第八話 衛兵達と
こんにちは。タタラです。
よーやく大学の課題を終わらせられたので、ここからはそれなりのペースで更新できそうです。
ーートリノ町を出発して1ヶ月、ルーゼ、アチーブ一行、ルーアン公爵家領内にてーー
その日、私達は貴族領の中で各々自由行動をしていた。本来なら次の目標地点に向けて出発していたはずなのだが、予定よりも大分余裕を持って帝都に向かって進めていたため、この街でしっかりと物資の調達や馬車等の点検を行うことになったのだ。
私はというと、アチーブと共に1日中魔術の稽古を行っていた。街の外れにある空き地があり、そこなら使ってもよいと言われたので、有難くそこを使わせてもらっている。
いつも通り、魔力の制御を始めとした基礎的な内容を中心とした稽古だ。
彼女は私から受け取った細い木の枝に魔力を込めて、火の初級魔術を使う・・・そして、打つその瞬間にそれは壊れなかった。
「・・・今回は出来ましたね。ただ・・全く安定しませんが。」
「そうだな。だが、確実に成果は出ているぞ。事実、それを壊さないように魔術を打てることが出来るようになったじゃないか。・・偶にだが。」
そう、アチーブはこの1ヶ月で棒を壊さずに魔術を行使できるようになったのだ。・・・最も全く安定しないが、しかも今回の場合は棒にヒビが入って割れ欠けている。
「・・・偶にじゃ駄目でしょう?それに、この棒も壊れかけてます。・・もっと努力しないと。もう一度お願いします。」
「それは構わないが、一旦、休憩しよう。」
そう彼女に促し、一旦小休憩を挟む。
正直、彼女がこの短期間でここまで行けるとは思わなかった。私の見立てでは帝都に着いて私と別れる直前でこのレベルになると思っていた。それも全て、毎日少しでも多くの練習をしようという、彼女の情熱があってこそのものだろう。
だったら、もう一段階先に進めてもいいかも知れない、
そう、彼女のことを考えていると、その彼女はこちらにまで届いてくるほどの賑わいを見せる街の方を眺めながら、
「・・ふと、思ったんですが。この領も十傑の子孫が治める領地なんですよね・・。確か・・クリオシータス、でしたっけ?」
私は正直(いらんこと聞いてきたな)と思いはしたが、
「そうだな。確か、光と闇魔術を完成させた、と言われる男だったな。」
奴は本当に、狂気的なまでの好奇心と研究心を持っていた。たった47の生涯で、現在の闇、光魔術の殆どを完成させてしまったのだ。私ですらただ一種の光の魔術を除けば彼が生きている間、この分野について彼を越せたことはない。
まぁ、確かに傑物ではあったがただ・・同時に、奴は、私がトラウマになるほどの度を越えた奇人であったが、それ程の情熱と好奇心が彼の力の源だったのだろうな。
「すごいですよね。だって今でも彼が作った術式が使われているんですよ?」
「そうだな。本当に、魔術を研究する者として尊敬するよ。」
私は彼に思いを馳せ、笑う。本当に、色んな意味で凄まじい男であった。
「さて、そろそろ再開しよう。大丈夫だね?」
「はい、お願いします。」
そうして、稽古を再開する。しかし、その前に、
「アチーブ、これからはやや実戦を想定した内容も取り組むことにしよう、具体的には魔術の速射。魔力、身体動作共になるべく起こりを見せず、素早く打つ、これからはこれも意識していこう。」
と内容と趣旨を彼女に伝えると、彼女は
「わかりましたけど、理由を聞いてもいいですか?ほら、今まで、魔力の制御ばかりだったのに、いきなりじゃないですか。」
当然、気になるだろう。
「簡潔に言うと、”君が出来る様になったから次の段階に進む” だけだ。魔力の制御が大分出来る様になったからね。今度からは実戦的な段階にも進んで行こうと思ってね。」
「でも、その魔力の制御もまだ安定してません。中途半端になってしまいませんか?」
「確かにそうだし、私も最初は、君の魔力の制御の話のみに焦点をしぼるつもりだった。ただ、君の成長速度を考えると、もう一段階先のことも出来るのでは、と思ってね。ただ、もし君がまだ早いと思うなら、後回しにするが、どうする?」
アチーブは少し考えてから、
「いいえ、お願いします。ルーゼさん。」
「ならば、早速始めようか。とりあえず一回目は”早く打つ”ことを意識してやってみたまえ。」
そうして彼女は私から再度細い棒を受け取り、それを私に向けて、素早く魔力を込めて火の魔弾を打つーーーーはずだった。
「あっ!!!」
魔力を込めた瞬間に、木の棒は木端微塵に砕けてしまった。理由は明確、素早く魔力を込めることを意識したため、いつもなら出来ていた魔力の制御が弱くなってしまったことだ。
「・・・・・難しい・・ですね。これだけで魔力の制御が何も出来なくなるなんて。」
「まぁ、最初はこんなもんさ。それより、君の身体への負担は大丈夫かね?何かあるなら治すぞ?」
私の言葉を聞き、彼女は魔術を使おうとした右手をみて、手をグーパー繰り返して、
「大丈夫ですね、なんとも無いです。」
「そうか。・・・フッ、だったら『何も出来てない』なんてことはないだろう。以前の君なら右手を痛めていたんじゃないか?そう考えれば、いきなりやったにしては十分で制御できていると思うぞ?」
おそらく、毎日のように魔力の制御を練習してきたから、アチーブは無自覚にそれがある程度出来るようになったのだろう。
「・・・そうですね。」
「君は確実に君は魔力の制御ができるようになっている。もう少し自信を持ってもいいんじゃないかな?」
謙虚な姿勢も、そこからくる向上心も大切なことだが、それが卑屈になってはいけない。多少、自分に自信をもっていた方がいい。
「・・・そうですね。ありがとうございます。もう一度お願いします。」
「ああ、続けよう。」
そうして引き続き、私達は魔術の稽古を行った。しばらくの時間が経った頃、衛兵の1人がこちらにやってきた。
「お二人共、少しよろしいでしょうか。」
「「どうかしましたか?」」
と私達が返事すると、
「少し早いですが、約1時間後に全員で夕食を取ろうという話しになっています。是非、お二人もご一緒にどうでしょうかと思いまして、どういたしますか?」
気付けば、もう日も大分傾いてきていた。アチーブはすぐに返事して、
「あ、ではお願いします。ただ・・・その前に色々片付けとかさせていただけませんか?」
「はい、構わないですよ。ルーゼさんはいかがされますか?」
「勿論、参加させていただきます。」
断る理由もない。しかし、その前に解決しておきたい事がある。
「かしこまりました。では一時間後にこちらの店に来てください。」
そして衛兵は街の案内図を見せてくれた後、衛兵のリーダーの元に戻っていった。それを見送ってから、私はアチーブに対して
「さあ、片付けよう。」
そう言って彼女と共に、砕けた木の破片などを片付け始める。
そして一通り終わらせた後、私達は街の方に戻っていた。その途中、アチーブが私に対してこんなことを聞いてきた。
「今更なんですが、ルーゼさんって500年祭の為に帝都まで向かうんですよね?」
「ああ、前に言った通りだ。」
前にも話したはずだが、どうしたのだろうか。街の大通りに入って歩きながら彼女は更に聞く、
「500年祭って10月の1ヶ月の間じゃないですか。でも私達は4月の頭くらいに帝都に到着するんですよ。それはご存知ですよね?」
「ああ、分かってるよ。それがどうしたんだい?」
「じゃあ、その間の期間はどうするんですか?約半年間も帝都でなにするつもりなんですか?」
成程、確かにそのことについては彼女に話したことは無かったな。
「まあ、帝都に行くのは久しぶりだから、昔と違うこととか色々気になるし、500年祭のまでの期間は気まぐれに色々な所を回っていこうと思っているよ。」
まぁ、10年単位どころか500年ぶりになるのだが。今までずっと避けていたが、それほどの時を経てどれだけの変化が起こっているのか本当はずっと気になっていた。だからこそ500年祭までの期間それを心ゆくまで堪能しようと思う。
「中央学院には来ないんですか?」
「行ってみたいとは思うが、中央学院って部外者は入れたか?許可が必要だったと思うが。」
私達が中央学院を立てた時には、かなり厳密な許可を必要にしていた。確かアチーブも許可証を持っていたはずだ。それとも、500年の時を経て緩和されたのだろうか。
「あー、そうでしたね。でもなんか商人とかは一部入ってきていて、交易の場もあるらしいですよ?だから、ルーゼさんも一部なら入れるかもしれませんね。」
「そうか、一応考えておくよ。だが難しいだろうな。」
一応、余程内部の構造が変わって無い限り、私なら入ろうと思えばいつでも侵入できるはずだ。実際、あいつに会う為に一度は必ず侵入するつもりでいる。
しかし、もしそれが発覚すれば、最悪アチーブに危害が及ぶ危険性がある。そうしたことを考えると慎重に行動した方が良さそうだ。
「そうですか・・。私としては、中央学院に入った後もルーゼさんに指導して頂けたら嬉しかったんですが。・・仕方ないですね。」
そうして彼女は少し残念そうに笑う。
「・・生徒達が帝都の街に出る機会もあるだろう。もし、その時に会うことができたのなら、その時は君が学院で身に着けたことを是非見せてもらおう。基本的に中心街にいるつもりだから、会う可能性もそれなりにはあるはずさ。」
「そうですか・・・!。私もその時を楽しみにしていますよ。」
中央学院の生徒が帝都の中心街に来る機会があって、それと私のタイミングさえ合えばアチーブと会うこともできるだろう。
そんなことを話しながら街を歩いていると、前方にいる一団が私たちの方を向き、手を振ってきた。衛兵たちだ、待ち合わせの時間にはまだ少し余裕があったが、どうやら私たちが最後だったようだ。
「すみません!お待たせしました。」
「すみません、もう集まっているとは。」
私とアチーブが衛兵達に軽く謝罪する。衛兵のリーダーは、
「いえいえ、遅れた訳でもないですし、謝らなくて大丈夫ですよ。それよりも早速お店に向かいましょう。」
そうして私達は衛兵達と合流し、全員で食事を取り、その後各々の宿のお部屋で休むため、実質的な自由時間となった。
私も、今日は特にやることももう無いので、指定された自分の宿に向かっていた。
すると後ろから「ルーゼさん!」と声がかかる。振り返ると声の主は衛兵達のリーダーであった。
「ああ、貴方でしたか。どうかされましたか?」
「ええ、確かルーゼさんと私は本日同じ宿でしたはずなので、どうせでしたらご一緒に、と思いまして。ついでに話したいこともありますから。迷惑でしたか?」
そう言えば、今日の宿は彼と同じであった。話したいことも気になるし断る理由もない。
「いえ、大丈夫ですよ。行きましょう。」
そう言って、私達は二人で宿に向かう。その道中リーダーが私に話しかける。
「ルーゼさん、ご存知でしょうが、我々は後約2週間と少しで帝都に到着します。予定よりもずっといいペースで進めれています。」
「ええ。」
今のペースで進めれば、本来帝都に着く予定の日よりも2週間近く早く到着できるだろう。それだけの余裕があれば多少のトラブルであればどうとでも出来るし、アチーブの魔術の練習もより出来る。
「勿論、天候に恵まれたのはありますが、・・・ルーゼさんのおかげでもあるんですよ? ”認識阻害の結界” あれのお陰で賊への対策で変な迂回で時間を浪費せずに済みましたから。」
そして彼は続けて、
「それに、貴方のお陰で楽しかったんですよ?いい店を見つけてきたり、面白い話を聞かせてくれたり、
楽しかったです。少し早いですが感謝を伝えたくて。」
こんな真正面から言われるとは思わなかったが、私に対してそのように思ってくれていたのは素直に嬉しい。私も彼に向けて、
「私こそ、貴方達と旅が出来てよかったです。自分は今までずっと一人で生きてきたんですよ。ただ、やっぱり、人と共にいた方が楽しいんですよね。貴方たちのお陰で久しぶりにそれを思い出せましたよ。」
「そうですか・・・!よかったです。」
私が帝都を去ってから約500年の間、その殆どを一人で生きて来たが、時折人と関わることも一応はあった。それでもここまで長い期間同じ人達と行動を共にしたのは久しぶりだ。
彼らと共にいたことを、私は生涯忘れることはないだろう。
「ところで、私は帝都に着いた後、500年祭が終わるまでは帝都に滞在しますが、あなた方はどうされまるつもりなんですか?」
「あー、我々アチーブさんを中央学院に届け終わった後にアーテル領へ戻ります。」
「そうなんですか?・・では500年祭には参加できないんですね・・・・。」
彼らに少し同情し、自分だけ500年祭を楽しむつもりなのが、少し申し訳なくなってしまった。それを察したのか、衛兵のリーダーさんは、
「我々に気を遣う必要はありませんよ、元々そういう仕事でしたから。ルーゼさんは500年祭を楽しんできてください。」
と私に言ってくれた。本当に彼は人間ができていると思うぞ思う。
「でしたら、500年祭が終わって、都合がついた時に、お土産とかを持ってそちらにまた行きますね。」
「・・・・! はい!楽しみにしています!」
500年祭が終わった後の楽しみも出来たし、これからの1年間位の期間は退屈しなくて良さそうだ。
一やっぱり、いつの時代も人で魔術の研究をしながら旅をしているよりも、人との関わりがあった方が人生は楽しい。改めて、そう思わされた。
読んでいただきありがとうございます。
第2章はあと大体3話程度で終わると思います。
忌避なき意見と感想を是非お願いします。(誹謗中傷などはおやめください。)
これからもよろしくお願いします。




