Chapter7:第二戦 ネオ鈴鹿サーキット「FP」
NextRace第二戦、開幕戦より中2週を開けて引き続き日本での開催となる。
舞台は、伝統の鈴鹿サーキットをNextRaceに合わせて改修を行った、ネオ鈴鹿サーキットだ。
サーキットへの改修にあたっては、時速500km/hを超える「NEXTマシン」に合わせてバンクを用いたカーブを作る事が一般的だが、この改修案は全世界のドライバーから反対の意見が寄せられた。
レーシングカー独特のダウンフォースを用いて、アクセルON‐OFFだけで走行するS字、アクセル全開で曲がって行く130R等、世界中のドライバーを魅了する世界の鈴鹿であった。
最終的にネオ鈴鹿サーキットでは超小型核融合発電所の設置、および超大容量長距離無線送電システムの追加と一部コーナ130R先のエスケープゾーンの拡大のみの小改修にとどめていた。
舞台は、FP1(Free Practice[フリー走行])
22号車「輪堂凛」と46号車「土谷恵一」は、順調に周回を重ねている。
チーム監督の神楽千登世は、46号車「土谷恵一」が武戦レーシングへ乗り込んできた時の事を思い出していた。
元々、「土谷恵一」の名前は、アドリアーノ・フォーミュラの秘蔵子として業界内では有名であった。
曰く、キングのマシンのセットアップの方向性を一手に担っている。
曰く、恵一が参加後のアドリアーノ・フォーミュラの勝率が15%向上した。
曰く、マシンのセットアップ方法をAIに完璧に学習させ、現在はAIが主なセットアップを行わせている。
前年度の最終戦の後に、履歴書を持って武戦レーシングの事務所に現れたときには驚いたものだ。
「なんでもいいから、輪道凛のサポートをしたい!!、シュミレータ要員でも、雑用でも良いから雇ってくれないか!?」
試しに、最終戦で使用していた武戦レーシングのマシンのシュミレータに乗せてみた所、初めてのマシンにかかわらず、実際の凛のタイムの+1.0秒を叩き出していた。
このマシンは他のマシンに比べて、低ダウンフォース&超オーバーステア仕様であり
搭載されているAIのAmiでさえ、
「凛以外の人類に操れるものではありません。」
と太鼓判を押す、とんでもピーキーなマシンである。
しかし、このマシンをシュミレータとは言え、「輪道凛」と同じくこのマシンを乗りこなしたのである恵一であった。
「現代のマシンとしてはピーキーだけど、旧来のフォーミュラカーなんかに比べれば、まだマイルドだよ」との事。
とりあえず、検討して後で連絡すると、土谷恵一に帰ってもらった。
チーム代表の「高瀬川」と相談している最中、もう一人武膳レーシングに訪問者があった。
現れたのは意外な事に、キングことロレンツォ・M・サルヴァトーレだった。
「兄弟…いや恵一君を頼む、出来ればマシンに乗せてほしい」
NextRaceの絶対王者たるキングが頭を下げてきたのだ。
「うん、決まりだね。彼を武戦レーシングのドライバーにしよう」
チーム代表の一言でドライバーとして「土谷恵一」の武膳レーシング加入が正式に決まった。
正式にドライバーとして雇うと、恵一に連絡した後
なぜ、凛のサポートなのか、自分がトップになりたくはないのか?
基本的にドライバーは一番を目指すものだ
神楽千登世は、疑問をぶつけて見ることにした。
土谷恵一の返答は
「NextRaceでトップを取るのは面白くない」
意外な返答だった。
物思いにふけっていると、46号車よりチームの無線が入っていた。
「ブレーキをかけると車が勝手に方向を変える!!ブレーキをチェックして!!」
メカニックの源次郎が答える。
「あいよ!、一度ピットに戻ってこい」
「了解!、この周でBOXしてする。それにリフトOFF(アクセルを離す)しても同じく車が方向を変える、空力かもしれない!!」
「分かったから早く帰ってこい!!」
NextRaceに限らず、自動車レースはドライバーだけで戦うわけでは無い。
ドライバーの指示に合わせマシンを調整するメカニック
タイヤの選択や燃料の搭載量、ドライバーの体重も加味して検討する戦略
マシンに取り付ける新規パーツの開発
チーム全体の力で勝利を勝ち取る必要がある。
神楽千登世は考える。
おそらくNextRaceのドライバーの中でもトップクラスの実力を持つ恵一が輪堂凛のチャンピオンシップ獲得(武戦レーシングの存続)のために、チームの歯車として働くと言っているのだ。
では監督の自分がやる事は?
このレースの戦略を練るために、各種データを確認していく千登世であった。