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夜明けの契約と未来の欠片

作者: 蟹漁船

初の短編小説です。

夜のコンビニってなんだか素敵ですよね。

自分の地元は田舎なので尚更。

夜勤バイトのおねーちゃんの名前はユナです。

可愛がってあげてください。

「おねーちゃん、お酒くさいよ」


チビガキが、鼻をつまんで言った。


「うるさい。言われなくても分かってんの。」


私は缶チューハイをぶら下げて、コンビニの裏口に腰を下ろした。制服のスカートがアスファルトにくっついて、じわっと冷たい。

でもそれも、ちょっと心地よかった。


ガキの名前はリクって言うらしい。

幼稚園児で年齢は5歳か6歳…ぐらいだと思う。

両親のケンカがひどくて、夜になると家から脱走してこのコンビニに来る。私のバイト先。

夜勤の暇つぶし相手になるし、怖いもの知らずでなんたって可愛い。


「おねーちゃん、またケンカしたの?」


「してねーよ。してないけど…もうウチの子じゃないって言われた。あのクソ親父に。」


私は家族とは仲がいい。

前まではそう思っていた。



中学までは、親の言うとおりにちゃんとやってきた。テストでは毎回上位。通知表は5段階評価の5でほとんど埋まっていたし、先生からの評価も高かった。

親戚たちの集まりでも「うちの子が一番」と言われて、誉められることが当たり前だった。

その度に誇らしそうにしているお母さんをみて、私は嬉しかった。

一人っ子だったし、たくさん愛情は注がれてきた…

と思う。


でも、その裏ではずっと張りつめてた。苦手な科目のテストで平均点よりもずっと高い80点を取っても、


「どうして90点じゃないの?」


と聞かれた。

その返答には『ごめんなさい』しか求められていなかった。

勉強のために部活を休みたいと言えば、


「甘えたことを言わないの。」


と返された。

仲いい友達が引っ越すからお別れ会をしたいと言った時も、塾と習い事を優先された。


『勉強をしていれば間違いない』


『ちゃんとしてれば将来困らない』


そう言われて育ったのに、高校に入ってふと、自分の中身が空っぽなことに気づいた。


——勉強以外、何も自分で決めてきてなかった。


高校に入ってすぐのテストで大コケした。

それだけのことだった。

でも、それをきっかけに自分の中でなにかの糸がプツンと切れた。

お母さんは


「何があったの?」


「なんで前みたいにできない?」


って詰め寄ってきた。


「もう無理、期待しないで…」


って泣きながら言ったら、


「そんな弱音吐く子じゃなかったでしょ。」


って突き放された。


そこから、家に居場所がなくなった。

無理してたんだって、誰かに気づいてもらって、少しでいいから慰めてほしかっただけだったのに。


夜勤バイトを始めたのは、家に帰りたくなかったから。それだけ。


でも、制服でチューハイ飲みながら、ガキと話してる時間のほうが、家にいる時よりずっと“私”でいられたんだ。



『あのクソ親父に。』


そう口にしたことに気づき、すぐに後悔した。

ガキに向かってクソとか言うなよな、私。


でもリクは、別に気にしてない顔だった。

むしろ、ニヤっと笑って


「じゃあ、おねーちゃんもおうちからにげてきたんだ!」


って言ってきた。


「は? 私は逃げてきたんじゃなくて、外で飲んでただけ。」


「でも、まだオトナじゃないでしょ?」


「うっせ。チクったら怒るかんな。」


「こわ〜い…でもおねーちゃん、泣いてるよ。」


その言葉に、背中を指でなぞられたように、背筋がゾクッとした。思わず、袖で顔をこすった。

…ああ、ほんとだ。涙。いつのまに…


「リク、さっさと帰れ。こんな夜中にガキがウロウロしてんじゃねーよ。」


「やだ。おねーちゃんが怒ってるとこ、まだ見てたい」


こいつ、ドMか?


それとも、私が知らない”何か”を知ってるのか。


このコンビニの裏には、星も月も見えない。街灯と自販機の明かりだけ。リクは、その自販機の前で正座を始めた。しかもなぜか拝んでる。


「なにやってんの?」


「星が出ますように!っておねがいしてるの。そしたら、おねーちゃんが元気になるかなって!」


私は思わず笑ってしまった。


「アホかよ。自販機は神様じゃねーぞ。」


「でも、光ってるし、きっと神様だよ。」


そう言ってリクは、パンパンと小さく手をたたいた。


あれ、私、涙止まってる…


バイトの時間までは、あと30分。こんな時間に出歩いてるガキも、制服姿で缶チューハイ片手に座ってる私も、きっとどっちもろくでもない。でもさ、


「リク、どうせならさ。神様にもう一個、お願いしといてよ。」


「なあに?」


「明日、バイトサボれますように!って。」


「えー、サボるのはダメでしょー!」


でも、リクはまたパンパンと手をたたいた。

その音が、なんか、すごく優しかった。



バイト中、ずっとリクのことが気になってた。


…あのまま、家に帰ったのかな。

途中で誰かに捕まってないよな。

私はレジに立ちながら考えていた。


客のいない時間に缶の並びを直したり、弁当の賞味期限をチェックしたり、暇つぶしに追われた。でも、なにをしても手が止まるたびに思い出すのは、あのガキの顔。


「…ったく、あいつ何者なんだよ」


私はうんざりしながら、カップ麺の棚を拭いた。


背中のほうで、カラン、とベルの音がした。


夜中の3時。入ってきたのは、だらしなく髪がボサボサの、スリッパ姿の男だった。目がすわってる。

ヤベー人なのは誰から見ても分かる。


「おい、そこのねーちゃん」


「いらっしゃいませ〜…」


「さっきここでガキ見なかったか? 5歳くらいの、青いポーチつけたちびすけ。」


「…いや、知らないっすね。」


私は、わざと低い声で言った。


「チッ、んだよ…」


男は、舌打ちをしてコンビニを出ていった。


外に出るまで、ずっと私のこと睨んでた。


——あいつが、リクの父親か。


私は無意識に、拳を握りしめていた。


「ふざけんなよ、クソ親父…」


自分の父親と照らし合わせていた部分もあると思う。ただ、ひたすらに腹が立った。

でも、なにもできない。私はただの女子高生で、未成年で、夜中にチューハイ飲んでるだけの夜勤バイト。


正義なんか振りかざせない。

殴られたら終わり。やられ損。


でも…


「だからって、見捨てるのも違うだろ…」



バイトが終わった午前5時。

私はリクを探しに行った。


最初に向かったのは、自販機。

だけど、そこには誰もいなかった。


次に向かった池の周りにも誰もいない。

水面は風に揺れて、静かに音を立てた。


「リク……どこ……」


池の近くの藪の奥、遊歩道の影、小さな橋の下。

ありとあらゆる可能性を疑って、声を押し殺して探す。


近くの公園にも足を運ぶ。

ブランコの鎖がカランカランと揺れている。

けれど、そこには誰もいない。

焦りだけが胸に溜まっていく。足音だけが響く夜の景色の中で、私はひとりぼっちだった。


最後の頼みの綱である、ビルの裏。

段ボールがいっぱい積んであって、捨て猫がたまにいる場所だ。

ここでリクと猫の世話をしては色んな話したっけな…

半ば諦めた様な気持ちでダンボールをそっと覗いてみる。


「っ…リク!!!」


リクは段ボールの中、猫と一緒に寝てた。


「……お前、ほんと、小動物かよ、」


さっきと違って私は自分の意思で泣いていた。

小声でつぶやいて、私はリクの頭を撫でた。


リクは目を開けて、眠そうにこっちを見た。


「……おねーちゃん。来てくれたの?」


「当たり前だろ…」


私は自分の制服のジャケットを脱いで、リクにかけた。


「あったかい…」


「そのかわり、お願いあるんだ。今日だけでもさ、お前の家じゃないところ、行けないかな?」


「…なんで?」


「お前の父ちゃん、さっきコンビニに来た。目がヤバかった。…危ないよ」


リクは少し考えてから、頷いた。


「おねーちゃんのいえ、いってもいい?」


「…親いねーけど、それでよければ。」



部屋に帰ったあと、私はシャワーを浴びて、リクをベッドに寝かせた。


幼稚園の制服のまま眠るリク。

私の布団で、すやすや寝てる。

ぬいぐるみみたいだった。


私はふと自分のスマホを見た。

画面には、母親からのLINEが3件。


『お金、明日までに』


『また夜遊び?』


『家に帰ってこないならもう、家族じゃないよ。』


未読のまま、画面を消した。


リクと同じじゃん、私も。


帰る家なんか、どこにもなかったんだ。


「…でもさ」


小さくつぶやいた。


「一緒にいれば、ちょっとだけ、マシかもね」


リクの髪をそっと撫でた。


そのとき、窓の外に、ほんの少しだけ星が見えた。

都会の空に、一個だけの星。


——ガキの願い、叶っちまったのかもな。


私は笑った。


ほんの少し、泣きながら。

短編いかがだったでしょうか!

連載作品もまだ1話しかできてないのに短編書くなんて、けしからん!と思われるかもしれないですが…

許してください!!!!

小説書くの楽しくって仕方なくて…

思いついた作品はすぐに書き上げたいんです!

…短編が好評でしたら今後も続けようと思います。

感想やレビューの方もお待ちしております!

ではまた次回で!

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