焠
図らずとも、ユーロスがやって来たおかげで二対一の構図。
かなり楽になってはいるが、戦力は五分五分だ。
——単身で挑んだにも関わらず、小賢しい作戦は失敗してあげく助けられるとは……。俺はもう、何も言えん……。
「何者か知らないけど、今まで良くやったわねッ……‼︎」
ユーロスの攻撃を容易く受け、反撃の姿勢を取る名も知らぬ反英雄。
しかし、ユーロスの攻撃は打撃技。奴の装甲を貫ける程の鋭さは無く、勝つ為には刀を持っているサイに全てが掛かっている事を、彼自身理解はしていた。
——でもどうする? 一度刃を通してみたものの、あの首は斬れちゃいない。もう一度同じ様に斬れたとしても、切断までいけるかどうか……。
足りない酸素を食い潰す。
ユーロスが来て楽になった分のリソースを使い、その思考を重ねた。
——斬り方? 切れ味? 力……技術? 俺は何をすべきだ⁉︎ 考えろッ……‼︎
ユーロスの馬鹿力だったら……いや、刀の扱いなんて知らねぇだろうし……。
「ぐっ……」
——何か……俺に出来ることは何があるッ⁉︎
持っている物……刀、折れた剣鉈。
後は魔術、炎と水……。
「ちょっと! このままじゃジリ貧よ⁉︎ どうしたら倒れんのよ、この堅物……⁉︎」
「…………なあ、ユーロスさんよ。俺ってば、阿呆なのかもしれん……」
どうしてこんな思考回路をしているのか……正直、自分に狂気を感じたね。
しかして他に択も思いつかない。つまり、やるしかないって奴だ。
本当、嫌になる……。
「はぁ⁉︎ どういう……?」
「なんとかするしかねえって話だ。ちょいと、荷物役頼んだぜ……」
ひょいと刀をユーロスに放り投げ、折れた剣鉈を構える。
「馬ッ鹿……何して……‼︎」
実に馬鹿馬鹿しい。
最期の言葉も考えちゃいない。その癖、死に向かった自分は後でお仕置きだ。
取り敢えず、今は逆境に落ちた人間の底力を見せてやるしかない……。
「俺の扱える魔術の火力じゃ弱っちいからよ……そいつの刀身を燃やしててくれ……。頼むぜ、おいッ!」
——武器は折れた剣鉈一本。そりゃ死にたい訳じゃねえが……案外、燃えるってもんだ。
「折れた剣でボスと耐久戦とか……俺得ッ‼︎」
人生なんてハードモードでなんぼだ。
問題は、やり直しが効かない一発勝負。ある種、死んだ方が楽かもな。
——この武器が頼りになる訳じゃ無い……。相手の剣を極限まで近づけて、最低限の動きで躱す。それでも間に合わない攻撃に対して、こいつを合わせてやれば良い。
「いや、それが安定して出来てりゃ最初っからやってるっての……!」
一つ……そして、二つ。数ミリ違えば死を迎える境。
ただでさえ短い刃が半分になっているのだ。合わせる自信だって無い。
大きな傷さえ無ければ良い。当たらない事が重要では無く、致命傷だけを避ける。
三つ……四つと、次々に繰り出される剣撃。
やがて、十七程太刀を浴びた後……横からユーロスの援護が入る。
小さな傷にはもう痛みを感じない。恐怖で震える心臓の音が煩わしいのだ。
「あーあ……。ボロボロになってまぁ……」
「うっせ……」
ユーロスから奪い取る様に刀を取り上げ、ゆらめく炎を纏う刀身に見惚れながら剣鉈をしまう。
巡り合わせもあるもんだ。『もうちょい、力を貸してくれ……』と、足元で山の形に放置された魔術書を拾い上げる。
赤熱する刀身を確認し、無から出でたるはただの水。
炎の剣? ご冗談。
「縛りプレイをクリアしたご褒美ってな……。魔王との戦いで授けられる黄金の剣……デウス・エクス・マキナとは言えねぇが、大層な飾りがある訳でも無し、丁度良い……」
熱を帯びた刀身を急激に冷却、立ち込める水蒸気と滴る水滴。
焠ぐ刀を強く握りしめ、一生慣れない言葉を口にした。
「……手ェ貸してくれ。もう、俺の手札はあんたしかいねえわ……」
「ほんっと、遅すぎだけどね……。喜んで、雇い主さんっ……」




