46.もう、いいよ
怒ると、逆ギレされて、怒鳴られる。
泣いたら泣いたで笑われて、自然に出る泣き声が、笑い声で掻き消える。
なら、笑顔を浮かべていたら?汚いものを見るかのような視線で見られて、暴言を吐かれる。
余裕ぶって、強がっていたら?逆上されて……けれど、やがて陰口を言われるようになって、面と向かっては暴言を吐かれなくなる。
静かにして言葉を発さない。そして、出来るだけ関わらないようにして、影になる。そうすればいずれ、標的は変わる。
解決も解消も何もしていないけれど、自分は楽になる。
……本当、ずるい人生だ。
〇◆〇◆
絵里にいきなり胸ぐらを掴まれたハクは、引き攣った笑みを浮かべて、体を震わし怯える。
けれど、そんな事はどうでもよく、ハクと絵里、双方の涙で濡れた瞳と瞳が、真正面からぶつかり合う。綺麗な紫色と、引き込まれるような深淵。
ハクとは真逆で、一番遠いその瞳。そんな瞳はさらに陰りを見せて……ハクに問う。
「ねぇ、ネヒィアとエナは、どこ?」
とても低い怒りが詰まった、強く冷たい声色。一語一語が空気に質量を帯びさせ、重い空気はハクをゾッとさせ、地面に縫い付ける。
胸ぐらを掴まれて、地面から少し浮いているはずなのに、声1つで落とされる。
恐怖を通り越して、畏怖を覚えるハクに次いで
「どこ?」
絵里のたった一言の重い言葉。
答えなければ……それは分かっている。けど、口が動かない。体が強ばって、変な所に力が入って……
そんな時、ハクの腕は震えながらも、エナとネヒィアがいる空間を繋ぐ魔法陣を展開し、口から言葉が飛び出る。
「この……中……」
震えて、怯えて……もう、どうしょうもないぐらいに逃げたい。
怖い。そんな薄っぺらな言葉なんかじゃ、表現出来ない、本能の叫び。
けれど、それでも、絵里ちゃんは……私を殺したりはしない、そう信じているから……
「絵里……ちゃん。ごめんなさい。私……」
「ハク」
絵里の声にハクは言葉を遮られ……口を噤む。そうして……
「もう、いいよ」
絵里のそんな、そんな声に……
「……絵里ちゃん……私はやっぱり……いない方が……」
もう声にならない悲鳴をあげて俯くと、瞳から涙が零れ、絵里の腕へと落ちる。
知っている。最初から覚悟は出来ていた。いらない子。使えない子。要領が悪い子。頭が悪い子。……皆を不幸にする子。
ねぇ、私は一体……
「ハク。ありがと」
ハクは目を見開き、地面に崩れ落ちる。
その間に絵里は、ハクが展開した魔法陣の中へと入り、消える。
お主……今は来ないで……
絵里ちゃん……もういいってそう言ったのは……
あー、涙が止まらないよ……絵里ちゃんのバカ……
ハクは涙で歪む視界の中、絵里が入った魔法陣を見る。
絵里ちゃん。最初で最後の好きな人。こんな私に、ありがと、なんて言葉をかける……大好きな人。
私みたいな最低なクズに、笑いかけてくれる人。
「絵里ちゃん……私、頑張れたかな?ねぇ……エナとネヒィアを……隠しててごめんね。絵里ちゃんが、閉じ込められた時……エナとネヒィアの偽物を作って……殺そうとして……ごめんね。全部、私が……いるから……」
「お主。もう終わりじゃ」
「そうよ。終わったわ……」
口から自分の声が溢れ出る。私の中にいる私が喋るのだ。安心したように、褒めるように……だから
「ありがとう。そして、またよろしくね……」
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