーブが地面に着くと同時に
「ゔっ!」
彼女の腹に当たる。
「それまで!」
審判の宣言と共に、二本目が終了する。
(ダメ、かぁ。)
僅かな3秒の試合。彼女は本気でルーゼから一本取るつもりで戦った。しかし、結局ルーゼは眉一つ動かすことなく、アチーブから一本を取ってしまった。むくり、と体を起こしながら次の策を考える。
(・・・・あれ?)
二本目が終了した辺りから周囲の雰囲気が変わったような気がする。アチーブがそう思っていると、見物している魔術師達の会話が少しだけ聞こえてきた。
詳しくは聞こえて来ないが、如何やらアチーブのことについて話しているのが聞こえてくる。
(・・・・あれ?私、こんな見られていたの?)
2人しか中央にいない時点で、そんなのは当たり前と言えばそうかもしれない。だが、目の前の決闘相手に集中するあまり、周囲の魔術師達の事が今まで入ってこなかったのだった。ルーゼだけでなく自分も評価されていることを知り、少し嬉しく感じるが、同時に重圧にも感じる。
(・・・落ち着け、そして集中しろ! やることは同じ。ルーゼさんに勝つことだけを考えろ!
そうしてアチーブは立ち上がり開始位置に戻る、相変わらず表情を変えぬまま既に開始位置に戻っているルーゼを見ながら、勝つために思考を巡らせる。
(やっぱり、完全に反応されてるから、下手に動くと返しでやられる。だけど、どの道後手に回った瞬間に負ける。先手を取らなきゃどうしようもない。でも、さっきの様な無茶はもう通じない。)
それはもう完全に警戒されただろう。そもそも、意表を突く作戦も結局はある程度実力が拮抗していなければ通用しない。さっきのアレも通じたように見えただけで、実際は簡単に対応されてしまっている。
(・・・もう、真っ向勝負しか・・無い。・・・・ふぅ。)
それをして勝てるイメージは持てない、分かってはいた事だが、ここまで何もできないとは思っていなかった。でも、さっきの様な苦しさはもう彼女の心には、無い。アチーブは一瞬だけ笑みを浮かべて決意する。
(・・・やるしかない、か。よし!もう余計な事は考えるな、本気で勝ちにいこう。それで駄目ならもう仕方ない!)
彼女の中で、何かが吹っ切れた。余計な思考と感情を排除し、目の前の相手をその目で捉え、理解する事に全神経を注ぎ睨む。その目は、自覚せずともルーゼと同じ様な目になった。
「それでは、両者共に準備はよろしいでしょうか。」
ルーゼもアチーブもお互いに目を離さないまま、コクリ、と軽く頷いてみせる。
両者に走るその緊張感が見物している魔術師達にも伝わり、辺りは自然と静寂に包まれる。
「3本目・・・・・始め!」
その瞬間、アチーブは火弾を打つ!が、ルーゼは軽々それを躱し、それと同時に火弾をアチーブに向けて打ち返す。
一切の予備動作の無く飛んできたそれをアチーブは全身を使って辛うじて躱す。
アチーブは前転しながら目で追い続けていたルーゼに向けて、体制を整えた瞬間に火弾をもう一度打つ!
しかし、低姿勢で打ったため打点がやや高くなり、ルーゼに潜られ、また彼は火弾を飛ばす。
しかし、姿勢が崩れながらもそれを躱し攻撃しようとしたーーーーーーー瞬間に彼女の視界をルーゼの手の平が覆う。
(しまっーーーー)
そう思考するよりも早く、魔術で反撃するために手をだそうとするもーーー
ボンッ!!!
それすら出来ずにルーゼの火弾が、アチーブの顔面に命中する。
「そこまでぇ!」
審判の宣言。両者の決闘はルーゼの完全勝利に終わった。
「以上を持ちまして、この決闘の勝者をルーゼとする!二人の健闘に拍手を!!」
見物人達からの盛大な拍手によって、二人の健闘は讃えられる。しかし、アチーブにはそんなものは耳に入って来なかった。
(・・・負けた。)
仰向けに倒れながらその事実を嚙み締める。
ーーーー悔しかった。勝てないのは承知の上だったが。これほどまでに手も足も出せないとは思わなかった。
(・・・フフッ。)
しかし、彼女の心はどこか晴れやかだった。圧倒的な格上であるルーゼは、未熟な彼女に対しても手を抜かず完膚なきまでに叩き潰した。ルールによる縛りというハンデはあれど、その範囲で彼は本気でアチーブの相手をしてくれたのだ。
それはアチーブに対する魔術師としてのリスペクトがあったからだろう。だから、負けたにも拘わらず、満足な気分だったのだ。
(ルーゼさんは、想像以上だった、いいものを見せてもらえた。きっと、これからの糧になる。)
そう思いながら体を起こすと、目の前を再びルーゼの手の平が覆う。でもそれは、さっきまでの魔力のこもった冷たいものではなく、柔らかく、彼女に差し伸べられていた。
「お疲れ様。アチーブ、いい試合をありがとう。・・・怪我はないかい?」
そう満面の笑みを浮かべながら、ルーゼは言った。先ほどまでの無表情な彼とはまるで別人のような、いつもの穏やかな顔であった。その手を取り、アチーブは立ち上がる。
「・・・大丈夫です。こちらこそ、ありがとうございました。」
「そうか、良かった。それで、実際に私とやってみて君自身は率直にどう思ったかね?」
アチーブは少し考えてから、口を開き答える。
「全然、実力も経験も足りなかったです。読み速さも精度も、ルーゼさんの足元にも及ばなかったです。自分の至らなさを本当に痛感しました。」
「そうだね、だけど恥じることではないさ。私と君では、魔術を学んで使ってきた期間も環境も異なる。だから、これから身に着けていけばいい。その為に中央学院に行くではないか。」
「・・そうですね、ありがとうございます。頑張ります。」
ルーゼは自身の顎を撫でながら、ニヤリと笑いながらアチーブに対して言う。
「出来ないことはここまでにして、出来た事について喜ぼうじゃないか。まずは、魔力の制御、完璧だったね。魔導書を壊すことも、君自身の負担もなかったろう?」
「・・・はい。」
「ならば充分だな。当初の課題を君は実戦でも問題ないぐらいに解決できたんだ。これだけでも充分な成果だ。それに途中から始めた速射性も充分、魔術を行使するまでの無駄も大分そぎ落とされている。体捌きについては・・まだ課題も多いが、期間を考えれば充分だな。」
「・・・・・」
その言葉でアチーブは考え直す、確かに特に意識はしていなかったが、出来ていた。
「もっと君は、自分を褒めたって良いんだぞ?アチーブ、君は私の想定を遥かに超え自分の魔術の技術を上げたんだ。・・・・君は本当に、よくやったよ。・・・素晴らしい。」
そう言って、彼は優しく笑う。お世辞や皮肉など一切無い、純粋な称賛と労いに対してアチーブは笑顔を浮かべ
「はい・・。ありがとうございます。」
と、言う。その声には喜びと悔しさの様な感情がこもっていた、少しだけ目が潤んでる。それを見たルーゼは空気を破るように
「さぁ!!反省会はここまでにして、街に出て何か美味いものでも食べよう!アチーブ、何がいい?」
「え、でも・・。」
「いいじゃないか。明日、君は中央学院の城内に入るんだ。自由に帝都をまわれるのは今日までだろう?だったら、最後に帝都を楽しむ権利が君にはある。無論、全て私の奢りだし、強要もしないが。」
「・・・ルーゼさん。・・・はい、行きましょう。お願いします。」
そうして、アチーブはこの訓練場を貸してくれた魔術師達を一瞥し、
「皆さん!本日はありがとうございました!その、中央学院でも頑張ります!本当にありがとうございました!」
と、深々と頭を下げる。
それを聞いた見物していた魔術師達は口々に応援の言葉や、アチーブへの称賛の言葉等を投げかける。中には拍手する者も、また遊びにこいと言う者もいた。それを聞いてアチーブは再度。
「本当に、ありがとうございました!」
もう一度、頭を下げるのであった。ルーゼも口を開き。
「皆さん。私の弟子の為に有難う!」
アチーブにとっては、悔しさも残る結果になったが、それでも今日のことはきっといい勉強になるだろう。
読んでいただきありがとうございます。
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