『あたしの役目』
なんか変なこと考え始めちゃったけど、毛玉があたしのおしりの匂いを嗅ぐからよ!
本当に失礼だわ!
あたしはいつオカシャンに会えるのかしら・・・。
それとも会えないまま最期を迎えるのかしら。
血で結んだあたしとの縁。
あたしが先に死んだとしても、縁があればまた会いに来れる。
どんな形であっても・・・。
そんなことを考えていたら、オトシャンがいつの間にか出かけていて、大きな荷物を持って帰ってきたわ。
オカシャンの匂いがする!
もしかして、オカシャンは帰ってきたの?
玄関が閉まってもオカシャンの姿はそこにはなかったわ。
毛玉も少し期待していたみたいだけど、残念だったわね。
きっともうオカシャンには会えないのよ・・・。
すると毛玉が言い始めた「大丈夫だと思うよ・・・だってほら、すーちゃんの居なくなってるもん」と
そう言われて鏡の前まで行ってみると、本当・・・あれらが居なくなっている。
どうして?オカシャンは匂いしか帰ってこなかったのに、あたしは生きているの?
もしかして、血で結んだ縁が解けてしまったなんてことがあるの?
縁ていうのは糸がこんがらがって強く引っ張りすぎるとプツンと切れるようなものだと聞いたことがあるわ。
あたしが引っ張りすぎてしまったのかしら?
オカシャン・・・。
すると、また毛玉が「だからもう大丈夫だって、さっきオトシャンがオカシャンは明日帰ってくるよって言ってたから」と、先にそっち言いなさいよ!
翌日、オトシャンに迎えに来てもらってタクシーで帰ってきたオカシャンは、聞いていたほど元気じゃなかったわ。
老人のように腰を曲げてお腹を押さえて、しばらく自宅で絶対安静、つまりベッドとトイレ以外は禁止ってことね。
起き上がることも、身体を捻ることもできないオカシャンをオトシャンが看病するらしいのだけど・・・。
オカシャンはリビングに来れないっていうのに、オトシャンはごはんを作るとオカシャンに「できたよー」と声をかけるのよ。
いや、オカシャンがオトシャンに最期のお願いはこの期間の介助とあたしたちのお世話でしょ?
何がバレたか知らないけど、先生の話も聞いてきたんでしょ?
寝たきりの人に自力でリビングまで来させようとするのはどうなのかしら?
そうでなくても、オカシャンは大手術で体は車に轢かれたようにズタボロなのよ。
もうちょっと労わってあげなさいよ。
あたしが見本をみせてあげるわ。
そう言ってベッドに横になっているオカシャンのお腹の上に乗ったわ。
よーく揉んで治してあげなくちゃ、揉んでダメならあたしの超音波よね。
するとオトシャンにスマホで連絡したオカシャン。
あたしはオカシャンのお腹から降ろされることになってしまったわ。
それでも、何度でもチャレンジしたわ。
オカシャンは約4週間は3キロの物すら持ってはいけないとお医者さんから言われたそうなの。
5年前のあたしは3キロだったわ・・・それでもダメなのに今はもっと重く成長しちゃったものね。
毛玉はというとちゃっかり、オカシャンの隣を陣取って眠っているわ。
あんたはオトシャン子じゃなかったの!?
オカシャンはお腹には乗せてくれないけど顔の傍で寝ていてもいいと言ってくれたわ。
「心配したんだからあたし」そういうと「心配かけましたねすーちゃんもじゃこさんも」と会話も成立したわ。
そして、オトシャンは夜もまた「ご飯できたよー」と自分の食べたいものを作ってリビングに来るようにオカシャンに言っているわ。
退院前にバレてしまったオトシャンの嘘はオカシャンの身体の中にしっかりと目に見える形で残っていたそうで、
退院と同時に貰ってきてた写真集の説明も沢山してもらってオカシャンはウキウキだったのに比べて、
オトシャンはというと、なぜか不服そうね。
それもそのはず、オカシャンはオトシャンに先手を打たないとひどい目に遭うよ。と予言していたんだから。
でも、オトシャンは何もしなかったから、少し離れた場所で一方的な怒りが爆発したことをのちのち聞かされることとなったわ。
オカシャンのオカシャンがストレス発散ついでに突然オトシャンのオトシャンに喧嘩を売ったそうなのよ。
オカシャンはそれを予言していたのね。
オトシャンが勇気を出して先手を打つことがが出来ていたら、そこまでにはならなかったのかもしれないのにね。
この争いをまとめ上げたのは、今も絶対安静中のオカシャンだったわ。
身体もズタボロで心までまた各方面からも、オトシャンからも脅かされて疲れ切ってしまったオカシャンは限界を迎えて言い放ったの。
「あなたは看病をしたこともされたこともないのですか?」
オトシャンは絶対安静を経験したことがある。
それなのに、オカシャンのことをちゃんと介護が必要な状態だと判断できないのは、自分がやってきてしまった事が、今回バレた嘘が原因で今までオカシャンを苦しめてきて、
遂にはオカシャンが夢を捨ててここに帰ってきたという事実からどうしても目を背けたかったからのようね。
文句を言ったオカシャンのもとにはお盆とごはんが置かれるようになったわ。
オカシャンがトイレに行く時には、オトシャンは介助も始めたわ。
テレワークしながらもあたしたちのごはんやお水も変えてくれるようになったわ。
オカシャンはオトシャンの家族との交流をやめる事にしたようよ。
オカシャンのオカシャンが爆発して言葉のミサイルを撃ち込んだのもあったし、
何より「そんな昔のことをいつまでも言っているお前が悪い」という以前言われた言葉が今回手術で分かったことと矛盾しているからなの。
そんな昔の出来事がずっと隠されていたから、オカシャンは人より頻繁に発熱する特異体質になっちゃったのにね。
もう7年以上前、もしオトシャンがその時にオカシャンを大事に思っていたのならこんな結果ではなかったかもしれないわね。
どのお医者さんに診てもらっても健康そのものと言われたオカシャン。
お腹の中を直接見ないと分からないくらいに奥に奥に進行していったオトシャンの嘘は、オカシャンの中で証を作り出していたみたいね。
オトシャンが嘘をずっとついていたから、どんな検査でももう問題ないと言われていたの。
オカシャンの夢だった二人の赤ちゃんは7年前にはとっくに作れなくなっていたのにオトシャンは知らんぷり。
魔の手が迫ってきたときも、今も、寝返りひとつでオカシャンの身体は人よりも高い発熱をするわけね。
まぁ、オカシャンはもうその夢ごと取り出して、オトシャンからの謝罪なんて当然なくて、何も関係ないような顔をしているから、改めて
「月末まででお願いします」と呆れたオカシャンはオトシャンに念を押したわ。
でも、オトシャンの中でも気持ちが揺れ動いているようで、これで最期なんてそれでいいのかと今更悩み始めたの。
長い年月オトシャンはオカシャンに苦しいことしか言ってこなかったし、やってこなかったのに、
これからも一緒にいるにはどうしたらいいのかと悩み始めたけど、全然答えは出て来ないというか、考えている素振りだけしているようね。
レポートの提出日を伸ばしてほしいという学生のようだわ。
ここは女のあたしの出番ね!
オカシャンの上には乗れないし、オトシャンの上に乗ってお腹を揉みながら
「もっとオカシャンのこと大事にしなさいよ。ちゃんと気持ちを言葉にして伝えなさいよ」
でも、オトシャンは自分の気持ちが分からないみたいで、結局毛玉もオトシャンも危機感がないから、当たり前が消えていくことにリアリティを感じないんだわ。
オトシャンにとっては、ここでオカシャンが死んでいたら、それこそ裁判沙汰でいくらむしり取られるか分からないそんな状態だったのよ。
そして、あたしも一緒に死んでいたんだからね!
まぁ、あたしも立場が逆なら分からないかもしれないけどね。
オカシャンはというと、立場が逆だとものすごい大損をすることが分かっているからオトシャンには何が何でも長生きしてもらいたいようよ。
もし、一緒に暮らさない方がオトシャンのためになるならそれでもいいから長生きしてほしいというのが損得勘定のオカシャンの気持ち。
色恋沙汰の気持ちは夢と一緒に失ってしまったみたいなの。
まぁ、退院してきたばかりだし、オトシャンは馬車馬のように使われればいいんだわ。
と、まぁそんなこんなで無事あたしのオカシャンは帰ってきましたのよ。
あ、オカシャン生きてましたね。
さてこの二人は何がしたいのでしょうね?
見ていて少しイライラされる部分も出てきたころでしょうか?
いつも長い文章をご拝読くださりありがとうございます。




