この人は
以前よりあどけない感じになったフカですけど、それでもこれまでの記憶はちゃんとあって、だから何をどうすればいいのかはしっかりと分かってました。
「どうだ? 帰れそうか?」
タムテルを家の近くまで送ってそう聞くと、タムテルも、
「うん、大丈夫」
と応えます。母親は相変わらずですけど、タムテルの方が変わったんです。
『ああ、この人はこんな風にしないといられない可哀想な人なんだな』
って思えるようになったから、聞き流すことができるようになった。それだけで随分と楽になったみたいです。
本当は母親にも変わってもらいたいところですけど、サンギータの母親のヴァドヤと違ってこちらは、自覚的に今の自分の在り方を正しいと思っているので、変えるのは容易ではないでしょう。フカにそこまでしなきゃいけない理由もないですし。
タムテルが母親をスルーできるようになればそれでよしとするしかなかったんですね。
一方、ミコナやサンギータと一緒に帰っていたティーさんは、たくさん話してサンギータの様子を確かめると、家までは送らずに、そのままミコナに付き添って帰りました。サンギータが落ち着いてるのが感じられたからです。しかも、
「今日はビーフシチューなんだぜ。しかも昨日から一緒にあの人と仕込みをしてたんだ」
笑顔でそう言っていました。母親であるヴァドヤのことをまだ『あの人』と呼んでいたりはしますけど、それでも以前のようなトゲトゲしさはほとんどなくなっています。確実に関係性は良くなってきているんです。
それを確かめて、ティーさんも安心します。
「それはすごいでんな!」
言いながら笑顔になるんです。そうしてサンギータを見送り、ミコナと顔を見合わせてまた笑顔になります。
「ほな、ワイらも帰りまひょか」
今日からミコナが通う学校は冬休み。だから、ミコナもフカも家にいます。そこに、
「おはようございます」
カリナが挨拶すると、
「おはよう!」
「おはようさん!」
「大義である!」
「おう」
「おはよう」
ウルが、ティーさんが、オウが、フカが、ガーが、リビングから出てきて迎えてくれました。そうです。今日はフカもいるんです。
「おはようございます」
みんなの顔を見て、カリナは改めて挨拶をします。輝くような笑顔で。
そして、オウとフカが飛び付いてきたのをそれぞれ手のひらで受け止めて、いっそう笑顔になります。
けれど、オウとフカはといえば、
「なんだお前、馴れ馴れしい。カリナは俺の臣下だぞ!」
「は? 誰がそんなことを決めた!?」
と、カリナの手の上でわちゃわちゃと。
「あらあらあら……!」
彼女が狼狽えていると、
「こら! カリナを困らせちゃダメでしょ!」
オウもフカも、ルリアに叱られたのでした。