王様
「オウ? 王様!?」
女の子は目を真ん丸にして声を上げました。
「鳥さん、王様なの!?」
キラキラした感じで問い掛ける女の子に、オウは、
「そうだ! 俺は王様だ!」
と口にします。確かにオウは今、<王様>としてドンキーに乗ってたんですけどね。家でも本人的には王様のつもりなんでしょうし、間違ってはいないのでしょう。
すると女の子は、
「王様! お仕事頑張ってください!」
声を上げながら大きく頭を下げました。まるで臣下のように。そんな女の子の姿を見て、オウはますますふんぞり返って、
「うむ! 苦しゅうない! 大儀である!」
とか上機嫌で。そして青信号になり横断歩道を渡ると、女の子はオウやカリナとは別の方向へ歩いていきました。
「ばいばーい! 王様♡」
女の子が手を振り、母親はちょっと困ったような表情しながらも頭を下げて。そんな光景に、カリナはすごく微笑ましいものを感じたのでした。
それからカリナは改めてオウと一緒に買い物のためにスーパーに向かいます。自転車置き場にドンキーを置き、店に。オウはカリナの肩に乗って。すると今度は、
「王様! こんにちは!」
五歳くらいの男の子が声をかけてきました。このスーパーでこれまでも何度も顔を合わせたことのある子でした。
「うむ! 相変わらず元気よの。重畳重畳!」
オウが男の子にそう応えている傍らで、
「こんにちは」
「こんにちは」
男の子の父親とカリナが挨拶を交わします。実はその子の父親は<主夫>であり、いつも父親と一緒に買い物に来てたのです。カリナはそれを自然と受け入れていました。彼女はそういうところには拘りがないからです。
彼女自身、ルリアに対して憧れ以上の気持ちを抱いていましたからね。『普通』とか『普通じゃない』とかはどうでもよかったのでした。
「王様、こんにちは!」
「王様、こんち~」
先ほどの男の子と別れても、次々と声が掛けられます。オウの存在は、このスーパーではすっかり有名になっていたようです。
「うむ! 重畳である!」
そうしてご機嫌でオウが子供達の相手をしてくれている間に、カリナは買い物を済ませます。子供達の親も、その隙にとばかりに買い物を進めてました。本当なら目を離すべきじゃないんでしょうが、どうしてもあれやこれやと煩わされますからね。子供と一緒に買い物って。
だけど、オウを前にすると子供達は、
「王様、王様、それで亀のお話は!?」
「亀さん、助かった?」
オウが語ってくれるお話を楽しみにしてるみたいで、おとなしく話を聞きながら待っててくれるんです。
「それだがな、亀は……!」
もったいぶってオウがそう言うと、子供達も前のめりになって、
「しっかりと助けられおったわ! 今は元の池で元気にしておる!」
オウが明かすと、
「やったあ!」
「よかった!」
満面の笑みになったのでした。