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Chapter5:開幕戦「決勝3」

 このネオ富士スピードウェイは、日本の最新技術を用いた高グリップのサーキットだ。グリップする反面、タイヤに対する摩耗性が高い特徴がある。そのため多くのチームは2ピットストップを選択すると予測されていた。

16周目に1回目のピットストップで、46号車の「土谷恵一」は新品ミディアムタイヤに変更し、1号車キングこと「ロレンツォ・M・サルヴァトーレ」と11周目にピットインした22号車「輪堂凛」を追う形でレースに復帰する。

多くの車はNEXRaceMediaの予想通り15周か16周目で1回目のピットインを行っていた。

 つまり22号車はトップ独走状態、10秒後ろにようやくキングと俺が追従している形になる。

22号車の履く6周目のミディアムタイヤは、まだまだ新品からの性能落ちは少ないようだ。

 必死に稼いだ10秒を有意義に使ってもらいたいものである。頼んだよ凛ちゃん、Amiちゃん

しかし、NEXRaceの絶対王者たるキング、10秒のギャップがあるとは言え、新品のタイヤで、1周あたり0.5〜0.8秒程度、22号車へ近づいていった。

「これは、次のタイヤ交換のタイミングがまた勝負かな…」

46号車内での独り言。Aimはいぜんだんまりだ‥。

こちらは、キングに1周あたり0.3秒程徐々に引き離されながら3番手を走行していた。


現在LAP26、トップ22号車「輪堂凛」、3秒後方に1号車「ロレンツォ・M・サルヴァトーレ」、2.5秒後ろに46号車の「土谷恵一」こと俺、さらに2秒後方にクイーンこと「アリス・サマーウッド」そこから36号車「リチャード・パーカー」以下19台がトレイン(渋滞状態)で並んでいた。


 下位集団の内、何台かアンダーカット狙いでピットイン(BOX)をかけていた。5位8号車イザナミ・レーシングの「浅河カナタ」と、7位11号車ポレイユ・レーシングの「ソフィア・B・時任」もその一人であった、新品のハードタイヤに交換しピットアウト。

彼女たちのピットアウト場所は、最下位から数えて20秒後方のクリーンスペースに出る。ここからゴールまで25周を、このハードタイヤで走り切るつもりである。


 この2回目のピットストップの影響で、コース上にまんべんなくマシンがいる状態になった。

アウトラップ(ピットアウトから出たてであるため、タイヤが温まっておらずスピードが出ないラップ)である、カナタとソフィアの後方に、22号車の「輪堂凛」と1号車のキングが迫ってくる。


アンダーカットを狙っていた彼女たちにとっては、悪夢でしか無い。ピットレーンを出て、ターン3までの、超高速区間のセクター1を走っていた所、後ろからリボルバーストを使用した猛烈な勢い(速度差は約50km/h)迫ってくる、トップ集団。コースのいたるところに設置されているモニターに青い表示(速やかに道を譲れ)の指示。彼女たちは慌ててターン4でアウト側によりトップ集団をやり過ごす。これらの回避行動のためアンダーカットで使用しようと思っていた、20秒のフリー区間をトップ集団に明け渡す事となった。戦略(ストラテジー)の敗北であった。


トップ集団(22号車、1号車)に食らいついている46号車、リボルバーストの有無とアウトラップのマシンとのタイヤの温度差でカナタとソフィアをPassすることが出来たが…。

こちらは、10周目のミディアムタイヤはまだまだ問題グリップに問題なさそうではある。

さて、どうしたものか?

「Ami、今凛がピットインしたらどのあたりに出る?」

「恵一の3秒後方に出ます」

「キングが今ピットインしたら?」

「恵一の後方6秒、カナタとソフィアの丁度前に出ます。」

まだ少し、セカンドドライバーとして出来ることがありそうだ。


 トップを走る22号車「輪堂凛」、タイヤはすでに16周走行し限界が近い状態であったが、彼女は、自身の力とAmiの巧みなタイヤマネジメント指示により、1号車キングの猛攻を4周も抑えつつ周回遅れのマシンを目の前にしてた。

30周目にピットの千登世さんから22号車へ「凛!!この周でピットに入って!!」ピット指示がかかる。PIT time:29.0秒武戦レーシング渾身のピット作業で新品ハードタイヤへ交換。コースへ送り出す事に成功する。


現在、1位と3位を武戦レーシングを占める、思ってもみないほど好調なレース展開であるが

しかし、ピット内でチームリーダーの千登世は悩んでいた。

今回のチーム好調の要因は間違いなく、46号車「土谷恵一」の献身によるものだ

本来、レーサーは誰でも一番になる事を目標に戦っている。

レーサーにおける最も倒すべきライバルは、実はチームメイトだったりする。


確実にポイントを取るためには、22号車と46号車をスワップ(順位を入れ替える)方が良いかもしれない。22号車の「輪堂凛」より46号車の「土谷恵一」のほうが腕も速度もある。

そのほうが、武戦レーシングの存続においては正解かもしれない。


出来れば、22号車に優勝してもらいたけど、キングの猛攻を22号車だけで、これ以上抑え切れるのか?

手がないわけでは無い…。しかし、キングを抑えるには46号車に非情な命令を出す必要がある。

指示を仰ごうにも、チーム代表の高瀬川は、何処ほっつき歩いているのか、ピットには居ない。

46号車より無線が入る

「千登世さん!!キングがピットインしても暫くステイアウトするよ!!(ピットインせずにそのままにする走行する!!)」

「えっ!?」

チームリーダの千登世は自身の耳を疑う、今迷っていた戦略を46号車が自ら行うと宣言していた。

22号車が目の前にピットアウトしてきた。

46号車内でパイロットが吠える!!

「Ami!!、キングがピットインした場合の位置を常に教えて!!」

「了解しました。この周でピットインした場合、恵一の3秒後方に出ます」

「よし!!このままのペースで行こう!!」

22号車の後方を守るように、46号車は走る。


LAP35「1号車がピットインしました!」

AIたるAmiでさえも興奮気味にパイロットに伝える

新品のミディアムタイヤに変えたキングが46号車の直下にピットアウトしてくる。

こちらは19周を走行したボロボロのミディアム!

何処まで、勝負出来るかね。

アウトラップで走ってくるキング。このアウトラップで勝負をかける。


 ネオ富士スピードウェイでは、ホームストレートのスタートラインを通過後にリボルバーストを入れるのが定石となっている。それは、旧富士スピーウェイから改修されてからネオ富士スピードウェイに改修される際に、リボルバーストの使用箇所として設計上に予め設定されているからだ。リボルバーストは、コース1周の内に1回だけ使用することが出来る。

本来であれば、ホームストレートで使用するリボルバーストはこの周ではわざと使わない

「勝負だ兄弟!!」

ターン2からターン3にかけて、1号車のキングが46号車の俺に迫ってきた。

キングはリボルバーストによる加速が終わっているようで、減速しつつ進入してきた。


46号車はターン3でキングに対し、ブロックラインを仕掛ける。しかし、タイヤが悲鳴を上げるだけで、あまり曲がらない(アンダーステア)気づけば、隣に1号車が並走していた。

ボロボロのタイヤで曲がらないって!!そんなのはわかっている!!

ターン3からターン4へ切り替わる瞬間、僅かながら直線部分がある。

リボルバースト!!と同時に、マシンに搭載されたクラッチペダルを踏み抜く勢いで踏む!!

この瞬間、スタート時に感じた様に時間が10倍になる感覚を感じる。

タイヤの接地面積状態をイメージしながら、クラッチを引く!!リボルバーストでバイパーから絞り出された+200kwの出力をタイヤがすべらない様に、左足に全神経を集中させてクラッチで調整をかけていく。

タイヤのグリップ性能の低下をリボルバーストの馬力でゴリ押しでごまかす戦法だ!!

この方法でキングの猛攻を2周ブロックする事に成功する。46号車の車内にクラッチ板が焦げる事による煙や香ばしい臭いが車内に広がる。このリボルバーストのゴリ押し戦法でターン4からターン6までの中高速区間で、46号車はキングのマシンを押さえつける事に成功する。

この結果、22号車「輪堂凛」は、1号車キングに対し5秒のアドバンテージを得ることになる。


LAP40、46号車はもはや限界だった。

タイヤのグリップは最低レベルに低下しており、ブロックラインを取る余裕はなくなっていた。

5位8号車イザナミ・レーシングの「浅河カナタ」と、7位11号車ポレイユ・レーシングの「ソフィア・B・時任」に、簡単に抜かれた挙げ句、現在7位まで順位を落とす。


「セカンドドライバーとしては、これで十分かもしれないけど…これだけだと面白く無いよね」

46号車内で独り言ちる。

「千登世さんBOXしたい、新品のソフトタイヤ準備しといて!!」

チーム無線でピットに吠える。


41周目、今回の武戦レーシング開幕戦の功労者である、46号車「土谷恵一」ピットイン。

PIT Time:29.0秒。武戦レーシングは最高のピットアウトで送り出す。

しかし、ピットアウト後には10位まで落ちていた。


レースの終盤、46号車は賭けに出る。

10位に落ちたアウトラップ、そこから順位を維持しつつ、タイヤを温めることに専念する。

次周のLAP42週目に46号車は、今まで抑えていた分の鬱憤を晴らすかの如く、全力走行。


結果ファステストラップ(決勝レースで一番速いタイム)を記録。ファステストポイント(決勝10位以内かつ、ファステストタイムを記録したドライバーに与えられる1ポイント)をもぎ取ってきた。


最後のスティントで出したファステストラップは、「土谷恵一怒りのファステスト!!!」と実況に呼ばれ、伝説のラップとして人々の記憶に刻まれた。


LAP50:チェッカーフラッグ


NEXRace 開幕戦ネオ富士スピードウェイリザルト

 P1:22号車_武戦レーシング 輪堂凛

 P2:1号車_アドリアーノフォーミュラ ロレンツォ・M・サルヴァトーレ +1.032秒

 P3:2号車_アリアンロッド・グランプリ アリスサマーウッド +5.457秒

 P4:36号車_アリアンロッド・グランプリ リチャード・パーカー +6.512秒

 P5:8号車_イザナミ・レーシング 浅河カナタ +10.023秒

       ↓

 P7:11号車_ポレイユ・レーシング ソフィア・B・時任  +11.657秒

       ↓

 P10 :46号車_武戦レーシング 土谷恵一 +17.345秒


 ちなみに今回の46号車の戦略(ストラテジー)の最もひどい被害者は、2号車「アリス・グリーンウッド」だろう。3位表彰台を獲得したとは言え、終始46号車に頭を抑えつけられた挙げ句、ようやく、こちらのピットインで眼の前から消えたと思ったら、タイヤをボロボロにしながらステイアウトしていた為、ゴール手前でも捕まって実にフラストレーションの貯まるレースをさせられていた。

「何なのあの男!?眼の前をチョロチョロ、チョロチョロ、F**K!!」ゴール後の無線ではFワード&Pi音を連発させていた。



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