こうやってたくさんお話ししたいと
だけどそれを後悔するからこそカリナは今度こそは傍にいようと心に決めたんです。それをためらってちゃ話にならない。
『遠くから見ていられればそれで満足』
なんて嘘でした。結果として少し距離をおく形になったりすることはあるとしても、『満足に言葉も交わさない』というのは違うと感じたんです。
ちゃんと言葉を交わさなくちゃ、ちゃんと自分を伝えなくちゃ、納得できないと感じたんです。
本当の想いを伝えたい相手はもういないけれど、でも、だからこそ、大切な人が残した命の助けになりたい。自分なんかにどれだけのことができるか分からないけれど、本当の想いそのものは伝えるべき相手がいないから口にはできないけど、せめて。
なのにミコナと一緒にいると、
「私はあなたのお母さんのことが大好きだったんです。ほとんどお話もできなかったですけど、だから今度こそはちゃんとこうやってたくさんお話ししたいと思います」
そんなことを口にしてしまうのでした。
ルリアへの想いを素直に打ち明けることができたカリナでしたけどいきなりそんなことを打ち明けられたらちょっと引いてしまったりということはあるかもしれません。普通なら。
なのにミコナは、
「ママのことがだいすきなんだね。わたしやパパとおんなじだ」
笑顔でそう言ってくれたんです。だけどこれもあくまで、
『この人なら大丈夫』
と思ってもらえたから。カリナがルリアやハカセと同じ接し方をできてたから。
もちろん『完全に同じ』というわけじゃありませんけど、元々同じようにできてたらルリア本人とも仲良くなれていたはずですけど、勇気を出してお手伝いさんとして真面目に働きつつちゃんと交流を図るようになったことでミコナにも彼女がどういう人か伝わるようになったというのは間違いなくあるでしょうね。
そして何よりカリナ自身がミコナやハカセの言葉にちゃんと耳を傾けて理解しようと努力していたからでしょう。
でも、カリナも誰に対してもそういう風にできるというわけじゃ実はありません。それが当たり前にできるようなら彼女はきっともっとたくさんの人と親しくなれていたでしょう。
だけど昔の彼女はそれができなかったんです。大人しくて引っ込み思案だけど、自分の方から強く主張してくることはないけど、他の人の言いなりになってるようなところはありましたけど、だけど本当は相手の言葉にちゃんと耳を傾けるということをしてこなかったんです。できなかったんです。
『相手の言いなりになる』
というのと、
『相手の言葉に耳を傾ける』
というのは実はぜんぜん違うことなんです。
だって『相手の言いなりになる』のは、相手が本当は何を望んでいるのか、何を考えているのか、意図というものなんかどうでもよくて、『ただ従っていればいい』と考えるからすることですしね。