3.お別れ
「ここは、簡単に言うと魔法が使える世界、ね」
「魔法……?私も使えるの?」
「もちろん、絵里ちゃんなら余裕で使えるわ。まあ、そんな事よりも、一旦外に出てからでもいいかしら?」
「う、うん。分かった。いいよ、えーと……エナ」
絵里の名前呼びに少しばかり驚くエナだが、洞窟の外……光が漏れてきている方向へと、迷いなく進む。
それを絵里とネヒィアは追いかけるように、後ろから2人並んで付いて行く。
数十秒か数分か、どれぐらい歩いたのかは分からないけど、やっと外へと出る事が出来た。地面は湿った土から、枯葉が落ちた土に変わり、それを巻き上げるように風がヒューと吹く。
洞窟よりも少しだけ温かい。そして、空気が美味しい場所。太陽の光が葉の隙間から漏れ出て、絵里達を照らすそんな場所は……
「紛うことなき森……日本と変わらない感じ?てか、なんも変わらない……よね?」
「日本って?」
絵里の呟きに微笑みながら疑問の声を浮かべるネヒィア。だが、エナは分かっているようで、絵里の言葉に反応する。
「そうよ。ほぼ感じは一緒。ただ、魔物が時々出るから、そこだけは日本と違うわね」
「魔物?」
今度は、絵里が疑問の声をあげる。魔物……よく敵として出て、殺される悲しい生き物。なんか怖いイメージがあって強い感じの奴。それが出るらしい。
それにしても、どうしてエナは日本の事を知っているのに、ネヒィアは知らないのだろうか?
「魔物。魔法を使う、四足歩行の生物よ。まあ、あまり出会う事はないから気にしなくていいわ」
「そうなんだ。すごいね、エナ」
「いいえ、この世界の常識だから、知ってるのが普通よ。それよりも、決まった?どうしたいか」
エナは絵里に向き直り再び質問をした。帰りたいか、帰りたくないか……
正直に言うと、絵里はまだこの世界を、この場所を、この2人を、夢だと思っている。いつか醒めてしまう儚い夢。
だからなんとなくで、質問を質問で返す。
「んー、私って今、日本でどうなってるの?」
「皆の記憶から消えて、あっちの世界にいた、という事実も消されてるわ……まあ、帰ればもちろん戻るけど」
「へー。なら私は…………こっちにいるよ。エナとネヒィアと一緒に居られるし」
それに、録な思い出もそれ程ないし……そう絵里は思いこの夢を楽しもうと、それにもし現実だろうが後悔はないから……だから、問題ない。
そう思って、絵里は出てきた洞窟の方を向きさようなら、とそう言葉にはせずに口だけを動かして、別れを告げた。
そんな絵里にエナとネヒィアは少し目を見開き、そしてネヒィアは絵里に抱きついた。
それはそれはとても嬉しそうに。
「主様ー♡大好きです。ずっとずーっと、一緒にいて下さいね!」
「お、重いってば、ちょ……」
ネヒィアの不意打ちに、絵里が戸惑いの声をあげ、よろけると、それを見かねたのかエナが一言、
「ネヒィア」
鋭い声色でネヒィアの名を呼んだ。それとほぼ同時、絵里が感じていたネヒィアの重みが消え、
代わりに……
「ちょっと、エナ、重い。ネヒィアよりも、おっぱいがー!」
ネヒィアが離れたと同時、今度はエナが絵里に抱きつき体を押し当てて、ぎゅっとする。
そんな、不意打ちにも程があるハグを貰った絵里は、後ろに倒れそうになり腰が悲鳴をあげる1歩手前までダメージを喰らう。
だがそれを、
「ネ、ネヒィア?後ろからだとまあ、いいけど待って、く、苦しいー!離れ、離れろー!」
ネヒィアは後ろから絵里に抱きつき、絵里はなんとか体制を保つ事が出来た。
だが悲しいかな。苦しい、重い、それと大きい。
そんな3連チャンの物理、精神攻撃をまともに喰らってしまった絵里は、涙目になりながら今日1番の絶叫を森の中に轟かせ……
ちょっとだけでも、胸が欲しい……そんな、叶うはずもない願いを心の中だけで悲しく願った。
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