156.神に願いを
視界が歪んで、体が軽くなる。そうして音がなくなって、ネヒィアから貰った宝石が青白く輝き、まるで私に甘えてくるように、私の手に優しくくっ付く。
その瞬間、抗うことの出来ない強烈な睡魔が襲いかかってきた。そのせいで、目の前が暗くなって、体の自由がなくなる。
呼吸すらもままならない。なのに苦しくないし……むしろ心地良い。ああ……もう、このまま……
「諦めるんですか?」
暗闇の中で、真剣なカイメイの声がする。
「このままあなたは、自分の願いもろくに叶えずに帰るんですか?」
……違う……でも……もう……
「ここにきて、また言い訳ですか?」
……そ、それは……
「助けてくれる人は、もう誰一人いませんよ?あなたは今、一人なんですから」
……一人って……知ってるよそれぐらい。でも、だから何?あんなに嫌って言ったのに、エナとネヒィアは私を押して……なら、もういいじゃん。私、もう帰るよ。このまま寝むれば、きっと帰れるから。
だからもう、寝かせてよ……
―――主様!―――
―――絵里ちゃん―――
暗闇の中で、今度は楽しそうなエナとネヒィアの声がこだまする。うるさい……うるさいよ……ずっと一緒にいるって……そう言ったのに、嘘つき。
―――ごめんね―――
……何が?何がごめんね?許さない……絶対に許さないから……こんなに寂しいのも、こんなに苦しいのも、こんなに怖いのも、全部エナとネヒィアのせいなんだから。
昔はこんなのへっちゃらだったのに。嫌じゃなかったのに……どうにか、自分を騙せたのに……エナとネヒィアに押された時、私は本当に怖かった。
好きな人ともう会えない事が、こんなに怖いなんて知らなかった。全部、全部エナとネヒィアのせいなんだから。
だから……
「……止めてよ」
涙を止めてよ……手を繋いでよ。抱きしめてよ!なんで……なんで?
「会いに来てよ……会いたいよ!……こんな別れ方ないでしょ!……エナ、ネヒィア……」
私いくらでも謝るよ。何でもするよ。だからお願い、もう一回会いたいよ……
絵里は何回も何回も手で涙を拭う。けれどその度、目からは止まることなく、大粒の涙が滝のように溢れ続ける。そして気が付けば、寂しさも苦しさも次第に、恐怖一色に変わっていく。
誰も私を助けてくれない。誰も私を見てくれない。誰一人、私の声が届かない。
「エナ……ネヒィア……」
怖い怖い怖い。ただただ怖い。このままだと本当に会えなくなる。どうにかしないと……でも、体が言うことを聞いてくれない。
どうにかしないと、いけないのに。どうにか……
そう絵里が焦る中、たった一言ネヒィアの言葉が頭の中で響く。
―――……助けて―――
その声を聞いた瞬間、まるで寝むりから覚めるように体が軽くなる。睡魔が焼け切れて、体に自由が戻ってくる。
そして、絵里は後ろを向いて、桜の写った空間の歪みに何度も口を開く。
「閉じろ閉じろ閉じろ!」
その声に、空間はゆっくりと閉じていく。けれど……明らかに間に合わない速度だった。
けれど、絵里は焦らなかった。どうしてかは分からない。でも、自分でも馬鹿らしくなるぐらいに、自信に溢れて、余裕が心を満たしている。
頭の中にぽつりと浮んだ言葉。言ってほしいって、そう願われた気がして、口からその言葉を零す。
「もう、大丈夫だよ。ありがとう」
どうしてそんな言葉が出てきたのか、どうしてそんな言葉が欲しかったのかは分からないけれど、空間は笑うように一瞬で閉じて、絵里は空間と空間の狭間に閉じ込められる。
そんな絵里に、
「本当に……すごいわね」
後ろから感心したようにそう言葉を囁かれた。
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