Chapter6:開幕戦「決勝後」
開幕戦決勝後、ピットレーンの上に設置された表彰台に、凛を中心としてキングとクイーンが左右にならんでいる。武戦レーシングのピット全員で、表彰台の天辺に立っている凛と、マニュファクチャラーズ表彰を受けた千登世さん(チーム代表として表彰を受けている)を、見守っていた。トロフィーを渡された後、千登世さんは涙を浮べていた。
ちなみにその頃俺は、表彰台に登る二人を見届けた後、急いで服を着替えて「プリマステラ」のライブ会場へダッシュで向かっていた。
「NEXRace」では、観客の帰宅時間をバラけさせるための措置として、表彰式後にアイドルグループ「プリマステラ」のライブをサーキット敷地内で行っていた。最近はレースだけではなく、ライブ目的の人も多いようだが…。
実は、46号車ドライバーの土谷恵一もファンの一人であった。
アドリアーノ・レーシングに在籍していた際も、レース終わりにプリマのライブに参加するのを楽しみにしている、ライブ参加の常連であった。
荒ぶる同士、いや武士達を押しのけ、ライブの最前列を確保!!
プリマのライブに合わせ「うぉぉおお、HIKARIちゃん!!!!!、AKARIちゃん!!!!」
さっきまで、NEXRaceで死闘を繰り広げていた世界最高峰の腕を持つドライバーは一気に限界オタクへと、見事にジョブチェンジを果たしていた。
そんなこともつゆ知らず、慌てたのが武戦レーシングの面々。
P1である輪堂凛の囲み取材は予定通り行われていたが、問題はもうひとり、
今回のデビュー戦で、スタートではクイーンを簡単にオーバーテイクし、さらに、NEXRaceの絶対王者たるキングの猛攻を2度も防ぎつつ、最後にはファステストラップを記録したとんでもないルーキーである。
無論、取材陣が殺到していたが本人が見当たらない
「そう言えば、ケイちゃんにスケジュール伝えてなかったわ…」と千登世さん。
サーキットの隅々を源次郎率いる、武戦レーシングピットクルー集団で側索にかかる。
プリマのライブに、似たような奴がいるとタレコミが入る。
ライブ中にもかかわらず、「テメーには囲み取材があるだろーがぁ!!」と源次郎率いる
ピットクルー集団が限界オタクに襲いかかる。容疑者確保。
かくして、プリマステラのライブTシャツに、首にプリマ公式のタオル、更には公式サイリュウムを両手に持った、限界オタクが囲み取材の最後を飾る事となった。
ちなみに、このときプリマのライブに恵一が潜り込んでいたのを、源次郎に通報したのは他ならぬ、プリマステラの片方AKARIだったりする。
2位の表彰台に乗り、気持ち小さいトロフィーを受け取る。
受け取る際にキングは、知らず自分の手を強く握り締めるていることに気がついた。
手を広げて、手のひらを見つめる。爪の後がついていた。
思っていたより強く握っていたようだ…
「あの怪我ですか?手のひら大丈夫ですか?」
隣の台に乗る輪堂凛から声をかけられる。
2位の表彰台は、1位の表彰台に比べ1段低い、輪堂凛は小柄なため身長が160cm程度しかない
逆に190cmある自分は、表彰台の上で輪堂凛と目線の高さがあっていた。
「いや、大丈夫。なんでもないよ」
「悔しい…か…」
去年の最終戦と同じ構図だ。前回は清々しさすらあったが
NEXRaceの絶対王者と呼ばれるようになってから、久しく感じていない感覚だ
「恵一、君が敵になると、ここまで手強いとはね。」
逆に言えば、恵一がサポートに回っていたアドリアーノ・フォーミュラは如何に心強かったかを感じていた。
「次は負けないよ…兄弟。」
NEXRaceの絶対王者「ロレンツォ・M・サルヴァトーレ」は
武戦レーシング「土谷恵一」と「輪堂凛」を対等なライバルとして認識していた。
開幕戦ー完ー