『対等な関係』
裸族の毛玉と一緒に先生の居る病院に預けられて半日がたったわ。
あいつはあれこれギャーギャー騒いでいるけど、周りを見る限りここはあたしたちの命を奪う保健所じゃない。
かといって世話係が居たようなコミュニティでもない。
何かある度に預けられるような場所のようね。
ホテルってこんなかんじなのかしら?
そんなことで不安がっている毛玉は置いといて、オトシャンとオカシャンはどうしたのかしら?
最近家中のものを箱にしまい始めて、オカシャンに至っては首を痛めるほどに大急ぎだったわ。
そして、あたしたちの健康診断も早く、あいつの裸族カットも早かったわ。
そうこう色々考えている間にあたしは眠くなっちゃって寝ていたらいつの間にかオトシャンとオカシャンの声が聞こえるじゃない。
なんの心配も要らなかったじゃないの・・・本当に毛玉改め裸族はビビリなんだから。
車を降りるも、いつもと匂いがだいぶ違うじゃない。
そこから上るエレベーターのGがキツイこと。
「さあ、おふたりさんどうぞ~」とオカシャンの声と共にあたしとあいつの狭い箱のファスナーが同時に開いたわ。
あたしたちは顔を見合わせて「ねぇ!ここはどこ?」とキョトンとしたあと
恒例の各々の探索に出たわ。ここにはあいつの匂いどころかあたしの匂いもないじゃない。
全くないわけじゃないけどほぼないわね。
あのおうちよりも広々としている。
世間が大変な中オトシャンとオカシャンはなんと、金利が下がった唯一の一か月に絶妙なタイミングで家を買っていたの。
その翌月からは全国的に不動産バブルがやってきたらしいけど、その、ほんの一か月を予見してオカシャンは粘って交渉をしたようね。
オカシャンには先が見えていたから売主さんからしたら大損だったかもしれないわね。
このバレない嘘の達人が張り切っていたのはこれだったのね
これであの病院ともお別れなのね。
思えば優しい先生たちだったわ・・・。
新しいおうちでは、各部屋の探索は一気に許可され、あたしと毛玉改め裸族の立ち位置が対等になった日でもあったわね。
そして、今日はあいつの6歳の誕生日でもあったらしいわ腹立たしい、っふん!
今までの家にも愛着がないわけではないけど、あたしが家族に加わるまでの間ずっとあいつがすべての部屋にあいつの匂いをまき散らしていたから
出るに出られないまま寝室にだけ、居たのだけど今となってはどっちが先とかないから好きな部屋に好きな時に好きなだけ居られる・・・最高ね。
部屋の数も増えているじゃない。窓から入る日光も暖かいわ。外には仲睦まじい鳥たちも遊びにくるのね。
捕まえられないけど(オカシャンは頑なに外に出してくれないから)
以前のおうちにあったベッドも遊び場もあり、新しい場所すべてにトイレもあるわね。
これは探索に結構かかりそうね。ワクワクするわ。
毛玉改め裸族もルンルンであちらこちら探索してるみたいね。
オトシャンとオカシャンは沢山の箱たちを今度は開いて中身をしまい始めたわ。
今は遊んでくれなくてもあたしたちは探索で忙しいから片付け頑張ってたらいいわ。
「ねぇ!すーちゃんここは僕の8回目の引っ越し先かな?今までで一番広いよ」
外の世界を知らない毛玉改め裸族にはそう感じるのね。
でも、外で安全な場所なんて確かにこんなに広いところはそうそうない。空から襲われることもないし。
そんなことを思い返していたら窓の外にあの黒い鳥が・・・。
兄弟を食ってしまったあの鳥とは違うのだろうけど危険だわ。
とっさに窓から離れたわよ。
なるほど、オカシャンが頑なにベランダに出さないのはこういうことなのね。
それにしても今回窓の近くの高台から見える景色は広大だわ。
ご近所さんへの挨拶の場所もちゃんと用意されていて新しいご近所さんからもとても可愛いと大絶賛よ。さすがあたし。
あたしは滅多に顔をだしたりしないけど、毛玉・・・(もう毛玉でいいわ)はご近所さんに網戸越しなら愛嬌を振りまくから、すぐにあたしたちは有名になったわ。
そのおかげもあって、オトシャンとオカシャンはご近所さんととても仲良しよ。
一通りの片づけが終わった頃、世の中は外出を控えることに飽きて、色んなお店も開き始めたわ。
それでも、時間制限があったりして、オトシャンたちは呑みに行くことがだいぶ難しいようで夜はだいたいおうちに居るままだったけど、
オトシャンは新しいおうちに居ながらテレワークが出来る環境にとても満足気だわ。
オカシャンは予想通りに忙しさを取り戻し毎日疲れて帰ってくる日々がはじまったようね。
体力勝負に加えて頭脳戦型のオカシャンにとって、半年間の暇な時間は実践がない分、実験に使える有意義な時間ではあったものの、
上司との関係性に違和感を抱き始めた春の初めからしばらくすると、
同僚や先輩方が、オカシャンの言う通りに世の中がなっていっていると気づき口に出してしまったらしいわ。
暇すぎる間休んでもらった人たちを忙しくなる前に呼び戻すようにと、進言するオカシャンに上司は「どうせまだ暇だからいい」などと言って呼び戻さないまま
大忙しとなってしまって、上司は自身の先の見えなさに倒れてしまったらしいわ。
暇だった間はオカシャンと同僚の人と二人きりの日も多く、経営者でもある上司は来ない日が多々あったらしいわ。
自粛が呼びかけられている間はどちらか一人でも留守番程度のことは出来たから、家の近い二人がなんとか回していたみたいだけど、
その状態のまま、カマキリが卵から産まれるように触れ合う人たちが一気に押し寄せたので、さすがに二人では回しきれず、休んでもらっていた人たちをやっと戻してもらえたんだって。
今年の年始まで好調だったオカシャンの務めるその会社は、その時点で昨年度と比べ大きく利益がマイナスだったらしくてオカシャンも慌てていたわ。
年末までにそのマイナスを埋めるべく、オカシャンは頭を捻る。
何年にも渡り、各種イベント、毎月変わるお得なメニュー、健康だけではなく美容のコースなどは、暇だった半年間に更にに実験を重ね、オカシャンが磨き上げていたの。
その上広報も全面的にやり、上から専門的な内容も欲しいなどと言われれば
本来上司のブログなのだけど、上司がそういったことは書くことができず、マメな更新もできないというので、専門的な解説などのブログも書く、実務の触れ合いもオカシャンはなかなか予約が取れないほどの人気者。
忙しさが戻ってからは自宅でも色んなことを考えながら、眠れぬ夜を過ごしていたわ。
目標の金額までどんどん追いついてきているようで、オカシャンも嬉しそうだったわ。
そんな秋口、上司は「来年からみんなの給料を減らして出勤日数も減らして細く長くやっていこう」などと言い出したらしいわ。
今年ほとんど来ていないに等しい本人の給与や役員手当を返納とかよりも利益を生んでる従業員を苦しめる案が出るってどうなのかしらね。
オカシャンは「それなら辞めますよ」と言ったはずなのにそれから上司はオカシャンとの会話をひたすら避けたみたいなの。
他の人たちも同じく「辞めたい」と言いだしていたのだそうよ。
それもすべて聞こえない振りをした上司は、当たり散らすように触れ合う人たちが居る前でも、
癇癪を起した子供のように暴言を吐き出し始めオカシャンはとりあえず未来辞める方向か、違う方法があるか悩み始めておうちでもあまり元気はなかったわ。
触れ合う人たちも経営者でもある上司へのクレームを吐き出し始めたとかで、オカシャンやオカシャンの同僚は頭を抱えていたわね。
オカシャンは職場環境を改善すべく、夜な夜な考え話し合いの場を要求したけど上司はさっさと帰宅していまい、話は上司の妹が聞くこととなったらしいけど、
上司は妹の耳から聞いた言葉すら否定するらしいわ。
「誰一人辞めたいなんて言っていない」なぜか現実をみないようにしている困った人ね。
それでも、笑顔で触れ合いを続けたオカシャンはみるみる痩せてしまったの。
触れ合う人々が大好きで喜んでもらう事が大好きなオカシャンは、いつも笑顔を絶やすことなく職場へ向かっていたわ。
ある日、仕事を終えた上司が話を聞くというので職場環境を良くするための案を紙にしたため、一対一で話し合えると思ったオカシャンは安堵したけど、
それは話を聞いてくれるわけでもなく、会話でもなく、ただ一方的に
「今あなたに辞められたら我が家は路頭に迷う、私には子供も沢山居て妹にも子供がいる、前任者のように自殺未遂をするまではやめられては困る」
それだけ言われて、オカシャンは紙にしたためた改善案を見せることすら叶わなかったそうなの。
それから決算の結果がきて、年初からの赤字はなんと他所が大赤字で潰れるところもある中、職場の人たちに頑張ってもらったおかげで黒字にまでなったらしいわ。
ホッと一安心した頃、オカシャンは上司に言われた言葉を思い出し
オカシャンの心は壊れはじめてしまったの。
いつもなら、目覚めるなり忙しなく出かけて行ったオカシャンは
突如ベッドの上から動けなくなり、涙を流し滅多に人に頼らないオカシャンがオトシャンに頼り、職場に行けないことを伝えてもらい病院に行ったわ。
オカシャンは心を壊してしまったの。いつもの笑顔を見ることもできないわ。
どうしたらいいのかしら。
なんと世界規模の災害と言ってもいいほどのコロナ禍に大胆にも引っ越しをしたこの家族。
誰の心にも余裕がなくなり始めているそんな時期でしたね。
無意識で人を傷つける言葉を言ってしまったり、心を壊してしまう方々も多くいらっしゃいました。
オカシャンもその一人になってしまいましいたね。
すみ美さんは新しいおうちと過去の逃げ場の少ない外を思い返し安全な場所に安堵していましたが
オカシャンが壊れてしまったことで環境は大きく変化することになるのでした。
じゃこ天はと言えば・・・さてどう思っているのでしょうね。
いつも読んでくださる方々ありがとうございます。
未だに身内にすらほぼ宣伝していないので読んでくださっている方々だけが知る作品となっています。
よく眠れる作品にもなっていますのでブックマーク登録や感想をお待ちしております。




