Chapter4:開幕戦「決勝2」
「バイパー」の誕生により開発された「NEXRace」規格のマシンは、トップスピードを従来の化石燃料を主体とするF1マシン等の最高速400km/hに比べ、500km/hオーバーと一気に+100km/h程度まで引き上げていた。
しかし、NEXRace用マシンが出来たは良いが、この最高速500km/hオーバーを誇るマシンはあまりに速過ぎた。このマシンを安全に走行させる事の出来るサーキットが世界中探してもなかったのである。
そのため「NEXRace」第1シーズンではリボルバーストの使用を禁止し、バイパーの出力を意図的に下げて既存のサーキットを走る事になった。
そのさなか、世界に先んじて富士スピードウェイがNEXRaceの受け入れを表明。巨額の投資(500億円以上とも言われる)をかけNEXRaceに対応出来る様に大改修を行った。NEXRaceの聖地と呼ばれる所以である。世界中のサーキットは徐々に改修されていった。
現在、NEXRace聖地こと、ネオ富士スピードウェイで開催されている開幕戦、動きがあったのは10周を過ぎて11周目に入るところだった。
トップは1号車キングこと「ロレンツォ・M・サルヴァトーレ」、2秒程離れて2番手は46号車の俺こと「土谷恵一」、さらに8秒程はなれて3番手は2号車クイーンこと「アリス・サマーウッド」。そこから1秒離れたところに、22号車我らが武戦レーシングファーストドライバーの「輪堂凛」、その他は団子状態で20番手まで。1号車と46号車が他車を引きはなして走行している状態であった。
22号車の「輪堂凛」へピットの千登世さんから無線が入る。
「凛!!次の周でBOXして!!」
「えっ!!BOX?」驚いている凛の声が聞こえる。
すかさずAmiが反応する
「ピットインの意味です。凛、何度言えばわかるのですか?」
「わかってますぅ!、でも早すぎるような…」
千登世さんが無線で吠える「タイヤを交換して、アンダーカットを狙うわ!!」
「アンダーカット!?ってな りょつ了!?」
「早めに新品のタイヤに交換し、走行ペースを相手より上げる事で、順位を上げることです」
Amiが凛へ簡単に説明する。凛は少し混乱しているようだ。
22号車の無線は46号車にも聞こえる様に、メカニックの源さんに改造をお願いしていた。
「なるほど、アンダーカットね。悪くない戦略だけど、このコースでは吉とでるか凶とでるか?」
今まで沈黙していた46号車のAmiが答える。
「はい、それが凛と武戦レーシングにとって最善と判断しました」
となれば、セカンドドライバーの仕事は一つ。
11周目、22号車「輪堂凛」ピットイン、ソフトタイヤから新品ミディアムタイヤへ交換、NEXRaceにおける、全体のピットタイム平均は約30秒だが、 武戦レーシングのPIT Time:29.5秒とチームも最高の作業速度で送り出しを完了する。
22号車の凛がピットアウトした場所は最後尾+10秒程度後ろへ合流。この10秒の間隔が良い。この10秒間は、前後に車の居ないタイミングであるため、その分誰にも邪魔されず存分に自分の走りで走行が可能だ。
「この5周は、思う存分走ってください。」
Amiが凛に対しプッシュを要求
「了!!」
凛も元気に答える。
現状、22号車凛の場合の走り込んでいる中古ソフトタイヤと新品ミディアムタイヤのタイム差は1周2秒程度、タイヤ戦略的には5周後(15周でタイヤを新品に変更すると最速で走れる)に、タイヤ交換するチームも増えていく予測だ。
トップを走るキングと2番手の俺は、後5周後にBOXしたほうが良いのため、タイヤを温存させるため、ほぼクルージング状態で走行している。
さて、セカンドドライバーとしての腕を見せてやりますか。
1号車キングと46号車の俺との差は約2秒、相手の出方を確認する際に最も良いと考える位置につけていた。現在、中高速区間が続くセクタ−2、タイヤの温存なんて無視してブレーキを極限まで使用し、キングとの差を徐々に詰めていく。
プッシュを開始して2周の後のセクター3の最後シケインの飛び込みで、キングに肉薄するようにレイトブレーキング、軽くプッシュをかけるべく近づく。
キングと俺は、ホームストレートに並んて侵入する。僅かに、アウト側のキングのほうが前で加速も良い。完璧なブロック、抜くことは出来ない。仮に抜けたとしても、タイヤの状態は確実にキングより悪い。すぐさま抜きかえされるだろう。
それで良い、どのみち1位を取る事に興味は無い。
俺の狙いは、レース中にオーバーテイクを仕掛ける場合、勝負を仕掛けた相手と自身は他車にくらべ1周あたり2〜3秒程ラップが度遅くなる。ついでに、相手を警戒して中々BOXし難い。
気づけば、8秒後ろにいた2号車のクイーンが迫ってきた。
22号車「輪堂凛」のタイヤ交換によるタイムアップ2秒と、キングとの勝負によるタイムダウン3秒の合計5秒を稼せぎ出す事が、俺の狙いだった。
都合16周目まで、俺とキングの攻防は続いていた。
ピットの千登世さんより無線が入る「ケイちゃんBOX!、BOX!」
17周目キングと同時にピットイン、タイヤ交換を行う。
ピットレーン走行中にホームストレートを、22号車「輪堂凛」が駆け抜けていくのを確認した。
アンダーカット成功である。どうやら10秒程度稼ぐ事に成功したらしい。
1号車キングと46号車の俺は、同時にピットアウト、先頭は1号車キングで、これから猛烈な勢いで22号車を追うのだろう。まぁ前半のセカンドドライバーの役割はこんなもんだろう。