第十六話☆危険
この国には大小様々な階段が架けられている。たいてい鉄やコンクリートでできているけれど、耐久年数は実のところ、みんなあまり気にかけていなかった。
その日ぼくは街なかの主要階段を登っていた。
みしみし。嫌な感触が微妙に足元から伝わってきた。
じっと立っていると、大きく、ゆっくり揺れているのがわかった。
「みんな!この階段、危ないぞお!」
そう叫んで、周囲の人たちがざわめくのがわかった。
「鉄の支柱のコーティングが剥がれて、赤錆がすごいことになってるぞ!」
支柱近くの誰かが叫んだ。
ぎぎききい。
階段の一区画がきしんだ。
みんなパニックになって逃げようと急いだ。
「落ち着いて!ゆっくり逃げるんだ」
人々は怖々ばらけて行った。
ぼくもそこの問題の箇所から離れた。
しばらくして、自警団の人たちが駆けつけて、黄色と黒の予防線で立ち入り禁止にした。
「きみが最初にきづいたの?」
「ええと、ぼく、よくわかりません」
「その少年が最初に気づいたよ」
支柱近くで叫んだとおぼしき男の人がそう言った。
「この人が、支柱の錆に気づきました」
ぼくはそう言って、その男の人を指さした。
「二人ともお手柄です。ここの階段を修復し終えたら表彰式を行いますから絶対来てください」
えーと、なんか、面倒なことになったぞ。
「ぼく、急いでるのでこれで」
「きみ、名前は?」
「ありません」
「呼び名とかは?」
「ありません、さよならっ!」
脱兎のごとく逃げ出した。人前にひっぱり出されるなんてごめんだよ。小説を書いて自己主張はほどほどにやっているから、それ以上目立つことは嫌だった。
カシャ。
近くでカメラのシャッター音がした。嫌な予感。
なんでほっといてくれないんだ!
数週間後。表彰台で感謝状を受け取るはめになった。
吊るしの上着を着て、というより、がぼがぼの上着に着られて椅子に座る。隣の席にはあの支柱の男の人が落ち着いた様子で座っている。
「……であるからして、国中の階段の点検をさらに力をいれていきたいと思っております」
お偉いさんが長ったらしい挨拶を終えた。
一斉に拍手。
ぼくもおぼつかない感じで拍手する。
翌日の新聞の見出しにぼくたちが載った。
お隣さんがやってきて、ほめちぎったけれど、ぼくはかえって縮こまってしまった。