酔い……?
見慣れない建築物が右往左往した都市。
この都市の名は、晴天ヶ原……と、言うらしい。
異種族同士の関係性というのは生存競争の様な物では無く、ある程度共存して暮らせている様だ。
勿論、問題がゼロで無い事は必然である。なんやかんやでも必死に今を生きている所は、元の世界とさして変わらない様だ。
ま、帰るのが目的なのだから、この世界の事情など関係ないだろう。
さて、散々の一般的愚痴を聞かされた後、元の世界に帰りたい者同士でパーティ行動する様になった三人と、おまけで付いてきている妖精族の二人。
一先ずは現人神様とやらに会う為、一行は都市の中心部にある宮殿へと向かっていた。
「酔いは醒めてきました?」
「ん……まあ、大丈夫にゃ」
時は夕暮れ。水をがぶ飲みしたシストラムは、むしろそれを理由に体調が悪そうな具合だ。
そんなシストラムをサチさんが肩を貸して歩く中、俺は両肩に乗せた妖精族二人と話していた。
「えーっと……二人の世界の技術がこうやって会話を成立させてるんだったよな?」
「うん……説明すると、難しいけど」
「自分と相手の思い浮かべている物を共有させて……聴覚として認識させる……みたいな?」
分からん……が、まあ技術なんて理解せずとも扱える物。エレベーターなんぞボタンを押すだけである。
えーと、確か赤い髪がアーで青い髪がルヴだったっけ。
「あー……なんか二人、失礼だろうけど敬称つけるの忘れるな……」
「別に……無くて良いよ?」
「いやまあ、多少なりともこっちの世界では、好かれる努力をしようと思いまして……まあ、そう言ってくれんなら付けなくて良いか……」
——うーむ……イマイチ勝手が分からん。
自分がどれだけ楽に生きて来たかが分かるってもんだ。相手の気持ち、なんて変数を気にし始めたらキリが無い。
故に、俺はそれを諦めた。大概は嫌な顔されて終わったけども……。
「そもそも……僕らはそう言うの疎いし……」
「ん、そうなのか?」
「悪口とか、褒め言葉とか……わざわざそんな区別付けなかったから……」
「意思だけ伝われば良かった……言葉自体に意味は持たなかったから」
「ほう……」
なるほど、異世界の常識という奴だ。
そんな世界なら、言葉の裏とかも読まなくても良いのだろうか……?
「こっちの世界に来て……そういうのもあるって……知った」
「だから僕たち……言葉選びが大変」
「あー、だからそんな感じの喋り方なのか」
——世界が違えば、色々な悩みがあるんだなぁ。
人間、悩みの種は付き物だ。金銭面や将来の話、客観視の自分や人間関係……それこそ、恋愛の話で言えば特にな。
……そんな思考が頭をよぎったからか、なんとなく気になった疑問を口にする。
「ちなみにさ、元の世界ってどんな感じだったんだ?」
自分という人間は、生まれた世界がどうしても好きになれなかった。
幸せそうに生きている人々が、羨ましいと思うくらいには……。
「戦争とかは……この世界の種族の中で……唯一、無かった世界。……よく褒められる」
「言語の違いが……無いからって言われてる」
——言語の違いねぇ……。
自分が生まれた世界の総意。『争いは無くならないのだ』と、半ば諦めた表情で言う者が殆どだ。
それは、残された歴史を紐解けば誰でもその答えに辿り着く。
多くの人間はそれをさも自分の経験則のように、くたびれた顔で吐き捨てる。
戦争が無かった理由は言語の違いが無いからと言ったが、きっと彼らの人間性にも由来する物だろう。
そうで無ければ、戦争を一つも起こさないという偉業を為せないはずだ。
「ちょっと……怖い顔してる?」
「ん……ああ、悪いな。なんでも無い」
——変にネガティブになっても駄目だよなぁ……。
結局、根っこは変わらなかった。
例え世界がひっくり返っても、そんな人間だった様だ。俺は……。
「それじゃ、サイの世界は……どんな感じだった?」
「……素晴らしい世界だよ。きっかけがあれば、全てを許容できる程度には……」
「きっかけ……?」
「おう。……っと、この話はまた後かな」
少し前の方で、手を振るサチさんが目に入る。その横で、四肢を地につける獣人の姿は目に入らなかった事にしよう。
そんな彼女達の後ろにある立派な建物を見て、目的地に着いたのだろうと察した。
「こっちですー!」
「はいよー! ちょっと揺れるぞー……」
「全然大丈夫!」
「万事、休す……」
「え? どっち……?」
戸惑いながらも、まあ大丈夫だろう……と小走りでサチさんの元へ向かう。
……辿り着いた先で乗り物酔いをしたルヴを介抱した後、中へと向かった。