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ようやく幕引きの鐘が鳴る

 昼下がり、穢れた荒野に彷徨う黒が一人。

 彼の行く手に佇むのは、ただの捻くれた少年だった。

 少女は二人を想いながら、見知らぬ神に無事を祈る。


 結局、彼は仲間を頼る事なく、一人で事を済ませる気だ。

 はたして、今を生きる彼らに死人が願うなど愚かだっただろうか。

 無粋かもしれないが……友情を知らぬ彼に、お節介を焼きたい気持ちは十二分にある。

 しかし、私にはその手段がない。せめて彼らには、別れる前に心を開いて欲しいのだ。

 今まで過ごした時間。これから過ごす時間……どれだけ短い物であろうと、その美しさに触れて欲しいのに……。


 しかし、彼はその道を善しとし、それを悪だと断じる事はない。それに気付く仲間もいないと言って……。

 決意を胸にした少年に、何も出来ない私が掛けた言葉は彼に届いただろうか……。


「ああ、始まる……」 





 さて、ここが正念場だ。

 死んでしまうなんて事を本気で思ったのはこれが初めてだろう。もし、昔にそんな言葉を言っていたのなら……そんな自分は殴ってやる。

 あの時とは全く比較にならない……想像なんて出来なかった恐怖が、次々に押し寄せてくる。

 刀を握る感触、魔術を扱う感覚。剣鉈を素早く抜く動作を……一つ、また一つと確認しながら歩を進める。


「い、良いですか? 絶ッ対に死なないでくださいね⁉︎ 彼に殺しを増やしたくないのもそうですが、今を生きる君が、既に死んでいる私の為に死ぬとなると……すっごく引き摺るんですからね⁉︎」

「腹括ってるんだから、気の抜ける事言うんじゃ無いよ……」

「それです! 死ぬ覚悟とか要らないですから! 現状、この世界にそれほど実害がある訳じゃ無いですし、死ぬ前に逃げて下さいよ⁉︎」


 確かに、命を掛けてまでそれを成す価値があるものかと……自分に問いかけた事は何度もある。

 彼らは異世界の古代人で既に死んでいて、元の世界に帰るという自分に関係は無いし、今生きている人類が関わるものでも無いのだろう。

 これは、終わった物語。今更手を加える話でもないのかも知れない。


「死ぬ前に逃げる……それを許す相手かぁ……?」

「むぅ……そ、そうなんですけどぉ……」


 それでも、関係無い事が人助けの阻害にはならない。

 多くの善意は大きなお世話だ。相手の為では無く、自分の為だ。

 世の中の全てが誰かの都合で出来ている。悪意も善意も、それは変わらない。


「なに、安心しろ。ここまで来たら、やらなくて良いと言われてもやるさ。これは俺の意地だ。あんたの為だけじゃねぇ」


 気は使わなくて良い。そう言ったつもりだったが……非常に言い辛そうにしながら、彼女はまだ言葉を紡ぐ。


「正直、私自身どうして欲しいのか分かりません……。ですが、貴方に死んで欲しく無いと言う気持ちは、強く……強く心に根付いているんですからねッ‼︎」


 伝えたい想いを叫ぶ彼女に少し笑顔を見せた後、歩を進めて漆黒の前に立つ。

 人間、感情が渦巻く時は言葉に表し切れない物だ。それでも、彼女の気持ちは理解しているつもりだ。


 ——分かってる。俺だって、一丁前にも死ねない理由があるんだ。それと同じ様に、今逃げられない……逃げたく無い理由もあるだけだ。


 抜いた刀の先を、相手の首筋に構える。

 どうせ、後ろから不意に斬りにかかっても勘づかれるんだろうさ。それぐらい、俺はあんたの事を信用してる。

 後方から先手で斬りかかっても、カウンターでやられちゃ話にならねえ。だからこそ、打ち合う必要がある。

 取り敢えず、始めようか。避けれる間合いで刃先でも当てれば、敵として認識してくれるだろう。


「よう、オンボロ兵器。……愛しの女は、待たせるもんじゃねえぜ?」

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