日出処の天子
案外、中に入るのも彼に会うのも簡単なものだった。
……と言うのも、さほど中が複雑な訳ではなく、正面から階段を登った先に長い廊下。
両脇に松明と各種族のシンボル……まあ、国旗のような物が壁に立て掛けられ、その奥に大きな扉。それが最終地点。
扉の先はやけに煌びやかなものだった。
一直線で向かったその部屋は広々とし、中央を横切る様に玉座のシルエットだけ映るカーテンの様な物がかけられている。
薄い布の前、その両脇には腹に刺青を入れた尻尾付きの侍女が佇んでおり、ぱっと見で獣人族なのだろうかと思考する。
——いや、爬虫類っぽいし竜人族かな……。
シストラムが先導し、膝をつけたタイミングで同じ様に跪く。
奥の玉座はこちらを向いている訳では無い様で、人影が玉座から立ち上がり、こちらへ歩いて来る音が聞こえてきた。
盗み見る様に見えたシルエットは、子供のぐらいの大きさの人影だ。そんな彼は手始めの言葉を掛ける。
「初めまして諸君。僕の名はヒルコ。この世界では現人神と言われている。簡単に言えば、この世界で最も偉い存在という奴だ……」
そんな名乗りを聞いたサイは、一言ぼやく。
「はぁ……現人神様って言葉通りかよ……」
「おや、嫌われてしまったかな?」
「……ああ、神様は嫌いだよ」
聞かれたという後悔は二の次だ。
理不尽な世界。そんな世界を作ってはほったらかしたアホ共。
神の加護も、今となっては人の力だ。技術とも言う。
「えっと……取り敢えず、失礼だから謝った方が……」
「あ、ああ……確かにそうだ。申し訳ない」
好かれる努力をしようと決めた異世界生活……早くもボロが出てきた様で。
思った事に虚飾を加えて口にする事をしなかった元の世界では、自分にとってこれが通常運転だったのだ。
しかし、だからと言って許されないのが社会である。
ヒルコと名乗った彼の顔は見えない為、何とも言えないが……侍女の顔は嫌でもよく見える。
約二名から人を殺しそうな目を向けられ、何とか恐怖の言葉を繰り出した。
「ははっ……ごめんて……」
どうして平和を望まないのか。俺は望んでいるつもりだぞ。
「連れの不始末。申し訳ないにゃ、現人神様……」
「いいさ。長く生きてりゃ、色々あるし……」
これは悪い事をした……そんな思考が巡った。
しかし、次の瞬間にはその思考がプツリと切れていた。
「そもそも、この世界に呼んだの僕だしね」
唖然とした。そして、徐々にイラついて来た。
文句は遅れてやってきた為、何とか口にせずに済んだ様だ。
行き場の無い怒りも、死を免れたと思えば些か楽である。
「ふむ……正直、怒られるかと思ったんだけど」
「俺が一番驚いてるよ……」
神様とやらはこういう所がある。重々に承知していた部分はあれど、実際に被害者になるとどうにもな……。
——本当、自己中共め……。
っと……いけない、いけない。心に留めておくのは良い事だが、これじゃいつか口に出す。
「ま、怒られない事に越した事はないけどね。人の子達にもあるように、僕にも錯綜した思惑があっての事。勿論、最終的には元の世界に帰すつもりだ。その時は、君の仲間も希望なら帰してあげよう」
それで帰れないとなれば、本気でキレてたかも知れない。
しかし、そうなればある種、帰る保証は神様印付きという事だ。それに関しては良かった。どう転んでも、不幸中の幸いに変わりはないがな。
シストラムにとって言えば、都合の良い話が転がって来た所。これと言って文句もあるまい。
「うんうん。それじゃ、手始めに一つ……君達に、神の試練とやらを与えようか」
サイさんは筋金入りの神様嫌いですが、有神論者です。