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第九話 サングレス平原

今回も引き続きルーゼ目線です。


1人称で出来る表現が思ったよりも狭いし、そろそろ3人称にもチャレンジしてみようかな・・・・・。

 ーーールーゼ、アチーブ一行、サングレス平原で野営中ーーー



 私達はルーアン公爵領を出て1週間、”サングレス平原” の片隅を野営地としていた。


 平原、とは言っても一般的に想像される平原と比べて、木々や茂がうっそうと連なっており、思ったよりも開けた所は多くない。平原を真っ二つに割るように流れる ”ブルート大河” の周囲は、巨大な岩や砂利などで埋め尽くされている。


 現在、この平原はこの時期から緑が多い茂り始め、綺麗で穏やかな地となる。そして、歴史的な理由もあり、観光的な人気も非常に高い所である。


 しかし、私としては()()()()()を思い出す上、不気味な魔力を感じるので、あまり近寄りたい場所ではなかった。


(・・・なんやかんやで、ここに来るのも200年ぶりか・・。随分と豊かになったんだな。)


 野営の拠点から少し外れた所で私がそう思っていると、アチーブが私に声をかけてきた。


「ルーゼさん。野営の準備も一通り終わって、衛兵さん達から許可も頂いたので。魔術の訓練をお願い出来ますか?」


「・・・・・・・・っ!ああ、君か。」


 考え事をしていたので、うっかり反応が遅れてしまった。


「大丈夫ですか?なんか、ボーっとしていましたが。」


「ああ、大丈夫だ。確かにボーっとはしていたが、問題はない。さぁ、早速始めよう。」


「・・・大丈夫ならいいんですけど。分かりました、お願いします。」


 そうして私達は、少し移動した所で訓練を始める。


 最初は、いつも通り魔力の制御の訓練をする。アチーブが杖代わりの細い木の棒に魔力を込め、火の魔弾を私に向けて放つ。火球は問題なく放たれ、私に命中する寸前に私がそれをかき消す。


 アチーブが使った棒は・・・・・原型をしっかりと保っていた。


「・・・良し、アチーブ!大分安定してきたな。もう何回か続けたら、次の内容に移ろう。」


「分かりました。お願いします。」


 木の棒がそもそも脆いのもあって、3,4回使ったら流石に壊れてしまうが、全く問題ない。この短期間でここまでの成果をだせたのだから十分だ。


 彼女との魔術の訓練は既に、私が本来予定していた過程の範疇を大きく超えている。


 何回か繰り返した後、次の内容を行うためにアチーブに声を掛ける。


「アチーブ、今から帝都に入り君が中央学院に到着するまでの間、最後により実戦的な訓練を行うことにする。具体的にはこれを使う。」


 そう言って、私はアチーブに一冊の火の魔導書を渡す。それを受け取った彼女は軽くパラパラとめくってから、


「・・魔導書ですか。なんか久しぶりな気がしますね。」


「そうだな。今までは木の棒しか使って来なかったからな。」


 勿論、それは魔力の制御を目的としていたわけだからそれでいい。・・・・本音を言うと、一々魔導書などを壊されては敵わない、というのも理由の一つではあったが。


「本来、魔術はこれを使うものだ、いわば今からするのは本番だ。だが、今の君なら魔導書を使っても壊したり、君の身体に負担がかかることもないはずだ。さあ、早速やってみよう。私に向けて打ってくれて構わないよ。」


 私がそう言うと、彼女は魔導書に魔力を込める、久しぶりだからか出力を図りかねているようだ。・・・ここは私の反省点かな。荒療治のつもりだったとは言え、極端すぎたかもしれない。


「大丈夫、媒介こそ違うがやる事は普段と変わらない。いつも通りの感覚でやって大丈夫だ。」


「はい。」


 彼女はそう短く返事をして、魔力を込め、打つ!


 その魔弾は、彼女が持つ魔力量と出力が生かされた、威力の高い物でありつつも、決して行き過ぎることは無く、私めがけて正確に飛んできた。


(・・上出来だ!)


 そう思いながら、飛んできた魔弾を私は打ち消した。彼女を見てみると、当の本人は驚いた様子で魔弾を打った自身の手と、その為に使った魔導書を交互に見ていた。


「自分でやってみてどうだったい?アチーブ。」


 私の呼びかけに彼女はハッとして私の方を見た。そして、


「・・・出来て・・ましたよね・・。今。」


 俄かには信じ難いと言った感じで、答える。


「ああ、上出来じゃないか。君の身体にも、魔導書にも負担が殆ど掛かっていない。・・・すごいじゃないか。」


「・・・は、はい!」


「正直、君がここまで出来るようになるだなんて、思ってもみなかった。これならもう、これに関して私が指南する必要もないだろう。・・・本当に、君は凄いな。」


「いえ。ルーゼさんのお陰です。ありがとうございます!」


「ああ、ありがとう。だが、慢心せずにこれからも続けるんだぞ?」


「はい!本当に、ありがとうございます!」


 彼女がそう言って笑う。・・・こうして人に物を教えてここまで喜んでもらえるとは思っていなかった。彼女の笑顔を見て、私も久しぶりにこの類の高揚感を感じて、思わず笑顔が湧き出る。


「さ。もう何度か繰り返して、慣れよう。そうしたら次の内容に行くぞ。」


「はい!お願いします。」


 そうして、私達はしばらく魔導書を使った訓練を行った。一度成功してコツを掴んだのだろう。その間、彼女が魔力の制御を狂わせてしまうことは一度もなく、正確に撃ち続けた。・・・・本当に、若者の成長速度は恐ろしい。


 そうしてしばらく続け魔力を安定して制御出来ているのを確認にて次に入る。


「アチーブ。魔導書の扱いには慣れたようだし、本格的に実戦を想定した訓練をやっていこう。」


「はい。お願いします。」


 と、彼女が張り切って返事をする。


「ああ、早速始めよう。と言っても、今日は殆ど講義ばかりになるだろうが。」


 そうして、私達は実戦訓練を始める。魔術の速射、体の動かし方、等様々なことを彼女に教える。その中でも特に大事だと伝えたことがいくつかある。


「アチーブ、君は実戦、特に人と闘う時に特に大事なことはなんだと思う?」


「・・・何でしょう。難しいですね。」


 アチーブがそう言って考える。


「まぁ、即答は難しいな。これはあくまでも私の感覚だが、『絶対に相手から目を離さないこと』が大事だと思っている。」


「相手から目を離さないこと・・・ですか。でもそれって、当たり前のことじゃないですか?」


 とアチーブが返してきた。私は笑いながら


「そうだな、相手を見ずに闘うなんて馬鹿のやる事だ。じゃあ、何故わざわざ上げたと思う?」


「・・・私が出来てない、からですか?」


「まぁ、少しだが、そう言う意味もあるな。」


「はぁ、やはりそうでしたか・・・。」


 と、彼女が若干落ち込んだように項垂る。


「まあ、それは一旦置いといて。私としては実戦において、ひとえに ”相手を見る” と言ってもそれをする事に色んな意味があると考えているんだ。」


「色んな意味、ですか。」


「例えば、相手を見ることで相手の癖を理解できる事とかかな。どんな強い奴でも戦いの中で自然と己の癖が出てきてしまうんだ。例えば君の場合、魔術を使う時に一瞬だけ魔導書の方を見る癖がある。」


「・・・確かに、してるかもしれません。」


「あぁ、してるぞ。本当に命取りだから、魔導書を見ずに魔術を使えるように改善したほうがいいね。」


「分かりました。注意します。」


 彼女との実戦訓練はそれほどやっていなかったが、それでも目に余る癖がいくつかあった。これはあくまでその一つ、まぁ、彼女のことだからすぐに改善するだろうか。


「で、これの改善案だが、相手の顔辺りを見るようにするといい。そうすると、さっき言ったようなこ目を離さないことも出来るし、相手の狙いも分かる。」


「相手のどこを狙っているか分かるってことですか?」


「そうだね。相当な強者でもない限り、普段は大丈夫なことでも攻撃する瞬間には狙う部分を見てしまう事が多い。だから、相手がどこを見てるかってのも見るべき所だな。」


「分かりました。」


 そう言って、彼女はメモを取る。


「かと言ってそればかり注目してると、相手の挙動が目から外れてしまうから良くないがね。」


「・・・難しいですね・・・。」


「まあね、こればかりは感覚が大事だ。そしてそれも、実戦訓練の中で経験とともに身に着けていくしかない。」


 本当は本物の戦いが一番の経験になるが、この平和な世界でそんなことが必要となるのは滅多にない。だから日々の実戦訓練で身に着けるしかない。


 彼女達が命をかけなくてもいい時代に生きているのを見ると、()()()()()()()()も決して無駄ではなかった。


「あと、魔術師相手の場合は相手の魔力を見る、という点で必要だな。魔力の動きで何を使ってくるか、どれくらいの出力か分かる。これができる側が実戦においては常に主導権を持つことが殆どだね。」


「そうですか・・。じゃあ、ルーゼさん目線だと、私が何の魔術を使おうとしているか分かっているんですか?」


「勿論、全部わかってるさ。因みに、自身の魔力をよりコントロール出来るようになると、何をするか相手に理解されないで魔術を使えるぞ。」


「・・・やっぱり、魔力のコントロールが全てなんですね・・。」


「そういう事だ。でも、君がこのまま努力を続ければきっと出来るようになるさ、心配しなくていい。」


「・・・はい。」


 そう返事をして、アチーブは自分が取っていたメモを閉じて、しまい


「それでは、今のを踏まえて、もう一度お願いします。」


「ああ、始めよう。」


 そうして、彼女と訓練をしばらく行った後、それらを終える。そうして、野営の拠点へと戻った。


 帝都まであと大体1週間、彼女がどれだけ成長できるか、楽しみだ。










 その夜、見張りの衛兵以外が皆寝ている中、私は彼らに声をかけて、野営の拠点を出た。


 どうしても、寝れなかったのだ。この平原に漂い続ける嫌な気が、私に終始纏わりついてきて気持ちが悪い。


 この平原に居ると、どうしても昔の惨状を思い出す。


 それを誤魔化す様に、歩きながら周囲を見渡すと、少し離れた場所にそれなりの高さがある高場を見つけた。若干回り道をすれば簡単に登れる傾斜があったので、そこを登り、高場の崖になっている場所に着く。


 ここなら平原の殆どを一望できる。


 平原は、日が射して明るかった昼間とは打って変わって、暗く寒い。月明かりが射していてぼんやりと明るいが、それが逆に不気味さを演出している。


 おまけに平原中に吹く強風の轟音がまるで亡者の泣き声のようだ。


(はぁ・・・全く、いつ来ても、ここは気味が悪い。)


 あの戦争を勝利へと導いた決定的要因はこの平原で起きた後に『サングレス撃滅戦』と呼ばれる戦いであった。大陸の大半を竜族から解放した私達は、ローズと共に総戦力を率い、竜族を撃滅して見せたのだ。


 それに、度重なる敗北によって竜族が弱体化していたとはいえ、私達側の犠牲者はかなり少なく済んだのだ。これほどまでに素晴らしい戦果もそうそうない。被害を抑えた上での竜族の撃滅。軍の喜びも士気も最高のものになっていたのを今でも覚えている。


 ただ、ここは竜族の死骸と怨念で埋め尽くされ、それが魔力となり、相当薄くなったとは言え、今現在でもその爪痕を残し続けている。


(・・・まるで、その全てが私に向いているみたいだ。)


 様々な事に思いを馳せていると、背後に気配を感じ振り返る。


「誰だ。・・・・・何だ、君か。どうしたんだい?こんな時間に。」


 アチーブだった。寝巻きの上に上着を羽織って防寒対策はしっかりしている。


 私が突然振り返ったのに驚いたからだろうか。彼女はやや引き攣った表情をして答える。


「私はどうしても寝れなくって。ルーゼさんこそどうしてここに?」


「・・・そうか。・・・私もそんな感じだ。」


 そう答えると。彼女はその答えに何か違和感でも感じたのか、


「ルーゼさん、大丈夫ですか?何か今日ずっとおかしいですよ?もし体調が悪いなら戻って休むべきです。」


 と、聞いてくる。・・・勘づいていたのか。私は再び平原の方を向き直し答える。今の私の顔は彼女に見せれるものではないだろうから。


「・・・そうだな。・・・そうかもな。・・・と言っても、体調が悪いわけではないのだが、この平原に来てからずっと私の周りを嫌な魔力が漂っていてね。そのせいで様子がおかしく見えるのかもしれない。君は、感じないかね?」


「・・・嫌な魔力、ですか?私には何も・・・あ、でも、どことない不気味さは感じますね。夜になって初めて気付きましたが。」


 思わず驚いてアチーブの方を向く。


「・・・そうか。君も、感じるかい。」


 私がそう言うと、アチーブが、


「そう言えば、この平原って『サングレス撃滅戦』があった地ですよね。皇帝ローズと、大賢者ゼーレが率いた連合軍が竜族を撃滅した、あの伝説の一戦。」


 とまさかのことを言う。いや、滅竜戦争の建国神話を好んでいる彼女なら、この地でそれを思い浮かべるのは当然か。


「そうだったな。それなら、この景色と雰囲気の不気味さも、竜族の怨念のせいだったりするかもな。」


 と、冗談交じりに笑いながら言うと、


「ちょっと。怖いこと言わないでくださいよ。」


 と、アチーブが顔を顰める。彼女は以外にもこういった話は嫌いなのだろうか。私はつい面白くなってしまい笑いながら、


「悪かったよ、すまないね。怖がらせるつもりはなかったんだ。許してくれ。」


 と、謝罪する。


「はぁ、もう・・。まぁいいですよ。・・・でも、私としては雰囲気はともかく、この景色は不気味さと言うよりも美しさを感じますけどね。」


 そう言って、私の隣に彼女が近づいてくる。確かに、今まで撃滅戦のあった地とばかり思っていたから、そういう風に見ていなかった。


 そしていざ、そう考えながら見てみると、夜の世界に射した月光が、平原に透き通った雰囲気を与え、まるで凍てついた銀の様な荘厳さを私達に見せつけてくる。


「・・・確かに、綺麗だな。」


「・・・ですね。いいものを見れました。」


 そうして、その景色を堪能している内に、私はつい、亡き友を、この場で散った輩を想う言葉を詩にして、口ずさんでいた。


「何の歌ですか?それ。」


 アチーブが、私の詩が何か聞いてきた。


「ん?ああ、自作のものだ。強いて言うなら、鎮魂歌ってとこかな。」


「ふぅん。素敵ですね・・。」


 アチーブはそう言って、再び平原の方に目をやる。そうしたアチーブに私は声をかけ。


「アチーブ、そろそろ戻ろう。明日もあるんだ、少しでも寝た方がいいだろう。」


 彼女は私の言葉に振り返り、


「そうですね、そうしましょう。」


 と、言った。


 そうして私達は、野営の拠点へと戻る。戻り際、アチーブが私にこう言った。


「あの景色、本当に綺麗でしたね。ルーゼさん?」


「ああ、そうだな。君のお陰で見方が変わったよ。ありがとう。」


「ふふっ。そうですか。それなら良かったです。」


 そう言って彼女は笑う。


 美しい、か。この平原に対する見方も、心持ちも変わったようで、来た時とは逆に何とも言えないいい気分になっていた。


 彼女には感謝しよう。







『サングレス撃滅戦』


504年前、当時、大陸の大半を竜族から解放したローズ率いる連合軍と、それを迎え撃ち起死回生の一手を打たんとする竜族がサングレス平原で互いに総戦力で激突した、滅竜戦争最大の一戦。


竜族が弱体化していたものあり、連合軍は想定よりも少ない犠牲者で、戦場の竜族のほぼ全てを撃滅したこの戦争の勝利を決定づけた。この地で殺された数千を優に超える竜族の死骸と血は平原中を埋め尽くし、50年近く消えなかったとされている。




読んでいただきありがとうございます。


忌避なき意見と感想を是非お願いします。


これからもよろしくお願いします。

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