40.救世主
「どうゆう……こと?」
絵里は、息が段々と弱くなってきたネヒィアをぎゅっと抱き締め、深呼吸をゆっくりと繰り返す。
ネヒィアが2人……どっちが本物で、どっちが偽物?私が抱いてのは本物?それとも……
「痛かったニャー。久しぶりに、あんな一撃を喰らったニャー」
マーラの怒りが込められた言葉に、絵里は考える事をやめて、はっとする。そして声がした方……後ろを向くと、
先程蹴り飛ばしたはずのマーラが、ニコニコしながらそこにいた。それも、地面に確実に当たったはずなのに、土埃1つ付けずに……
「追い込まれてるニャ、絵里ちゃん。神獣2匹……いや、3匹は屍同然。悪魔の方は、どこかへ逃げたニャー」
「……ねぇ、マーラ。一体、何をしたの?」
絵里はマーラを睨みながら、少し質量を帯びた重い声色で問いかける。
エナに刺さっている剣は、ネヒィアに刺さっているものと同じ、氷の剣。絶対にマーラは何かを知っているはずだが……
「私は何も知らないニャー」
「嘘をつかないで。何をしたの?エナとネヒィアに!」
「本当に何もしてないニャー。けど、あえて言うなら、剣は刺したニャー。絵里ちゃんが上に飛んだ後、残ったやつ全部を飛ばしたニャー」
少し戸惑ったようにマーラは答えて、エナに刺さった剣に視線をやった。
薄い水色のよく勇者が持ってそうな剣。溶ける気配は全くないそんな剣がエナには……3本刺さっている。
そんなに深くは刺さっていない。けれど、血が体を伝って地面へと落ちている。
そんな、そんな姿に絵里は無性にイライラして……
「エナ!起きてお願い。ネヒィアが……ネヒィアが死んじゃうよ!」
「……無駄ニャー。絵里ちゃんが抱いている神獣は、もう死ぬニャー。魂が限界を超えてる……取り返しなんてつかないニャー」
「うるさい!」
絵里の泣きそうな一言はやけに響き、辺りを震わす。魂とか……そんなの知らない。分からないよ。エナもネヒィアも教えてくれないし……なんなの?
どうして自分がこんなに怒ってて、イライラしているのかも分からない。エナがネヒィアを諦めることも分からない。ハクがいなくなった事も分からない。
けど、なら、私は……
「絵里ちゃん。もうダメニャー。神獣はどっちも死ぬニャー。だから、私と一緒に暮らそうニャー。ずっと待ってたニャー。ずっとずーっとだニャー。邪魔な神獣 が消えて……絵里ちゃんは私のものニャー」
マーラの楽しそうな、嬉しそうなニヤニヤ笑うそんな声は絵里よりもなお辺りを震わし、揺らす。
「来るニャー。ずっと私と一緒ニャー」
マーラは子供をあやす様な声と共に歩き、絵里に近づく。そうして……ニヤッと皮肉げに……いや、嘲笑、侮蔑、そして蔑み。そんなものが混ぜ合わさってぐちゃぐちゃになった汚い笑顔で……
「もう演技は終わりニャー。起きていいニャー」
そんな……そんな言葉を発して……絵里はエナの方へと後ずさる。やばい、やばい、やばい!
倒れていたビースト達、皆が皆起き上がり、こちらを見て笑っている。
そして……ゴボッと重い液体から気泡が弾ける音がして……エナと倒れているネヒィアが黒い液体に呑まれる。
絵里は直感で……もうダメだと……どうにもならないとそう思って……
「ネヒィア……助けて……何でもするから……」
最後の望みをかけて、ネヒィアに助けを求め……
「主、様……なら……私を、犯して」
「ネ、ネヒィア!良かった。まだまだ生き……て……た……」
ネヒィアを見て絵里は目を見開き、ゾッとした。体が半透明になっていて……感触はあるのにネヒィアの重みがない。
嫌だ、ダメ。ネヒィアそんな顔しないで……
「大、丈夫。主……様……」
「死なないで、どこにもいかないで……嫌だよ。1人はもう嫌だよ。皆……皆私をいじめて……ネヒィア私を1人にしないでよ……」
絵里が泣きながら、膝を地面に付けネヒィアに顔を埋める。もうどうしたらいいのか分からない。誰か……誰か……
――絵里ちゃん。もう大丈夫。頑張ったね――
「えっ……ハ……ク?」
絵里の頭の中で優しい声が響き……顔をあげると……そこには――――――
面白い、続きが読みたい、そう思った方ぜひ、ブックマークそれと
☆☆☆☆☆
↓↓↓
★★★★★
広告下の星をポチッと押してポイントを。
ついでに、いいね!と思った方いいね!ボタンをポチッと。
よろしくお願いします。