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スミイレ地区の中央街にある、レストラン入っていたレフスキー一行は、先ほどから胸騒ぎがしていた。


「旦那、暴れてるやつがいるのに気づいたかい?

ここから近いところで何発も術をぶっ放してる奴がいるぜ」


リャブツキーが反応して、頼んだ紅茶を飲んだ。


「せっかくの休みだというのに、なんでこんなタイミングで他の悪魔がいる地区に入っちゃったんだろうね…。せっかくの頼んだワインも不味くなるよ」


レフスキーはそう言うと、傍らにあったワインを一気に飲んだ。テーブルには様々な豪勢な料理が置いてあった。三人はここで料理を頼んだらしい。猫のマーロウもこのレストランでは客として迎えいれられ、ご満悦のようだ。


「僕の勘だとかなりやばいやつだよ。

力の規模もかなり高い。上級までは行かないけど、若くて力のある地獄の悪魔だね。」


マーロウがステーキ肉をフォークを突き刺してまるまるとかぶりついている。何とも野性的な食べ方だが、誰も指摘はしなかった。


「うわさで聞いたことがある。スミイレ地区で野放図に好き勝手にしてるやつがいると。同族には手出さないやつだとは思ったから言わなかったが、さすがにこんなにバンバン力を使われると嫌な予感がするな」


「私たちは気にせず、この旅行を楽しむことに専念しよう。楽しんでいれば、忘れられるさ」


三人は各々頷き、目の前の料理を楽しむことにした。


すると、近くの席で怒声が鳴り響いた。


「お前、ふざけんなよ?」

壮年の男性が怒鳴り声を上げていた。見たところ、ワイシャツを崩して着ている気質ではない男で、何やら胡散臭い雰囲気がプンプンとする男だった。噛みつかんばかりに目の前の怯える背の低い男性に文句をつけている。


「それにしても何ともトラブルが多い旅行だよな

変なの出会いっぱなしじゃあねぇかよ」


リャブスキーが声のする方の席を見て言った。マーロウも「そうだね」とつぶやきながら、ステーキをいきよいよく食べ続けている。

店の店員が出てきて、彼らを制するが喧嘩腰の壮年の男は益々ヒートアップしていた。


「これは、俺とこいつの話なの!

あんたたちには関係ないんだよ、あっち行った。

この話はね、大事な話なんだ。オレにとってはこんなむしゃくしゃする話はねぇよ」


「ですが、お客様…、周りのお客様のご迷惑になりますので…」



「お金が必要なのですか?」


レフスキーが彼らの前に顔を出した。リャブツキーはあちゃーと顔に手を当ててあきれ果てている。

(どうして旦那はああもしゃしゃり出るんだ?)

壮年の男の目がきらりと光り、レフスキーの顔をまじまじと見ながら話した。


「ああ、そうだ。

金はあればあるだけ困るもんじゃあねえからな。

あんた、この男の代わりに払ってでもくれるのか?」


男はドンと強く脅すように、酒が入ったコップを机に勢いよく置き、出方をみる。レフスキーは、「なるほど」といって、しばらく考え込む様子をした。


「私が払ってもよろしいのですが、どうしてそんなことになったのでしょうか?」


「この男がカネを払わねぇからだよ。

俺の乗ってた自転車が壊れてたんだ。話によればこいつが俺のいない時を狙ってわざと壊したんだ」


「ちがう!!彼が勝手に僕が壊したことにしてきたんだ」


背の低い男は、バックをぎゅっと握って主張が違うことを伝えた。

壮年の男は、気に入らないように背の低い男を一瞥してから言った。


「俺はね、別に金がほしいからってこうやって大声上げてるわけじゃあねーのさ。ただわざと壊したってことがムカつくんだよ、わかるか?狙ってやってるかもしれねぇし、個人的にむしゃくしゃしてこんなことしたのかもしれねぇけどな、そうだった場合、知らねぇやつに八つ当たりして喜んでいるやつがいるってのが気に入らねぇんだよ」


「僕はそんなこと知らない!他の人じゃないか」


2人の主張が食い違い、どうにも話が進まない状態になってしまった。壮年の男が怒るのもまっとうな話で、うさん臭い身なりをしているが、主張は正々堂々としていた。レフスキーは、後方にいる2人に合図をして、話をまとめることにした。


「まあまあ、そんなに感情的にならず。

私が彼の代わりに立て替えて差し上げます。

それでこの件は終わりにしていただけませんか?」


壮年の男は鼻を鳴らした。

「それはありがたいことだがよ、こいつがまた違う人に同じことをやる気がするんだよ。そうなった場合、あんたの好意も無駄に終わるんだぜ」


「それは過去を見てみないと分からないですからね」

レフスキーはそう言うと、まじまじと背の低い男を見つめた。背の低い男はぎょっとして、席を動かした。

後方にいたリャブツキーはマッチを擦るとその炎の光に、次元の現場になった数時間前の映像が映った。

(さあ、誰の話が本当なのか)


と、そこで窓ガラスが弾けるように一気に壊れた。

店内をかまいたちのような斬撃が入りこみ、、椅子に座っている客がそれにあたり、弾けるように倒れる。

その斬撃はギュインギュインと機械音のような猛烈な音を出しながら、レフスキーに向かっていく。


「なんだ?!」

壮年の男が大声を上げると、レフスキーは彼を勢いよく突き飛ばして、地面に倒した。


(見つけるのが早すぎだろう…)

リャブツキーは冷や汗を流した。見つけるのがあまりにも早すぎる。力が放たれた場所から遠いと思っていたのに、何十分後にこの場所を見つけるなんて。


「みいつけた」


店に放った斬撃とともに中に入ってきたのは、ヴェルホーヴェンスキーだった。その傍らには斬撃の犠牲になった背の低い男がいた。ぱっくりと頭から下半身まで真っ二つに切断されて、その断面から血が滴り落ちている。ぼとりと肉塊は地面に落ちた。リャブツキーがみた数時間前の犯行現場で細工をしていたのは彼だった。胡散臭そうな男が言っていたことは事実だったのだ。

ヴェルホーヴェンスキーは今から楽しいことが始まるとギラギラとした瞳で興奮しているようだった。ゆがんだ口から漏れる笑いが収まらないというようにピクピクと唇が動いている。


「僕の邪魔をするなんていい度胸してるよ。

それも同族なんて、普通人間がどうなったっていいもんだと思ってるのがほとんどなんだけど、変わった悪魔もいるもんだね。

ただじゃあおかないから。」

明朗とした声で、ヴェルホーヴェンスキーは宣戦布告した。彼は腕まくりをすると、その両手を合わせて、揉みしだくように動かした。店内は斬撃のせいで木っ端微塵に粉砕され、悲鳴を上げながら客が頭を抱えて出口に逃げ惑う。と、その逃げている客の足が宙に浮き、空中で足漕ぎをする状態になる。驚いた人々は口をあんぐりと上げ、何が起きてるのか判断がつかなかった。

ヴェルホーヴェンスキーが獣の咆哮のような唸り声をあげ、つないだ両手を踏ん張るように握りしめている。レフスキー一行は、彼の行動を攻撃の前の準備だと気づき、間合いをとり始めた。


「邪魔されて黙ってる僕じゃないんでね。

それ相応の痛みを味あわせなきゃ、気がすまないんだよ」


ヴェルホーヴェンスキーが、一段と大声になると彼の周りに黒い魔法陣が揺らめきだし、布のような帯状のものが地面からでてきた。めきめきと音を立て、地面が割れるような音が鳴ると思うと、空中に浮かんでいた客の体が、あらぬ方向にバキバキと逆方向に曲がり、血まみれの肉塊になった。それが一気に輪っかのようになったかと思うと、レフスキーに一直線に飛んでいく。物凄い早さだった。彼の体に纏わりつくようにくっついたと思うと、身動きが取れないようにぎゅうぎゅうに縛り上げる。


「何のことやら、さっぱりわかりませんね」

レフスキーが不満げな声を出す。


「惚けるな、女に花をやっただろう?」


「花?女性にやったのは覚えてますが、それが何か?」


「お前のせいで、僕の最高の瞬間が妨害されたんだ」


「おい、お兄さん、何のことだかわかんねぇが、あんたが怒ってることはわかるよ。あんたがここまでやるほどあの人を倒す価値はねぇよ」


リャブツキーが諌めるようにいうが、ヴェルホーヴェンスキーは一瞥しただけで、攻撃の手を緩めようとはしなかった。リャブツキーが思うには、この場にいる客たちの体を粉々にするたびに、ヴェルホーヴェンスキーの体にもそのダメージが入っていってるはずだった。その痛みは、計り知れないほどの痛みなはずだ。その痛みを耐えるほど、レフスキーに価値はなかった。


「契約が決行された。それが許せない。

僕の見立てでは、契約はなかったことになって、あの女は無駄骨を折るストーリだったんだ」


「地獄の悪魔ですか。契約を完了したと思わせて、なかったことにする悪魔がいるとは聞いていましたが、あなたのことだったんですね」


「僕の名はヴェルホーヴェンスキー。昔は、人間をやってたこともある。」


「聞いたことがある。たしか、世界中を駆け回った扇動家の若い革命家が悪魔になったとか。あんただったのか」


元革命家の悪魔という話だった。地獄の悪魔で、何人もの契約者を願いをかなえずにそのまま寿命だけを頂き、契約完了にする詐欺師のような悪魔。

人間を簡単に殺すほど、何かに飢えているものだった。手当たり次第にゲームのように殺傷し、満足したら辞める。獣のような性格だった。たくさんいる地獄の悪魔の中でも特異な目で見られる存在。

その革命家の悪魔は、生前自分たちのことを告発するというメンバーを殺害し、逃走して捕まったという話だった。そして、獄中で壊血病になり亡くなったと。

後々の話では、自分を捕まえた人間を地獄に突き落として散々に責め苦を味あわせたらしい。なんとも、執念深い性格だと思ったものだ。


「あんなくだらないミスで、捕まるなんてほんとついてないよ。僕は自分が死ぬくらいなら相手に死んでもらうようにする性格だから、影武者でも作ってなすりつければよかったんだろうけど、時間がなくてね」


ヴェルホーヴェンスキーの体内でバキバキと折れ曲がりながら、再生を繰り返して、体内の血しぶきが激しく沸き立っていた。球体状に再生を繰り返しては、破壊を続ける状態に一種の幻のような靄がかかる。何人もの人を犠牲にして出来上がった、血みどろの肉塊の枷が執拗にレフスキーにまとわりついた。

彼は身動きが取れないまま、めきめきと音をたてながら締め上げられている。このままだとやばいと思ったリャブツキーは、マーロウに目配せした。


「マーロウ、出番だ」


リャブツキーがいうと、マーロウはその場で3メートルほどに巨大化し、獰猛な姿でヴェルホーヴェンスキーに鋭い爪のひっかきをくらわそうとした。だか、ヴェルホーヴェンスキーは余裕をもってその場から離れると、店の建物から外に出て、中央街に躍り出た。

その場は先ほど店の大騒動で人々が荒れ狂うように散っていた。観光客も現地の住民も恐怖に突き動かされて、その場から逃げ惑う。

ヴェルホーヴェンスキーは、捕まえたレフスキーを自分の前方に立たせて、腕を体に引き込むことで枷の縛りをきつくした。


「ぐふっ」


レフスキーの口から血が噴き出した。その体は今にも内部からぐちゃぐちゃに折れ曲がりそうだった。


「なんだ。残念だ。もっと歯ごたえのある悪魔だと思ったが、全然弱い」

ヴェルホーヴェンスキーは歪めた口でそう言うと、まじまじとレフスキーを見つめたあと、唾をその顔に吐き出した。


「期待外れだ、こんな雑魚に用はない」

と、人さし指を銃のようにレフスキーに向け、指先に力を集めて一気にたたみかけようとした瞬間、その右目が七色に光っては至近距離で爆発した。

レフスキーが、左手でヴェルホーヴェンスキーの右目を狙って、術をかけたのだった。


隙があったヴェルホーヴェンスキーは、その右目がぐちゃぐちゃに窪みができて、顔がえぐり取られたようになっていた。七色の色彩が、彼の顔に張り付いている。ヴェルホーヴェンスキーは持ち前の高速再生を発動させようとするが全く直る気配がない。


形勢逆転だった。レフスキーは弱められた戒めに色彩の力を加え、枷を外すと口から出た血を手で拭い、咳払いをした。


「あなたは性急すぎる。それに攻撃に集中するあまり、かなり隙が多い。ご存じでしたか?僕は今、あなたの頭を破壊することができます。これを受ければかなりの時間をかけて回復しなければなりません。あなたに勝機はない。僕たちを見逃すか、戦うか選んでください」


「見逃すなんてことはしないね。邪魔されたんだから、やり返すだけだ」


「なぜ、そこまで殺し合いを求めるのですか?

あなたはなぜそこまで攻撃的なのか」


「人間の時からですよ。この性格は。変わらない。僕は革命を起こすためだったら、何だって犠牲にする、命も、人生も、楽しみも全てをそれは悪魔になってからも変わらない。」


レフスキーは哀れにヴェルホーヴェンスキーを見つめた。

「悲しき悪魔ですね。そこまでの執着を見せるあなたに何があったのか…」


レフスキーは、ヴェルホーヴェンスキーの頭にかざした手に色彩の力を集めた。一気に放出する。

ヴェルホーヴェンスキーの頭が飛び散った。

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