95.えっ、怖っ
絵里は恐る恐る、辺りを見渡す。
誰もいない。さっき……路地を入る前までは、ちらほらと歩いたり、走ったりしていた人が……
自分だけが世界に取り残され、自分以外が出す音が聞こえない。
心地いい音を聞かせていた噴水の水は、流れることなく、ただ静かに固まっている。
そして、全ての家の窓は、真っ暗闇に包まれて、中の様子を見ることが出来ない。
風もない。雲も動かない。人の気配がまるでない。
絵里の鼓動は自然と上がり、痛いほどに耳に響く。
自分だけしかいない世界は、とてつもなく怖い。
絵里は壁に寄りかかり、何とか呼吸を整える。けれど、体の内から漏れ出てくる恐怖は絵里を凄まじい速度で蝕んでいく。
ただでさえ、力が入らなかった体がもう言う事を聞かなくなり、絵里はその場に崩れるように座り込む。
「はぁ、はぁ、ネヒィア……」
絵里は力ない声で、ネヒィアの名を呼んで下を向く。
このまま死んでいくのだろうか……そう思うと余計怖くなって、絵里は目に涙を浮かべる。
体が震えだして、ただただ、荒い呼吸を繰り返す。
誰か……いないの……
『あら、待たせすぎちゃったかしら』
絵里の頭の中に透き通った綺麗な声が響く。
誰?
『んー、名乗れる名前がないの。だから……私はあなたの事が好きな、あなたの、ファン?みたいな』
絵里の頭の中に響く声は、楽しそうにそう絵里に話しかける。
絵里は目を擦ってから、前を見る。相変わらず誰一人としていない。
けれど、絵里は少し落ち着いて、
「どうして、誰もいないの?」
口を開いて、声で話しかける。
『私とあなたの会話を聞かれないために、よ。体は大丈夫?』
「えっ、えーと、力が入らない、それ以外は……大丈夫かな」
『そう。少し無理させ過ぎたわね。ごめんなさい』
絵里に謝るその声に、絵里は首を傾げて、
「どうして、あなたが謝るの?」
『私が勝手に、あなたの魔力を使ったからよ。そのせいで、力が入らないの』
勝手に……なんで?
『あなたの魂を治すためよ』
えっ……聞かれた?えっ……怖っ
『……後、数日もすれば元通りになるわ。それに身長も少しは伸びる』
「本当?言ったね?」
『ええ』
絵里は少し食い気味に言葉を返し、ちょっと安心する。
「良かった……」
『ええ、良かったわね。それで、さっきのは、ついでここからが本題よ』
声が急に真面目になって、声の雰囲気が変わる。絵里も、少し姿勢を良くして、頷く。
『私に会いに来ない?』
……は?いや、何か大事な話では……
『何を言ってるの?一番大事でしょ?私はあなた……絵里ちゃんを色々と助けたのだから。恩を返さないの?』
えっ、いや……まあ、それは、
「それなら、どこにいるの?」
『真反対?丁度、今いるその場所から、くるっと半周』
「くるっと半周……何を?」
『この星?』
……遠い、やだ。
『えっ?いやいや、会いに来てくれるよね?ね?』
「それは……おいおいで……て言うか、なんで自分から会いに来ないの?」
『えーと、まあ、色々あって……その、お願い』
「……分かった。いつか会いに行く。約束するよ!」
『約束よ、絶対!出来るだけ早く頼むわ。あっ、後オセラにあったらよろしく伝えてね』
「オセラに?」
『そうよ。時間がもうあんまりないから、最後に、えーと、会ったら私を抱き締めてね?』
「えーと、分かった……」
『約束ね!』
そんな言葉を最後に、急に静かになる。そしてまた、一人になった。
噴水の水が動くこともなく、雲が動くこともない。
不思議な声と話していた時は、調子が良かった体も、また思い出したように、重く力が入らなくなる。
そしてさらに……
「急に眠くなってきた……」
絵里は左右に揺れて、うとうとと目を瞑ったり、開けたり……
こんなとこで寝たくない。絵里は必死に抵抗しながらも、睡魔は絵里を攻め続けて……
「エナ……ネヒィ……ア……」
コテっと絵里はその場で座ったまま目を閉じた。
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