すぐに察することができるように
ハカセがミコナを膝に抱いたままそうしてるのは、その方がすんなり寝てくれるからです。ルリアとハカセは万が一の転落というのを想定して床全面にクッションを敷いた上でそこに直接布団を敷いていました。そしてミコナを寝かすベッドも高さは十センチほどしかない<クーハン>を少し大きくしつつ周りの囲いを低くしたみたいなベッドでした。
これは、ルリアとハカセの間に置いてミコナの様子がいつでも顔を向けるだけで確かめられるようにと用意したものです。それこそ自分達が横になってる時でも。
そうすることでミコナがぐずりだしてもすぐに察することができるようにしてるんです。それと同時にうっかり寝返りとかしたときにミコナにのしかかってしまったりしないようにというためのものでもあります。
だけどそこで寝かせようとしてもすぐには寝てくれないんです。ちゃんと寝てからでないと。
寝かそうとしてベッドに下ろすとミコナはすぐにぐずります。理由までははっきりしませんけど代わりにハカセが抱くと安心するみたいなんです。だから触れてないと不安なんだろうなとハカセは考えました。
だったら安心してちゃんと寝られるまで抱いておくのが一番確実ですね。
だってこんな世界にミコナを送り出したのはルリアとハカセなんですよ? 自分じゃ何もできない状態で。それをミコナが怖がってるなら安心させてあげるのが当然じゃないですか。自分の勝手でこんなところに連れてきておいて、
『怖がるな!』
とか、おかしいじゃないですか。
強く生きられるようになるにもまずはちゃんと力を付けるまで守られてることが大事でしょう? なにより『強く生きる』ってどういうことなんですか? 他の人に対して怒鳴って偉そうにして威張り散らすのが『強く生きる』ということなんですか?
違いますよね?
『昔はとても厳しい環境だったから人間も強かった』
そんなことを言う人もいますけど、ハカセはそれに対しては疑問しかありませんでした。
『今の人間が本当にただの弱い生き物だったら、二十億とかそんな数にまでは増えられていないと思う。それに野生の生き物だってちょっとしたストレスや怪我や病気で死んでしまうのもいたりする。厳しいはずの野生で生きてるはずなのにそれというのは何故? だから種として存続できるかどうかについては肉体的な強さや攻撃性は絶対的な要素じゃないはずなんだ。人間には人間としての生存戦略がある。そのためには人間同士で命を奪い合ってる場合じゃない』
ハカセはそう思うんです。
この世界の人口は現在二十億人を超えたところでした。先史文明が繁栄を極めた頃には百二十億を超えたこともあったそうです。
だけど大きな戦争と惑星の寒冷化に伴う大変な飢餓があってわずか数億まで減ってしまった。
それを一万年以上かけてここまでにしたんです。