Chapter3:開幕戦「決勝1」
スタート30分前、パルクフェルメに保管されたマシンを取りに行き、ピットレーンから22号車:輪堂凛・46号車:土谷恵一の順番でコースに出る。軽くコースを1週し、マシンに問題が無いか確認をしていく。
チーム武戦のチーフエンジニアのおやっさんこと源次郎が2台のマシンの無線に向かって吠える
「おい、嬢ちゃんと小僧とA.I!!コース一周する間に、加速とブレーキのテストを頼む!!」
22号車と46号車は、コースを1週走る間に、急加速・急ブレーキを複数回行う。
「問題なーし!!」
「問題無し」
「両車、加減速のデータに異常はありません。」
「よっしゃぁお前ら!!気ぃ引き締めて行くぜ!!」
ホームストレートに、グリッド順に並んでいく。
頭上に設置されたシグナルが赤からグリーンに切り替わる(グリーンシグナル)
フォーメーションラップ開始。フロントのキングに続くように次々とマシンが発進していく。
今度の1周は、タイヤを温めるために使用する。各車、急加速・急ブレーキをしたり、車を左右に振って(ウィービング)タイヤに適度に負荷を与える。
このタイヤの温めが、レーススタート時の加速を決める。
46号車内では、ハンドルに埋め込まれたディスプレイに映し出されるタイヤの内圧と温度を確認しながら気持ち高めな値になるように、タイヤに負荷を与えていく。
今度のレースは上位のグリッドからスタートだ、すべての車がグリッドに到着するまでに時間がかる。スタート時のタイヤの温度の冷え具合を予測しながら
AIからの指示は特に無く、車内静寂に包まれていた。
逆に22号車の内部では、毎回のことながらタイヤの温め方を、AIが凛に説明していた。車内はAIと凛との会話で騒がしい、楽しげな凛とAIの無線がピット内にこだましていた。
22号車、46号車とも1号車のキングと2号車のクイーンに続いてコース巡る。
ついには、自分たちのグリッドに到着した。
クラッチベダルを踏み込み、ハンドルについているパドルを操作してギアを1stへ落とす。
ハンドルについている、ローンチコントロール(スタート時のパワーコントロール)スイッチを押し込み、アクセルを全開にする。
レッドシグナル点灯開始。どうやら、全車がスターティンググリッドについたようだ。
1秒毎に光るランプが増えていく。5秒後に全てのランプが点灯した。
この瞬間、時間が10倍程度伸びた様な感覚を感じる。
点灯していたランプが全消灯する。ブラックアウト、レーススタートの合図
全50周の開幕戦が開始された。
踏んでいたクラッチを引いて、タイヤに駆動力を伝える。
適切な温度に管理されたタイヤは、一切スピンすることなく、ハイブリッドエンジンから出力される駆動力を100%路面に伝える。
スタートの蹴り出しは完璧!、前方2号車を追っていく、2号車スタートはそれなりようで、こちらの方が良かったようだ。2号車の距離はスターティンググリッドの前後間隔である8mから徐々に近づいて行く。
旧富士スピードウェイからネオ富士スピードウェイに改修される際に、再現された30°バンクが目の前に迫る。ターン1(30°コーナ)で2号車のコース取りに対してほんの僅かにイン側に移す。
眼の前を走る2号車は、徐々に迫ってくる俺に気づいたようだ。こちらは大きくイン側に移ることで、ターン1で抜かれないようにブロックを仕掛けてきた。
旧富士スピードウェイでは、スタートから100m程度でターン1、ターン2との複合コーナがあったためブレーキングによる勝負があったが、時速500km/hの走行に対応するためネオ富士サーキットではオーバルコースのような30°バンクがついたターン1と、ターン1終わりから100m程度のストレート、ターン2とターン3は、ターン1と同じく30°バンクがついたオーバルコースの様な形状のコーナををS字に繋げた様な構造をしている。
ネオ富士スピードウェイではこのターン2からターン3への切り替えポイントのライン取りが勝負となる。
2号車に続いて、こちらもターン2に進入。2号車はイン側を走行することで、こちらのオーバーテイクを阻止している。しかし、ターン1からターン2にかけて右回りだが、ターン3は左回りとなる、今までインを走れていた2号車だが、ターン3入口で徐々にアウト側にはらんで行く。
ブロックラインを意識しすぎていたせいで、オーバースピード気味になっていたようだ。
アウト側に膨らんだ2号車を横目に身ながら、イン側に切り込んでいく。
こちらはレコードラインど真ん中、適切なスピードでコーナーに侵入する。。
このターン1からターン3までの超高速区間「セクター1」では、下手にブレーキを使えばバランスを崩してコース外に吹っ飛ぶ可能性があるクレイジーな区間だ。基本的にアクセル開度の調整のみで通過する必要があり、超一流のプロでも速度調整が難しい区間である。
ターン2からターン3の切り替えポイントで、2号車を抜かす事に成功した46号車であった。プレッシャーを与える目的で、わざとターン1で2号車のサイドカメラ(サイドミラーの代わりに取り付けれられているカメラ)に映るように移動した成果が出たようだ。
2号車のレース無線「S**t!!(クソ!!)」乙女が口にして良い言葉ではない。
Fワードに属するため、TV中継ではPi音が炸裂していた。
レースは、コース上で自らのマシンをタイムを0.001秒単位で削りながら、勝負を詰将棋みたいに詰めていくものだと、恵一は考えていた。なので打てる手は何でも打つ、それがレーサーとしての矜持だった。
その後の残り中速区間が続く「セクター2」と低速区間「セクター3」と危なげなく、コースを走行していく。ホームストレートに戻ってくる頃には、スタート直後に発生する混乱が解消し、全てのマシンが1列に走行する状態となっていた。
ピットの千登世さんから46号車へ無線が入る。
「やったわね、あなたは現在2位よ!!そのままの調子で頼むわね!!」
そっかぁ現在2位か…。1位は当然キングとして、2位は凛…
「ん゛!?…2位!?、凛はどこにいる!?」
「クイーンの後ろ4位を走行中よ♡」
武戦レーシング始まって以来の、高位走行に高ポイント獲得の可能性から千登世さんのテンションはとても高い。
実は今回のレーススタートだが、1号車キングこと「ロレンツォ・M・サルヴァトーレ」と46号車の「土谷恵一」両車のスタートが、あまりに抜きん出ていたのである。
2号車のクイーンこと「アリス・サマーウッド」があまり良くない出だしに見えていたが、他車に比べればかなり、いや自他共に認める過去最高のスタートをきっていた。それでも抜かれたのだから、無線中のFワードもやむを得なしといった所。現在の2号車の無線は、彼女をなだめるのに必死になっていた。
また、22号車「輪堂凛」も十分に良いスタートをきれていた。通常の「NEXTRace」であれば、予選順位を維持出来るスタートだったのだが…。今回の、1号車と46号車のスタートが異次元すぎた。そのため2位から4位に落ちたというより、「土谷恵一」操る46号車が4位から2位へジャンプアップしたと言った方が正しい。
「俺はセカンドドライバーなんだけど…。」46号車車内での独り言。
AIは何も言わず、沈黙が車内を包んでいた。
レースはその後、3周目にリボルバースト解禁、下位チームの順位の入れ替えはありつつ、真新しいこともなくそのまま、10周を走行していた。残り40周、レースはまだまだ序盤。