おやすみなさい。またね
だけど同時に、ミコナは気付いていました。ルリアが、ママが、本当はどんなに苦しでいるのかが見えてしまっていたのです。ルリアがしっかりとミコナを見ていたのと同じようにミコナもママのことをとてもよく見ていたから。ママの振る舞いを見ていたからこそこんなにも優しくて穏やかな子になれたのですから。
口には出さないけれど、言葉にはしないけれど、今までとのわずかな表情の違いや仕草の違いや口調の違いとかで、それまでのママとは変わってしまっていることを察していました。
それにミコナとの病室のドアを開けた時にママが慌てて涙を拭っていたことにも。
その時の表情がとてもガーに似ていました。
それ以外にも、ミコナの前で理性的に振る舞おうとしている様子はウルそっくりでしたし。ミコナやハカセを心配させまいとして明るく振る舞おうとしている時の姿はティーさんそっくりでしたし。
それに加えて、強がっている時にはオウそっくりで、やっぱりミコナやハカセの前では見せようとはしていませんでしたけど、一人の時には気持ちが荒れてつい乱暴な言い方をしたりとフカそっくりな振る舞いをしてしまっているのもミコナは見てしまっていました。
やっぱりそういうの完全には隠し切れないものですからね。
それを見たミコナが不安がっていたのをハカセがフォローしてくれていたんです。
「ママは病気の所為でつらくて普通じゃいられないんだ。それを分かってあげてほしい」
卒倒抱き締めながらそう言ってくれたりしました。そのおかげでなんとか気持ちを落ち着かせることができた。
ルリアだって決して完璧ではいられません。自分が死ぬのかもしれないとなって気持ちが乱れてしまう。人間だったら当たり前のことでしょう。
ミコナはまだ幼かったけれど、それも学んでいったんです。
だから、ウルが、ティーさんが、ガーが、オウが、フカが、ミコナの前に現れた時にも、ちゃんとママだと分かったんです。みんな見たことのあるママの姿でしたから。
だけどそれは悲しい話でもありますよね。ママのそんな姿を見てきたから分かるなんて……
でも悲しんでるだけじゃ何にも解決しないのも確かですよね。それに起こってしまったことはなかったことにはなりません。ミコナもハカセも、それが分かっています。分かっているから、例え五つに分かれてしまっていてもママが帰ってきてくれたことをミコナは素直に喜ぶことができたんです。
そして、頑張って頑張って頑張って力尽きたママが長い眠りについた時、五歳になったミコナは、
「ママ、おやすみなさい。またね」
そう言ってルリアを送ることもできました。
亡くなった人の魂が帰ってくる話をママからもハカセからも何度も聞いていましたから。