『居なくなったオカシャン』
あたしが心を許したオカシャンがあたしの前から突然居なくなったの。
あの毛玉と一緒に…。
何が起きたの?まだ信用もしてないオトシャンていう人間とあたしだけになっちゃったじゃないの。
まだ怯えてて、あたし好きになれないのよね。寝相悪いし。
もしかしてこれからあたしはオカシャンと家族じゃなくなっちゃうの?
毛玉?あんなのどうでもいいわ。
そんな不安を胸に毛布に包まっていたら、あいつの声が聞こえた。
毛玉の声が。
「すーちゃん!隠れろ!できるだけ見つからない場所に」
あたしは隠れてるわよ布団の中に。
「病院に連れていかれて今まで以上に酷い目に遭うぞ」
毛玉は既に酷い目にあってあたしの身にも同じことが起きると言うけど
オトシャンを見る限りあたしを捕まえようとする気配もないし、オカシャンは居ないわ。
あいつの声は聞こえるのにオカシャンの声は聞こえないじゃない。
もしかして、酷い目にあったのはあいつだけじゃなくて、オカシャンにも何かあったのかしら…。
と心配していたら玄関の扉が開いて毛玉が帰ってきたようね。
オトシャンにおいしいものを貰って寝室に来たわ。
「いいの?逃げないで…」と毛玉は言う。
「あんたオカシャンはどうしたのよ…」と聞いて毛玉が答えようとしたその瞬間
毛玉は逃げながらこう言ったわ、ゆっくりとめくり上がる布団を見ながらあたしに
「そのオカシャンから逃げろ…。」
そう、布団をめくり上げあたしと目が合ったのは居なくなったと思っていたオカシャンだったのよ。
でも、すでに寝室の扉は閉められているわ。逃げる場所はどこにもないじゃない…。
取り急ぎあたしはベッドから飛び降りて窓際の本棚の上まで逃げたわ。
信頼しているオカシャンだけど今日は毛玉の話じゃ酷い目に遭わされると言っていたわね。
病院にいく時には爪を切られるのと目薬を点される程度よね。
一体どんなことが起きるっていうの?
大好きなオカシャンだけどあたしは警戒して怒ったわ。
「いやよ!今日だけはどうしてもいやよ!やめてよオカシャン!」
それでもあたしを捕まえたオカシャンにあたしはおしっこを本棚にしてやったわ。
多少あーぁって顔はしているけど放してくれないの。
そのまま寝室の扉の外で待っていたオトシャンがあの毛玉が病院に行く時に入れられる狭い箱に洗濯ネットをかけて待っていてそこに押し込められたわ。
あたしは怯えながら運ばれて病院に着いたみたいね。
病院はいつもと変わらない決して好きな場所じゃないけど。
いつもは洗濯ネットから出されることなく爪を切られるけど、今日は
先生に抱っこされて爪を切られるようね。
あたしは先生の腕に抱きつき「やめて…」と訴え顔を埋めたわ。
まぁ、やめてくれはしないんだけどね。
目薬だって本当は毎日点さないといけないのにオカシャンがあたしに点そうとする度にあたしが嫌がるから嫌われたくなくて先生に頼んでるのよ。
ちょっと目ヤニが出やすいだけなのに。
外で生きてりゃみんな風邪くらい引くのよ。
まぁ、だから外で生きて居る同種の寿命は事故やあの黒い鳥や人間に殺されるのも含めてだいたい2,3年て言われてるみたいだけどにたまに18年以上生きる長もいるわよ。
まぁ、そんなことは今はどうでもいいわ。
爪切りも終わり、目薬も終わったわ。
ここまではいつもと特段変わらないわね。
あの毛玉もしかして、あたしを怯えさせようとして脅したんじゃないの?
日頃の決着がつかないからって嫌がらせかしら…。
まったく、せこい手使うわね…あとは来た時の狭い箱に入れば終わりでしょ。
あら?
おかしいわね…どこに箱を置いたのかしら?
それにもういつものは終わったのにあたしはまだ診察台で押さえつけられてるわ。
先生は背中を向けているわ。
そして、振り向いたときには…あの恐ろしい光りを見てしまったの。
あたしは知っているわ…これが何なのか…確かにこれは毛玉が恐れるだけのことよね。
今すぐ逃げ出したいわ。
暴れ始めたあたしはまた洗濯ネットに入れられてしまったの。
なぜこのネットに入れられるとあたしは動けなくなるのかしら・・・。
あいつは器用に転がって動いていたのに。
あたしはなぜか動けなくなるのよね。
そうしている間に事は済んだわ。
先生上手じゃないの。でもこのあとだるくなるのよね。
やっと出てきた帰るための狭い箱にあたしはネットごと入れられてオカシャンに連れて帰ってきてもらったわ。
おいしいものを貰ってあたしはまた寝床に行ったわ。
無知な毛玉に教えてやったわ。
「あんた注射なんて怖いの?(まぁあたしも嫌いだけど)あれはね、あたしたちが大きな病気をしないようにと予防するために年に一回打たれる三種混合ワクチンって名前の注射なのよ。」
毛玉はキョトンとしていたけどあたしは続けたわ
「あれはね、オカシャンがあたしたちが健康で長生きしてほしいって思ってるから受けさせるのよ。ちょっとチクっとするけど我慢するのよ」
あたしたちが長生きしないとオカシャンは泣いちゃうからね。
それにしても、なぜ今回は一人ずつだったのかしら?
それに先に連れていかれた毛玉はどうやらあたしを守ろうとしたみたいね。
いいところもあるじゃないの。確かにあたしだって行かなくて済むなら病院なんて行きたくないもの。
ちょっと見直したわ。
オトシャンは一人じゃあたしを捕まえられないから捕まえるのはオカシャンの役目ってとこだったのかしら?
Q.あたしの病院用の箱はどうしたのかしら?(A.あたしが漏らした箱を手抜きしたオカシャンが洗濯機で回して一回でぶっ壊しました)
オカシャンが居なくなっちゃったことに比べたら、あたしには注射なんて大したことじゃないわ。
それに、あたしもオカシャンともっとずっと一緒に居たいもの。
ホッとしたし、注射のあとでけだるいわ…今日はもうしばらく寝ていることにするわ。
おやすみなさい。
仲が悪かったお二方が協力しあう?そんなお話でしたね。
誰しもがそうですが、仲が悪いだけの人なんてなかなか居ないのですよね。
だって仲が悪ければさっさと縁を切れますからね。
友人や家族、パートナーでさえ、自分と同じ思考回路の方は誰一人いませんから、合う時は合う。合わない時は合わないそういうものでしょうね。
ブクマ登録どうぞよろしくお願いいたします。