黒い何かが
サンギータとヴァドヤについては、<娘と母親>という以上に、<同じ男性に捨てられた者同士>と言った方がいいのかもしれませんね。だから二人で支え合って生きていくことになるんでしょう。
だけどどういう生き方であっても、当人が心穏やかにいられるならそれは他の人があれこれ言うべきことじゃないですね。
そんなサンギータの様子を確かめながらティーさんは一緒に帰って、そしていつもの分かれ道で彼女を見送りました。その表情が穏やかだったらヴァドヤも穏やかにいられてることも分かります。ヴァドヤに何かあればサンギータの様子にも表れますから。
だけど今日も大丈夫そうなのは確かめられましたし、あとはミコナと一緒に帰るだけ。と思ったら今度は、
「きゃっ!?」
ミコナが悲鳴を上げました。彼女の目の前を黒い何かがよぎったからです。そして、
「なんでやね~ん!」
遠ざかっていくティーさんの声。
カラスでした。今度はカラスがティーさんを攫って行ったのです。
「待って~っ!」
ミコナが声を上げながらティーさんを攫ったカラスを追います。だけど、空を飛ぶカラスに追いつけるはずもなく、すぐに見失ってしまいました。そこでミコナは<ミコナフォン>を取り出して、家に電話を入れます。
「分かった。ミコナは怪我とか大丈夫なんだね?」
電話を受けたルリアが問い掛けると、
「私は大丈夫」
とはっきりとした返事。それを耳にしたウルとガーがホッとします。オウも実は心配してるのに強がって棚の上に乗ったまま、ちらちらとルリア達の様子を窺ってて。
「分かった。ミコナはそのまま帰ってきて。ティーさんなら大丈夫だから。方向は私達なら分かるし」
ルリアはそう告げて、
「うん……!」
ミコナも応えます。
実際にこの時、ルリアにもウルにもガーにもオウにも、だいたいの方向は分かっていました。それに、マナ転換炉でできているティーさんは壊れません。ゆっくり探しに行けばいいし、なんだったら待ってれば自分で帰ってくるでしょう。
実際、カラスに攫われたティーさんですけど、
「いや、わいは食いもんちゃうんで」
カラスの巣に連れていかれて、ヒナの前で嘴でつつかれたり爪で引っ掛かれたりしました。小さくちぎってヒナに与えようとしたんでしょう。でも、マナ転換炉で作られたかぷせるあにまるは、そんなことでは壊れません。
そうして何とかヒナに餌として与えようとしていたカラスですけど、どうにも歯が立たないことに怒ったのか、
「ガーッ!!」
と声を上げてティーさんを巣の外に蹴り出してしまいました。けれど、そのティーさんが空中に留まると、カラスは、
「グアーッッ!!」
やっぱり怒った様子でティーさんに飛び掛かり、嘴や爪で攻撃してきました。
「待ったりーな! そない怒られたかて、わいも困るっちゅうねん!」
カラスの攻撃を躱しながら逃げます。飛ぶ速さではさすがに鳥には勝てないので追いつかれてつつかれたり蹴られたりしたものの、ティーさんはとにかく逃げたのでした。




