表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第一話

 六月上旬。特に何か目的もなくスマホをいじっていた俺に一つの通知が届いていた。表示された名前と内容に溜息をつく、

『今からここに来い。さもなければお前は大切なものを失う』

 リンクを見ると近くのファミレスだ。物騒な表現をする友人に誘われ、気乗りしないが重い腰を上げる。階段を降りていると母親が居間から顔を出して声をかけてきた。

「どっか行くの?」

「近くのファミレス」

「そ」

 素っ気ない返事をする母親は韓国ドラマの世界に戻って行った。韓国ドラマ見るから邪魔するな、と昨日から忠告を受けていたので何も思うことはない。

           *


「今年の梅雨は記録にないほどの大雨が続く模様です。不要不急の外出は控えましょう」

「呼び出しといて言うセリフかよ」

「来てくれてありがとう、マイベストフレンド」

「は?」

 ふざけた様子に威圧的に返す。いつもの流れだ。

「なんか頼んでもいいよ。奢るおごる」

 そう言いながら注文用タブレットを渡してくる。それを見ながらドリンクとポテト大盛りを頼む。ここのポテトは塩加減がよくて美味しんだよなぁ。注文確定して一息をつく。

「それで、なに?」

「ん?」

 惚けた様子でオレンジジュースを啜っている。

「いや、なんか用あるんじゃねーの?」

「え? 別に何も」

「何もって……」

 呆れて顎に手を置きながら外の様子を見る。雨粒がガラスを覆って景色をぼやけさせており、その隙間から見える外の世界には車が通るばかりだった。こんな日に傘を使ったのは俺たちくらいだろう。そう思えるほど、人影はなかった。

 特に何も言わず、ただオレンジジュースを啜る様子を見ていると、バスケットにのったフライドポテトがやってきた。ごゆっくりどうぞ、と店員さんは去っていく。

「これうまいね」

「まあ、揚げたてだし」

 二人で仲良く分け合って食べていた。何も言葉を出さず、黙々と口の中をポテトでいっぱいにしていた。それも時間稼ぎにしかならないことを彼女は知っているのだろう。何か言わなければならないことがあって彼女は俺を呼び出したのだ。長年の付き合いではないがなんとなくわかる。彼女が目線を外に向けた時、俺は問いかけた。

「大切なものを失うってなんだよ」

 しばしの沈黙。ただポテトを咀嚼する音と店内のBGM、そして、雨の音しか聞こえなかった。彼女が答えを告げたのは、ポテトが最後の一本になった時だった。

「これ食べる?」

「いや、食べるけど」

 俺がポテトを手に取ろうとすると彼女はすかさず最後の一本を口にする。

「こういうこと」

 満面の笑みを浮かべ立ち上がり、会計を済ませに行く。呆気に取られている間に彼女は去っていき、俺だけがこの店に取り残されていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ