東京悪夢物語「火男さん」
東京悪夢物語「火男さん」
暑い、
最近の日本は暑過ぎる。
いくら温暖化と言ったって、こんなに暑いのはおかしいんじゃないのか?
もしかして、
あの、
火男さんが、しているのかもしれない……
キューーーン、ガシャン
エアコンが止まった。
カチカチカチ、
いくらボタンを押しても、エアコンは動かない。
「ちくしょう!このクソ暑いのに、何で壊れるんだよ」
私は仕方なく電気店に電話をした。
「もしもーし、エアコンが壊れたんだけど」
「まことに申し訳ございません〜ただ今、修理が殺到しまして〜あと一カ月はかかります〜」
「そんなに?何とかならないのかよ」
「どうにもこうにも、すいません〜」
ガチャ、
「何だよ、もう二度とあんな店では買わないぞ!」
汗がどっと出てくる。
それにしても、あと一カ月
とても我慢出来ない……
暑い、
私はどうしようもなく、コンビニへと出掛けた。
パラッ、張り紙が貼ってある。
「電気代高騰のため、1000円以上お買い上げのお客様に限り、入店を許可しております」
何だって?
財布の中身を確認する。
900円しかない、
「しまった、今月は使い過ぎた」
どうする?
店員が窓から、こちらを覗いている。
冷たい視線。
私は仕方なく、公園へと向かった……
カタッ、
公園の噴水が止まっていた。
「水不足のために当分の間、噴水は中止します」立て看板。
「何だよ、噴水も中止かよ」
木陰もなく、水道の水も止まり、私は疲れ果ててベンチに座り込んだ。
ゴクゴクゴク
家から持ってきたペットボトルの水を飲む。
「熱い、まるで熱湯じゃないか!」
汗も出てこない。
「こんなの飲んでも、すぐに喉が渇いてしまう」
「どうしたらいいんだ…」
私は途方に暮れていた。
すると、
隣りのベンチに、見掛けぬ男が座っていた。
この暑さの中、平然と背広を着て革靴を履いている。両目を見開き、口を尖らせたお面を着けている。
暑くないのか?
カチカチカチ、
男は、夢中になってスマホをいじっている。
不思議な男だ、
私は目を凝らし、男を観察してみた。
ジリジリジリ、
容赦なく夏の日差しが照らす。
この暑さの中、男は汗一つかいていない。
おかしいぞ、
この男の回りだけが、異常に暑い。
ベンチの回りの草は枯れ、地面のアリは干からびて死んでいた。
ボトッ、
飛んでいる鳥が落ちて来た。
それにも気づかず、スマホをいじっている男。
何なんだ、コイツは、
私は恐る恐る、男の肩に触れてみた。
「熱つつっ、」
何と熱い身体なんだ。まるで、ストーブのように熱い。
私は、叫んだ。
「お前は、何者なんだ!」
「火男さんですよ〜」
その夜、ネットで「火男さん」を調べてみた。
【火男さん】
正体は不明、真夏でも平然と背広を着て革靴を履いている。常に、両目を見開き口を尖らせたお面を着けていて、身体は異常に熱く汗をかかない。
あちこちで目撃例があり、自分たちの生活しやすい星に改造するために、地球を温暖化している。
その者だ、
私が目撃した男は、「火男さん」その者だった。
あの男、あの火男さんが地球の温暖化の原因だったのか!
噂は本当だったんだ、
このままでは、人間は滅んでしまう…
暑い、
私は血眼になって、火男さんを探し続けた。
街中、公園、
「いったい何処へ行ったんだ。早く、あの火男さんを見つけなくては」
街は猛烈な暑さで、人っ子一人歩いていなかった。
その中、
平然と歩いている男を見かけた。
アイツだ、
火男さんだ。
火男さんは、背広を着て革靴を履き平然と道を歩いていた。やはり、両目を見開き口を尖らせたお面を着けている。
通りを抜け、街道を越え、火男さんは街外れの大きな工場へと入って行った。
「HIOTOKO焼却プラント」
こんな大きな工場があったんだ、
工場は高い塀に囲まれており、遥か彼方まで続いていた。
いったい何処まで続いているんだ。
ボボボボーーーーッ
突然、工場の煙突から黒い煙が舞い上がった。
ゴオオオオーーー
高温の熱風が、私の身体に吹き注ぐ。
「熱い、何という熱気なんだ!」
まるで、わざと熱を外に出しているような、
やはり、この工場はおかしい。
私は、塀の隙間から中へ入ってみた。
中には、たくさんの火男さんが働いていた。巨大な焼却炉に燃料を焚べている。
あっちにも、こっちにも、
火男さんたちは、黙々と働いていた。
ボボボボーーーーッ
何度も、何度も煙突が開き、黒い煙が外へと流れて行く。
ゴオオオオーーー
高温の熱風が、外へと吹き注ぐ。
ブブブブブーーーー
突然、大きなブザー音が鳴った。
火男さんたちが、一斉に仕事を止める。
どうしたんだ?
みな、ゾロゾロと何処かに向かって歩いて行く。
いったい何処へ行くんだ?
私は不思議に思い、後をつけた。
火男さんたちは、巨大なアンテナがのある休憩室へと入って行った。
カチカチカチ、
みな、夢中になってスマホをいじり始める。
同じ格好で、同じお面を着け、同じスマホをいじる火男さんたち。
「コイツらは、スマホが好きなんだ」
私は、こっそりと焼却炉に近づいてみた。
熱い、
焼却炉は、真っ赤な炎で辺りを照らしていた。
やはり、火男さんたちは物を燃やし二酸化炭素を出し、自分たちの生活しやすい星に改造するために火を起こしている。
「おや?この焼却炉、以前勤めていた工場のに似ているぞ」
その焼却炉は、地球製の焼却炉にそっくりだった。
カチッ、
「よし、この安全弁を解除すればオーバーバーニングするはずだ」
私はレバーを最大にし、出力を上げた。
ボッボボボボーーーーッ
激しく燃え出す焼却炉。
グググッ、
メモリが危険値まで上がる。
ゴゴゴッ、ゴゴゴッ、
鈍い音がし、焼却炉は大きく揺れ始めた。そして激しく震え出す。
ゴゴゴッ、ゴゴゴッーーー
「よし、成功だ」
私は、急いでその場から離れた。
ブブブブブーーーー
ブザーの音と共に火男さんたちが、焼却炉に戻って来た。
慌てて隠れる。
カチ、
ボイラーの安全弁を元に戻す火男さん。
「しまった…」
熱い、
たまらなく熱い。
私は何とか温暖化を防ぐために、まだ工場内に隠れていた。
この工場内は、外以上に熱気がこもっており、うだるような熱さだった。
そんな中でも、火男さんたちは黙々と焼却炉に燃料を焚べて火を起こしている。
何とかしなくては…
人間はいないのか?
探してみる、
みな、同じお面を着けているので解らない。
どうしたらいいんだ。
「あれは、」
そこには、太く大きな銀色のパイプがあった。液化燃料タンクのパイプだ。
石炭など燃焼物では足らず、重油も燃やしているんだ。
「そうだ、あれさえ外せば焼却炉は止まる!」
私は、片っ端から工具でパイプのボルトを外し始めた。
ギッギッ、ギッギッ
ギッギッ、ギッギッ
全部外すぞ、
ギッギッ、ギッギッ
タン、
突然、肩を叩かれる。
振り返ると、
「見〜つけた〜〜」
火男さんに見つかった…
熱い、
私は、火男さんたちに手足を縛られていた。
「ダメだよ〜イタズラしちゃ〜」
「何だと、お前らが熱くしているんだろう。お前らが気温を高くしているんだろう!」
私は、叫んだ。
「何を言っているんですか〜?」
顔を見合わせる、火男さんたち。
「お前らが、自分たちの生活しやすい星に改造するために、物を燃やし二酸化炭素を出し、地球を温暖化しているんだろう!」
顔を見合わせる火男さんたち。
「違いますよ〜噂ですよ〜」
「嘘をつくな!」
ドッカーーーーン、
その時、突然、激しい爆発音がした。工場が炎に包まれる。
火男さんたちが、一ヶ所だけボルトの外しに気がつかなかったのだ。
ボッボボボボーーーーッ
重油が漏れ、辺り一面炎に包まれる。
ボッボボボボーーーーッ
炎に包まれる火男さんたち。消化器で炎を消すが間に合わない。
ゴオオオオーーー
燃え続ける炎。
熱風が舞い上がり、激しく吹きつける。
やった、
私は地球を救った。これで、温暖化は防げた。
炎に包まれながら、私は笑みを浮かべた。
逃げ惑う火男さんたち、
ササッ、
私は一瞬の隙をつき、火男さんのお面を剥いだ!
バリッ、
そこには、
人間の顔があった。
宇宙人ではない、ただの人間の顔があった。
「お、お前らは、人間なのか?」
「はい〜私たちは人間ですよ〜あなたと同じ人間ですよ〜」
「地球を征服するために、温暖化しているんじゃなかったのか?」
「いいえ違います〜」
「私たちは一生懸命、働いているだけです〜皆さんの生活が便利になるように、働いているだけですよ〜」
「そんな…同じ人間だったなんて、」
「あなたも、火男さんですよ〜」
「えっ?」
「あなたも私と同じ、立派な火男さんですよ〜」
私に、お面を着けようとする火男さん。
「やめろ、」
「だって、あなたも」
「火を燃やしているでしょう〜〜〜〜」
○○日未明、
職業不詳の30代の男が発電工場に侵入し、液化燃料タンクを爆破しました。連動して辺り一体の工業団地が延焼し、付近の住民が避難しております。火災は未だ、鎮火の見通しがつかず数週間かかりそうです。
これでまた、地球の温暖化が促進されそうです……
ネット上、
「この間、電車に乗っていたら火男さんがいたよ。どうりで暑いと思った」
「昨日、公園に行ったら火男さんがいたよ。友達は熱中症になった」
「毎日、暑いのは火男さんのせいだよ」
「でも…ホントに、火男さんっているのかな?」