たくさんのことを学びました
もちろんルリアも、ミコナからたくさんのことを学びました。
彼女をこの世界に呼んだのは自分だという確証。
彼女からは『自分を生んでほしい』みたいなことは言われてないという確証。
一方的に来てもらった相手に対してどのように接すればいいのかという経験。
それらを自分自身で考えて理解するという経験。
本当に大きなことを学ばせてもらえたんです。ミコナを迎えたことは。
ハカセと一緒に。
だから一層、ハカセを愛することができました。
そんなルリアとハカセに愛されてミコナもすくすくと育っていきます。二人の姿を見てるからミコナもとても穏やかであたたかい心の持ち主になれていきました。
でも実は強い自我も持っていて頑固な一面もあったんです。『これ』と思ったことに対しては譲らない。
お風呂に入るのも離乳食を食べさせてもらうのもハカセじゃないとダメだったのはそういうこともあるのかもしれませんね。
だけど、ミコナが五歳の誕生日を迎える直前、ルリアの体に不調が現れました。いつのまにか恐ろしい病が彼女を蝕んでいたのです。そして気が付いた時にはもう手の施しようがないものでした。
それは自覚症状と言えるものがほとんどなく症状が出た時にはもう手の施しようがなくなっているという大変な病気でした。しかも発症するのは十万人に一人という原因も何もよく分かっていない難病だったのです。
すぐに病院に入院することになりましたけど、その時点ですでに寛解さえも期待してできることは何もなく、余命半年と診断されたのです。
もちろんハカセはそんなことを甘んじて受け入れるつもりはありませんでした。何とかして彼女の病気を治す方法を探ろうと努力しました。
敢えて医学的な見地からではなく彼が得意とするマナを利用した技術という方向からのアプローチで。
ハカセは発明という形では大変な才能の持ち主でしたけど、当然ながら医学という方向では普通の人です。いえ、普通の人よりはそういう形の知識もあったかもしれませんけど、それでも専門の医師に比べれば残念ながら知識は十分じゃありません。
だから病院の医師の診断や治療方針には異を唱えるつもりもありません。ありませんけど、可能性についてはとにかく探りたいと考えていたんです。
けれどそのハカセに対してルリアは、
「無理はしないで。ミコナのことを一番に考えてあげて。私は私で頑張るから。大丈夫、治してみせるよ」
笑顔でそう言うのです。
だけどそれはどこまでも奇跡に頼るしかないという淡い淡い希望でした。むしろ<優しい嘘>と言った方がいいのかもしれません。実際には何の根拠もないのですから。
「ルリア……」
彼女にそんな嘘を吐かせてしまう自分が、ハカセは悔しくて仕方なかったのでした。