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20.あなたはどこ?

 

「……もちろん。聞くよ」


 エナに優しく抱かれた絵里(えり)は、少しだけ目を閉じ、それから明るい声でそう言った。


 エナだけでネヒィアがいない。それにはなにか事情があって……だからエナは、少し汚れているのだろう。


 絵里が貸した制服の上着は、子供が公園で遊んだ後の様に、少し泥が付いていて……子供っぽさなんて欠片もなかったエナが今だけは少し、子供に見えてしまう。


 それはとても儚い子供で、今にも泣いてしまいそうで、けどそれを堪えている、そんな子供だ。


 絵里はエナから顔を離し、今度はエナの顔が自分の首筋に来るように、優しく頭を動かしてあげる。


 そして、


「何があったの?」


 一言エナの頭を撫でながら絵里は言う。するとエナは、ぎゅっと腕に力を込めて


「どうすれば……いいのかな、絵里ちゃん」


 それは初めて耳にした、エナとは思えない程のとても弱々しい声。ただただ、何かに怯えているようであり……


「絵里ちゃん……助けて……お願い」


 少し声が枯れて今にも泣きそうな、弱くなったエナ。そんなエナに絵里は、少し息を詰まらせる。見ているだけで辛く、本当に痛々しい。


 だが、ちゃんと答えなければ。助けてと言われたのなら答えは1つしかない。


「うん、分かった。もう大丈夫だよ。私が助けるから。だからね、何をすればいい?」


 絵里は微笑みを浮かべて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


 1年程前からエナは私の話を聞いてくれ、救ってくれた。助けてくれた。そんな、そんな優しいエナをここで見放すなんてありえない。


「絵里ちゃん……私は今、弱いの。だから、力を、貸して」


 震える声でエナは、ネヒィアにも言っていた、力を貸して、その言葉を口にした。それに絵里は、


「力を貸すって、どうすればいいの?」


 否定とも肯定とも言わない、疑問を口にする。ここで肯定してしまえば、なにかいけない気がして……ふと、ネヒィアとエナの会話を思い出す。


 確かあの時、ネヒィアは……


 ――次は本当に、体が動かなくなるかもしれないんだよ?――


 悲しそうにそう言ったのだ。


 そして、その言葉に絵里は引っかかっていた。次は本当に……なら前に貸したのはいつなのか?いつ、ネヒィアはエナに力を貸した?


 何となく絵里は分かっている。だから、


「エナを手伝えばいい?それとも、違う意味?」


「……違う意味よ……私に力を頂戴(ちょうだい)。少しだけ、魂を貸して……」


 少し落ち着てエナは力を込めて言葉を発する。魂を貸してほしいと。


 けれど、そうしてしまえばダメなのだろう。あのネヒィアが断ったのだから……ネヒィアとの約束とやらを破ってしまうのだから……


 絵里にとって、その約束が何なのかは分からない。けど、きっと……


「約束を……破るの?」


 大事な約束のはずだ。絶対に破ってはダメな……


 だからエナは息を、()んで目を見開く。そして、腕に力をこめて


「知ってる……の?」


 驚き動揺してながら、怯えるように言葉を口にした。


 エナの表情は見えない。だがそれでもすぐに分かる。エナは今、唇を噛み必死で涙を流さないようにしているのだろう。


 だって、エナの嗚咽が絵里に痛いほど響いてきたのだから……けど、それでも、絵里は黙らず震える唇を動かす。


「うん。知ってるよ。けど、どんなのかは知らない。それでも、ネヒィアとの大事な約束なんでしょ?……だから……」


 そこで一旦、絵里は言葉に詰まってしまう。これを言ってもいいのだろうか?そう思うと、口が上手く動かせない。声が出ない。


 けど、けど……言わないと……


 そう葛藤(かっとう)する絵里の首筋に、優しくエナの顔が擦られる。とても優しく温かい、柔らかい感触に絵里は、目をつぶり深呼吸をしてから……ゆっくり目を開き……


「……ネヒィアは?……どこに、いるの?」


 掠れてギリギリ分かるぐらいの小さな声。それでもエナの耳には届いたらしく……


「どこにもいないの……どこを探しても、何をしても居場所が分からないの!ネヒィアが、いないの!」


 エナは泣きながら、掠れて、震える涙声で絵里に向けて必死になって声を出し、その後はただただ嗚咽を漏らし泣きじゃくる。


 そんなエナの温かい涙は、絵里の首筋、肩を伝って背中に流れ……それに絵里はゾッとした。背中を流れれば流れる程に冷たくなるその涙はまるで……


 ――もうネヒィアがこの世にはいない――


 そう言っている気がして……絵里はしばらく口を動かせなかった……その場所から動けなかった……

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