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ケダモノの知性

 午前九時過ぎ。

 昨夜、それぞれ個室の宿を借りて、朝に入り口前で集合と決めた後に別れた一行。


「ごめーん。私が最後かー……」


 最後の一人であるサチを迎え、暫しの談笑。

 その後シストラムを先頭に、妖精族二人を肩に乗せてゲノーモス火山へと向かう。


 都市である晴天ヶ原はれまがはら周辺は静かな緑で溢れており、穏やかな地平線を眺めながらすれ違う旅人達に手を振る。

 目的地である火山は既に薄っすらと見えており、道もさほど険しい訳では無さそうだ。

 と言うのも、火山に住む小人族は戦いや武器の扱いは得手では無く、あくまで作る専門。

 魔物が頻繁に出てきては困る為、都市の近くに集落を作ったのだろう。



 ……そして昼頃、一行は道の途中にある休憩所で足を休めていた。


「現代人が……歩く距離じゃ……無い……」

「本当……疲れたねぇ……」

「貧弱だにゃあ」


 ——これが種族の違いって奴か……。


 休憩所。

 夜を過ごす為の少し安っぽい宿があり、集まった人達による食料等の簡単なフリーマーケット会場が出来ている。

 元の世界の言葉では、サービスエリアや道の駅で通じるだろう。

 ここに集まる人々は行商人や配達員が休んでおり、そういった足を使う仕事は獣人族が就く事が多い様だ。


「取り敢えず、ここで休憩にゃ……」


 そんな感じで個人行動になり、俺は妖精族の二人を肩に乗せたままに地面に腰を下ろして休んでいた。


「ふぃー……こうも乗り物に慣れてると、歩くのも大変だな……」

「飢人族の集落だと……乗り物は一杯だけど……」

「資材が足りない……多種族国家だから」

「飢人族……って、俺らの種族名だっけか。まあ、多種族の技術全部再現ってのはな……資材も有限だろうし、当たり前か……」


 ——飢人族か。異世界人からは、飢えた人々に見えたのかねぇ……。


 完全無欠や不老不死ですらケチつける人類なのだから、満たされている筈は無い。

 全能のパラドクスを問うた人間は、さぞ面倒臭い奴なんだろうな。


「その分……多種族の技術が……面白い……」

「自らの進化に……限界を感じて……技術の進化……優先した飢人族……特にね」

「それ、褒めてくれてんのかねぇ……」


 皮肉なのだろうかと苦笑いする。

 卑屈な現代的思考に自己嫌悪。そんな悪循環……対した文明でも無いだろうと。


「勿論、褒めてる……進化するよりさせる方が……時間効率が段違い」

「まあ、させる方に特化しすぎ……でも、その分多方面に秀でて、限界を感じれば……別のやり方で。良い進化の仕方だと思う……」

「あー……。そこまで言われると、少し照れるな……」


 拾った小石を弄びながら顔を上げると、見知らぬ少女とシストラムが話し合っていた。

 背中に隼のような黒の翼を携えており、一目で獣人族なのだろうと分かる見た目だ。

 ぼけーっとしばらく眺めていると少女達がこちらに顔を向け、指差した後に近づいて来る。


「なーにうちの友達を視姦してるにゃ」


 ——してない……断じてしてない……ぞ。


「駄目だこりゃ、完全に目がハートになってるぜ……」

「なってねえよ⁉︎ 大体、露出度高いの着てる方も悪いだろ⁉︎」

「はっはー……そうとも言うー。ま、あたしの華奢な体を舐め回しても金は取らないから安心しな!」


 初手から変な誤解が無かったのは助かるのだが、別の問題が出た様だ……。

 自分とは性に合わない相手……詰まる所、苦手なのである。

 俗に言う、陽キャ思考……みたいな。


「ま、シスちゃんのお仲間ならあたしもおんなじ様なもの。これからよろしくねっ!」


 ——普通ぅー……に良い奴。苦手なんだよなぁ……。


「まず、名乗るのが先だにゃ……」

「お、それもそうかー。さっすがシスちゃん」



「あたしはネール。獣人族で、さすらいの宅配人さ! ……ちなみに、今のさすらいはかっこいいから付けただけー」



「えっと、サイです。はい……」

「君がサイ君ねー。サチちゃんとはさっき会ったからー……これで皆んなと出会えたね!」


 わざわざ自分から誰かに出会いに行くと言う魂胆は全く理解できないが、別に悪い奴では無い事ぐらいは心得ている。

 ただ、それとこれとは別問題。苦手な物は理解だけして、自分からは離すに限る。


 ……そんな思惑は知らぬまま、ネールは『こっちおいでー!』と大きく手を振り、それに気付いたサチさんは駆け足で向かって来る。


 そして、来るや否や女子トークを始める三人。

 まったく居場所の無い会話に虚無感を覚えつつ、なんとなく……なんとなく小声でアーとルヴに話しかける。


「この人……ネールさん? は、元の世界に帰りたい訳じゃ無いのか?」

「全然……むしろ、第二の人生……満喫してる?」

「そもそも……獣人族は……帰りたがる人……少ないし」


 ただでさえ、帰ろうとする人が少ないこの世界で……数ある種族の中で、獣人族に限定する。つまりは……?


「よっぽどなのか? 彼女らの元居た世界……」

「うん……詳しくは、本人達に……」

「えぇー。つってもな……」


 そんな聞きづらい事を直接とか……好かれる努力してない頃の俺ですら躊躇うぞ……。

 とは言え、何故シストラムがそんな世界に帰りたがっているのか……気にならないと言うのは嘘になる。


 ——いや、帰りたがっているって言うよりは、帰らなければならない理由がある……って事なのかねぇ……。


 自分も似た様なものだと思い、軽くため息をつく。


「……ん? どったの、サイ君?」

「げ……」

「げって何⁉︎」

「いや……あー……」


 ——どうでもいい事気付きやがって……。


 これだから苦手なんだ……と頭を掻き、適当に話を流そうとする。

 しかし、そう思ったのはこの中で俺だけであった。


「獣人族の世界……知りたいって」

「知性ある人間だから……知りたいって」

「……」


 ——まあ、異種族の価値観なんてそんなもんだよな。


 思えば、悪意も善意も言の葉で区別しなかった彼らに、気を使うなんて期待する方が悪いのではなかろうか?

 過度な期待は人を失望させる。つまり、俺は彼らにそんな感情を抱いた。……軽くな。


「何その皮肉……まあ、あたしは良いと思うけど?」

「……まあ、ついでにうちの帰る理由でも話すかにゃ」

「い、良いのか?」

「お前が聞きたいって言ったんだにゃ……」


 好奇心に負け、悪いことをした。

 人に気を使うのも難しいものだ……。


「……待て、知性のくだりは言ってない」

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