39.偽物
絵里に伸びたネヒィアの腕に、氷の剣が突き刺さり血が溢れ出す。
ネヒィアの着ている半袖のブラウスが赤く染まり……血が腕を伝って地面へと零れ落ちる。
だがそれでも、ネヒィアは表情を一切変えることなく絵里に触れて……それと同時に氷の剣がもう一本、今度はネヒィアの太腿を掠った。
そんな光景を絵里は、とても長く遅い時間の中で見て……聞いていた。
いつもなら一瞬だけしか見えないものが、聞こえないものが、何秒、何十秒とかけて流れ、聞こえてくる。
ネヒィアの腕に剣が刺さる音。太腿に剣が掠る音。ネヒィアの足音に、服が擦れる音。絵里の頭の中に響く、プツンという音。
それから、ネヒィアの微笑み。ネヒィアの頬を伝う涙。そして、銀色の綺麗な髪が靡き、瞳が開かれて、強く絵里を見る視線。
少しだけ、世界が絵里を中心に廻る。
そうして、遅く流れ続けたネヒィアの片手が絵里のお腹に付いて、それがやがて両手になって絵里を包む。
暖かくって、熱くって、力強い感触。それを感じながら絵里は、マーラの手を離れネヒィアを守るように抱き、思いっきり空へと飛び上がった。
氷の剣が絵里を掠り、血を滲ませる。けれど、そんな事気にせずに今度は絵里が、
「ネヒィア、大丈夫?」
ネヒィアと同じセリフを口にした。
少し微笑みを含んだ優しい言葉。それにネヒィアは、
「うん」
たった一言返事をして……
「ネヒィア?ネヒィア!」
ぐったりと絵里のお腹に顔を埋めて、荒い呼吸を繰り返す。
肩で息をしているような……熱があって苦しい時のような、いつもなら絶対に見せないネヒィアの姿に、絵里は困惑と心配が入り交じった声をあげる。
だが、ぎゅっと抱きついていたネヒィアの腕からは段々と力が抜け……その代わり体がどんどん熱くなっていく。
どうすればいいのか分からない。私じゃダメだ。なら、とりあえずエナに……そう絵里は思い、視線を動かした瞬間、絵里の前に
「速くなったニャー。けど、そんな速度じゃ私からは逃げ……」
「黙って!」
絵里の怒りが篭った声と共に、マーラに向けて絵里の本気の蹴りが飛ぶ。
自分でも、びっくりするぐらいに速く動いたその蹴りは、マーラの肩を綺麗に捉え、ボキッと言う音を響かせながら、マーラを吹き飛ばした。
マーラがドン、と地面にぶつかると同時、絵里は静かにネヒィアを抱いたまま着地する。それから急いでエナの方へと駆けて……ピタッと立ち止まってしまった。
ハクが居ない。けど、それよりもエナ……どうして蹲ってるの。どうして、氷の剣が何本も刺さってるの?
どうして……エナの前にネヒィアが倒れてるの?
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