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強さを求めて

 時はアーレヴァとゲノーモス火山へと向かう旅の最中へと遡る。

 チャンちゃんが横に居る事は目を瞑り、今日も今日とて、杠葉サイは人知れず剣を振っていた。


「そういえば、魔術の進捗は順調なんですか? こうして君の努力を眺めているのは退屈しませんが、適度な休みは必要ですよ」

「水がなんとかって感じだよ。火も出来てきた所だが……別に見てくれなくて良いんだぞ。というか、基本的には見られてくないんだがな……」

「君の信条は否定しませんが……かといって、そのまま一人で居させる私でもありませんよ。……ああ、これは私の信条と言えるんですかね?」


 ——知らねーよ……と言いたい所だが、まあ言っても仕方ないか……。


 そもそも、幽霊なら良いかと判断したのが間違いだったかな……。こうして認められてしまうと、甘えてしまう自分がいる……。

 少なくとも今は、鞘に収めた刀を再び引き抜こうとは思えなかった。

 ……が、今はそれで良かった様だ。


「ハロー……元気?」


 寝ていた筈のユーロスが、後ろから話しかけてきたのだ。


「……どうだかな。眠れないから夜風に当たってた」

「そっかそっか……。私も、似た様な感じかな」


 隣に腰掛けたユーロスを一瞥し、目線を逸らす様に空へ向ける。

 それに釣られたのかユーロスも空を眺め始め、昔を懐かしむ様に話し始めた。


「……あんたはささっと帰りたいだろうし、今回の件が上手くいきそうで嬉しいって感じ?」

「当然。……俺はともかく、お前はどうするんだ? 結局、残るつもりなのか?」

「いや、私も帰ろうと思って……。親父に早死にされたら困るしねー」


 どことなく嬉しそうなユーロス。どうやら、何か踏ん切りがついたらしい。

 ……そんな会話をする中、チャンちゃんは静かに笑いながら佇んでいた。

 変に静かな彼女に困惑しつつも、ユーロスとの会話は続く。


「親父、強いのか?」

「文字通り、世界最強ね。私が勝つまで、死なれちゃ困るって話よ。その為に、強くならなきゃねー……」

「強さ……。強さねえ……」


 どんな縁かは知らないが、今現在求めるものはお互い同じらしい。

 人類を滅ぼした奴と戦うんだ。世界一の強さ。そりゃもう、喉から手が出る程欲しいね。


「……ああ、そうだな。だから偶には、こういうのも良いかも知れん」


 そう言って立ち上がり、刀を抜く。剣の先を彼女に向けて。


「模擬戦……って事でどうだ? どうせ刃を腕に通そうが、簡単には切れないんだろ? それとも、峰打ちの方が良いか?」

「私の相手になろうっての? 手加減、出来ないわよ?」

「でしょうね……。ま、俺も規格外相手の戦闘経験が欲しかった所だ。やってやらぁッ……‼︎」






 戦闘時間、ものの数分。勝者ユーロス。


「……聞いてない」

「不服そうね……」


 ——竜は火を吹く生き物だってか? 人は火を吹かねえよ……。


「つーか死にかけたわ、ほぼ死んだわ! 丸焦げになってたら、ちゃんと帰幽奉告からしてくれたんだろうな⁉︎」

「分かんないけど……。言い出したのはあんたでしょ……?」


 ——戦闘民族に戦いを挑むのは間違いだったか……? いや、こっちも切るつもりだった訳だし文句言えんなぁ……。


 ただ一つ分かった事としては、真正面から立ち向かって勝てる要素は無い。当然だけども……。

 不意打ちで決める。そして、長引かせてもジリ貧なだけだ。守りに専念すれば防げなくもなかったけど、結局押し負ける。


「ま、ちょっと大人気なかったわよ……。ちょーっと疲れて眠くなったし、また明日ね。あんたも、程々にしなさいよー?」


 ひらひらと手を振りながら去っていく後ろ姿。その背中を眺めながら、少しの違和感を覚える。


「はは、まさかな……」

「お疲れ様ですー。バレてたかもですねー」


 ——言葉にするな。しなかったのに……。


 刃を静かに納め、文句を言うがてら振り向く。

 しかし、その顔を見ればその気も失せる。


「……それより、随分と静かだったな?」

「私、気遣いの出来る女ですので……。元の世界に帰ればもう会えない仲なんですから、もう少し大事な時間だと自覚すべきですよ……」


 ——余計なお世話を……。いや、決して間違いでは無いんだがな……。


「皆さんのいる場所では黙って居ますから。もう少し皆さんに寄り添ってあげて下さい。きっとあなたなら出来ますから……」

「まあ、考えておくよ……」


 そんな笑顔を向けられても、見合う言葉は見つからない。

 苦し紛れに滲み出た言葉を背中で返しながら、宿へと戻っていったのだ。

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