閑話 古事記
寝室で一人、布団の上で読みふける。
小さな灯りが淡く光り、手にはヒルコ様から貰ったこの世界における建国神話が綴られた一冊。
それは、幼少の頃永遠と聞かされてきた物語の続き。
いや……決して語られなかった、彼のサイドストーリーといった所か。
——まあ、神話なんて口頭で紆余曲折した辻褄あわせのような物だが……。
そんな気持ちで読み始める。
ただの気まぐれなのだから、少しずつ読んでいけばいいだろう。
どうせ役に立つ物では無いのだ。
そんな気持ちで……。
遥か昔、その子供は神に捨てられた。
憂いも知らぬ幼き彼がたどり着いたのは、人も居ない廃れた場所。
後に、ある場所では常世の国と呼ばれた異世界。
荒廃し、文明も無いこの世界で、子は彷徨い続けた。
……しばらくして、子は二人の人間に出会う。
一人は耳の長い女。
一人は背の小さい男。
話を聞くと、二人共突然この世界にやって来たのだと言う。
二人はよく喧嘩をした。
時に悲しみ、時に憂い……子はそんな人間の一生を眺めていた。
そんな中でも時間は流れ、演者は気付けば増えていった。
彼らは、獣。
彼らは、竜。
彼らは……飢えた人々。
彼らは建国を計画し、人々は何も無い世界で発展していく。
そして、数ある異世界の文明を混ぜ合わせ、混沌の国は成立した。
……それでも尚、その子は眺め続けていた。
子は傍観主義者だったのだ。
例え、捨てられていようとも……。
ある日、二人が息絶えると言う話を聞き、最期くらい……と顔を出した。
二人は仲睦まじく同じ寝床で横たわっていた。
子は問いかける。
「何故人は嫌い合い、愛し合うのか」
「「そう言うものだから」」
子は再度問う。
「何故人は蹴落とし合い、助け合うのか」
「「そう言うものだから」」
話にならない……と子はその場を去ろうとした。
ふと、彼女は零した。
「でも、どちらかしか出来ない人がいる……」
彼が応える。
「だから、俺達だけでも愛し合う。だから、俺達だけでも助け合う。目の前にいる人だけでも……」
「「嫌い合い、蹴落とし合うだけじゃ、悲しいだけだから」」
子は立ち去る。
その時の顔は、酷く満足そうな顔だったとか……。