174.神から子へ
カイメイがお風呂から出てくる頃には、沢山のフレンチトーストが出来上がり、私とハクはつまみ食いをしていた。
「ありがとうございました」
「そんなかしこまらなくてもいいわ。ほら、食べましょう」
お姉ちゃんはお礼を聞き流してカイメイを座らせ、四人で仲良く食べ始める。
それから、甘くて美味しいフレンチトーストはみるみる数を減らしていき、気が付けば私が最後の一個を取り、なくなった。
「美味しかったぞ」
「はい。とても甘くて、お腹いっぱいです」
「それは良かったわ。少しのんびりしましょう」
お姉ちゃんの声に皆は、焚き火の周りで楽な姿勢になり休憩する。私も最後の一枚を食べ終わったので、後ろに寝転んで目を閉じる。
明日ぐらいには、あっちの世界に行けるはずだから、今日はゆっくり休憩しよう。
深呼吸をしながら森から聞こえてくる音だったり、焚き火のパチッと弾ける音だったりを、耳を澄ませて聞いていると、直感が囁いてきた。
なので私はばっと起き上がって、皆に言う。
「誰か来る」
その声に皆が私を見て、次いで私の視線の先を皆が見たその瞬間、
「直感というものは、怖いわね」
空間からぱっと、透き通った声の不思議な女性が姿を現す。そこにいるはずなのに、いないような、いまいちどこに視線を向けているのか分からない、そんな女性にお姉ちゃんは口を開く。
「あなたは……」
でも、そこまで言ってお姉ちゃんは少し表情を歪めてから言葉に詰まる。その理由はきっと、私とお姉ちゃんにしか分からない。
だって、絶対に知っているはずの女性なのに、頭の中に霧がかかったように記憶が、名前が、出てこないから。
そんな表情を歪めた私とお姉ちゃんに、不思議な女性は微笑みを浮かべて、
「私の名はノテーファ。よろしくね、エナ、ネヒィア、ハク、カイメイ」
一人ずつに視線を向けて、少し優しさがこもった声で言ってきた。
「ここには、なんの用?」
私は立ち上がって皆の前に立つと、ノテーファにそう問う。すると、ノテーファは洞窟の方を指さして言ってくる。
「あの穴を閉じに来たわ」
「それは、無理なお願いよ」
ノテーファの言葉に食い気味にお姉ちゃんはそう言って、私の隣に立ってくれる。
そしてハクとカイメイも立ち上がり、その場の空気がピリつきだす。
けれど、そんな事をまるで気にせずノテーファは言う。
「あの穴のせいで、この世界の魔力が漏れ出ているの。閉じないと、この世界は魔法が使えない世界になるのよ?」
「まだやりたい事がある。だから、無理」
私の返答を聞いたノテーファは、表情を変えることなくまた、口を開く。
「そう。そのやりたい事は、この世界の生き物たちに迷惑をかけてでも、する事なの?」
「そうだよ」
「残念ね」
私の返答に、ノテーファは残念そうな表情を浮かべる。でもそれは、私達にではなく、どこか遠くを見つめての表情で……
「笑うか、嫌がるかの二択。私はこの世界を、あなた達を見て、笑ってくれる事を信じている。あなた達に、知恵を授けるわ」
ノテーファがよく分からない事を言ったと同時、頭の中に何かが入って来るのを感じて、頭を触ってノテーファから視線を離した瞬間、音もなくノテーファは消えていた。
そして、私の頭の中にはあっちの世界についての記憶、そして新しい術式が優しく頭の中に流れて来た。
「お姉ちゃん、皆、大丈夫?」
私が皆を見ながらそう言うと、
「はい、私はなんとも……」
「我も問題ない」
「私も右に同じね。ネヒィアは大丈夫かしら?」
「うん。私も大丈夫だよ、お姉ちゃん」
私以外の三人の反応を見るに、記憶と術式が頭の中に流れてきたのは私だけらしい。
私は一度深呼吸をしてから、
「でも、ちょっと眠くなってきたかも。一緒に寝よ、お姉ちゃん」
「分かったわ」
そう言って、お姉ちゃんの返事に笑う。この流れてきた記憶と術式が何なのか、しっかりと確認するには、寝たふりをしながら、考えるのが一番。
「おやすみ、お姉ちゃん」
「ええ、おやすみ。ネヒィア」
私はお姉ちゃんと手を繋いで目を閉じ、頭の中にあるあっちの世界の記憶を覗いた。
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