12.競走
「ネヒィア?」
「何?主様」
「ここは、どこなの?」
絵里がジト目でネヒィアを睨む。
今、絵里、ネヒィア、エナがいる場所は……平地。山は遠くの方にちらほら。木は1本もなく、空は澄み切った快晴。
地面は芝生に覆われているが、人が通る道なのか少しながら道らしきものはある。
「ここはね、王国リーヤから少し離れた、少し前まで王国ナタラって国があった場所だよ」
「王国リーヤ?ナタラ?」
「王国リーヤは小国で、永世中立国。王国ナタラは、戦争を少し前までしていて、木っ端微塵に滅んだ国よ」
エナがさらっとそんな説明を入れてくれるが、木っ端微塵に滅んだ。戦争で?……何したの?
「ナタラは、魔王を中心に落ちこぼれの悪魔を集めた国。出来て100年も持たずに魔王ごと、『七次元の悪魔』にバンされちゃったのよ」
「へー。『七次元の悪魔』って?」
「七色の色を司ってる悪魔。今の主様と1対7で戦っても負ける、弱い悪魔だよ」
エナとネヒィアの説明を、ふーんとかへーとか相槌を打ちながら聞くそんな中、ふと絵里は思い出す。
魔王は悪魔に殺された、と。で、その悪魔に私は勝てると。ふむ、魔王、魔王ね……
「ネヒィア。魔王ってどんな人?」
「魔王は皆、悪い人だよ。ナタラの国を治めてたナタラって魔王は、色んな種族を誘拐しては売って、お金稼いで、奴隷いっぱい作ってた」
なるほど。やっぱり想像通りの魔王だ。
昔、最初で最後の、百合ではないエロ漫画を見た時に出て来て、感動した魔王そのもの。
ずっと、会ってみたかった、会ってみたいと思っていた、物語の中だけの魔王が……ここにいたと。すごい!
「ねぇ、絵里ちゃん。どうして魔王が人だって知ってたの?」
「えっ、あっ、いやー、何となくだよ、何となく」
「ふーん、そう。それよりも、早く行きましょう」
少し妄想が変な所にいっていた絵里だがパッと、エナにより現実に引き戻される。
それから絵里は、気を取り直すようにしてちょっとだけ早口で、言う。
「エナ、さっきウリ坊に使った『解放』って魔法教えてよ」
「別にいいけど……絵里ちゃん、加減してね?」
「う、うん。頑張ってみるよ」
「主様、一緒にしよ。たぶん、大変な事になるから……」
ネヒィアが自信なさげな絵里を心配する様に言葉を発して、手を出してくれる。それを絵里は握り
「この魔法は、本来の力を一時的に解放する魔法なの。強く踏み込んで力を溜める。そして、息を吐きながら……『解放』」
エナが魔法の説明をサクっとして、お手本を見せてくれる。ウリ坊の時よりも数倍力速く、地面には大きな亀裂が走って……エナが一瞬で見えなくなる。
それを見て、絵里も見よう見まねで、
「よし。ネヒィア、行くよ」
「主様。そっとでいいよ?あんまり力を入れすぎると……」
「『解放』」
絵里は魔法を唱えて、踏み込む。その瞬間、地面にえげつない程の亀裂が走り……地面が砕ける。だが、そんな事気にもせずに、絵里は地を蹴った。
「あ、主様?止まって、やり過ぎ……」
「えっ?絵里ちゃん?って、ちょ……」
たった一歩でエナを追い越し、音速を超えて進んでいく。地面に足を付けることなく、ネヒィアと一緒に、空を駆ける。
そんな中、ネヒィアは口を動かす事なく
「主様。このままずっと真っ直ぐ行って、川が見えたら止まってね?」
「分かっ……ねぇ、止まるのってどうするの?」
「えーと、なら、私が止めるからこのままでいいよ。主様」
絵里が今更ながらにそんな事を言うが、ネヒィアはそれ程慌てずに返事をして、絵里の手を握り込む。
それから20秒もしない内に川が見えてきた。綺麗な水が流れており、川幅からしておそらくは、中流だろう。そして、魚が泳いでいる。
あの魚は美味しいのだろうか、なんて絵里が思っていると
「『穏速』」
ネヒィアの魔法が聞こえて、段々と2人の速度が落ち、川の少し手前で止まる。
そして、遅れる事約10秒程。エナが到着した。
「絵里ちゃん、速いすぎ……けど、もう少しね」
「主様、あそこ。あれが、王国リーヤ」
ネヒィアが指を指した先には、グレー色の岩……いや、壁だろう。そしてその奥、壁の向こう側には、多くの建物と、お城が見えた。
「へー、大きいね」
「そう?結構小さい方の国よ?日本の方が何千か何万倍かは大きいと思うけど」
「まあ、そうだけど、あんなに大きいお城は見た事がないから……」
「主様。あのお城、この世界の国の中で1番小さいよ?」
なんか色々、エナとネヒィアは言っているが、それはさて置き……新しく覚えた物は、なんでもかんでもやってみたくなるものである。
なんだって、初めてやって出来たら嬉しいものだ。だから……絵里は地面を踏み込んで、気を取り直す様に
「ネヒィア、エナ。あそこまで競走しよ。私に勝ったら、頭撫でてあげる」
絵里のそんな一言に、色々と言っていたエナとネヒィアは目の色を変えて静かになり……
「解放」
絵里は魔法を唱えて地を蹴るが……それよりも先にエナとネヒィアは動き出していて……地面が悲鳴をあげて砕け散ると同時に、1人はスっと消え、もう1人は空中を蹴り、既に駆け出していた。
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