この世は怖いばかりじゃないんだよ
ハカセは気に入らない相手がいたらそれを攻撃して黙らせられることが『強い』ということだとは思っていません。そんなことをしなくても人生にはいろんなつらいこと苦しいこと悲しいことがたくさんあります。悪気のない事故とか病気とか天災とか。
そういうのを前にしても前を向いて立ち上がることができるのを『強い』と言うんだと思ってるんです。
そのためにはこの世の中がつらいこと苦しいこと悲しいことばかりじゃないという実感が必要だと思ってるんです。何かつらいこと苦しいこと悲しいことがあっても視点を変えればちゃんと楽しいことや嬉しいことだってある。幸せだってちゃんとある。
ミコナにはそれを知っていてもらいたいんです。だからまず、
『この世は怖いばかりじゃないんだよ』
と知っていてもらいたい。その上でたまにつらいこと苦しいこと悲しいことがあるというだけだと知ってもらいたいんです。
だからハカセはミコナに穏やかに接するんです。
『この世界は怖いことばかりじゃない』
『僕は君の味方だよ』
ってことを伝えるために。世の中には口では『あなたの味方です』みたいなことを言いながら実際にはそうじゃないって人もいますよね。でもそれじゃダメなんです。本当に味方じゃないと。
そしてそれは言葉だけでは本当かどうか分からない。
人間は嘘を吐きますから。口ではどうとでも言えますから。そうじゃないのを分かってもらうためにはしっかりと態度で示さないと。態度で示すことを怠ける人は信用できませんよね。ハカセも信用しません。自分が信用しないのに態度では示さずにそれで、
『自分を信用してほしい』
とかムシがよすぎますよね。だったらしっかりと態度で示すまでです。ただの言葉じゃなくて。実際の態度で見せないと。それが大事です。
そうしてハカセはミコナにこの世界が決して怖いだけのところじゃないことを伝えるための努力を続けました。
毎回、毎回、ミコナが泣く度に。
「大丈夫だよ。怖くない。だからちょっと待っててね」
そんな感じで穏やかに声を掛けつつオムツを交換したりします。
一時間くらいしか寝ていられないので、しかも、ミコナをベッドで寝かせているよりも膝に抱いたまま寝かせている時間の方がずっと長くなりました。寝かしつけている間にもう次の授乳の時間が来てしまうんですから。
だけどハカセはそれを受け入れました。文句なんか言ってても始まりませんしミコナに来てもらうことを選んだのはハカセとルリアなんです。だったら自分の責任として受け入れる以外にない。
それに何よりこの状態がずっと永遠に続くわけじゃありません。ミコナは成長するんですからね。