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バレないイカサマという装飾

 火山の民には喧騒が走った。

 この前に小神族の長が来たかと思えば、お次はその父親ときた。

 一体何が起こっているんだと真実や虚偽の噂が人伝に流れる中、本人達は気にせずその歩みを止めない。


 ——本当に早かった……。さながらスパルタの様だったが……倒れる前には休ませてくれたな……。


「いやー……まさか直接お見えになるとは……。伝言でも持ってきてくれりゃ、すっ飛んで行ったのに……こんな何も無い家で申し訳ねぇや……」

「構いやしない。異種族の文化交流は心得ているつもりだ。それに、邪魔が入らなければ問題は無いだろう?」


 ——それで……これが、両親への挨拶とやらか……。


 イメージにある正座で向かい合う……といった感じでは無いが、空気は修羅場とやらに相違無いだろう……。

 俺だって先に経験するものかも知れない。少し勉強しておこう。

 珍しく礼儀正しそうにしているシーアを、面白半分に見つめるサイ。流石に家の中に入るのも野暮なので、ほら穴の入り口にて覗き込んでいる。


「で、どこまでやったんだ?」

「「ぶほっ……⁉︎」」


 ——爺さん……ノリが若ぇよ……。


「何もやって無えよッ! いきなりぶっ込んで来るか普通⁉︎ まだ付き合いたてだし……!」

「そうだ! 付き合いたてなのだから……」


「「あ……」」


 暫し時間が止まり、横目に合う視線を交わし合った後、さくらんぼの顔二つが萎んだ様に腰を下ろす。

 そんな姿を『へー……付き合い始めなんだー』なんて言いたそうな顔で、ニヤニヤとしているアーレヴァ。

 まるで子供の悪戯の様に、大人が持つ意地の悪さを最大限生かした徹底弄りを繰り広げる。


 ——これで何を学べば良いのだろう……。


 下手に強く出る事が出来ないシーアと、どうにも勝手が掴めないエルス。

 一方的に話すアーレヴァも、どこか楽しそうだった。


 人と話すのに正解なんて無いに等しいが、それでもよくはやったと思う。

 その後もおもちゃの様に弄ばれた二人を、アーレヴァは満足そうに笑って見やる。

 二人の目にじっくりと時間を掛けて目を合わせ、小さく『良し』と言って立ち上がった。


「いやはや、結構結構。何か零さんかと心配だったが、大丈夫そうだ……」


 立ち上がった際に横に避け、隠していた物を曝け出す様に移動する。

 アーレヴァの後ろから姿を現したのは、ゆっくりと回転する藍色の魔法陣。

 徐々に崩壊し始めたそれは、サラサラと空気の中へと溶けていく。やがて、そこに無を残して……。


「へ? 魔法陣……⁉︎」


 実孫であるエルスすら疑問に抱くその事実に、アーレヴァはこれまでの偉業を嘲笑う様に解を呈する。


「さて、駆け出しから異例の早さで大公になったアーレヴァという男。その理由とは感情、思考を誘導出来る先天性の天才なのじゃった……。ボロがあれば出していただろうが……問題なさそうだぞ、エルスよ……」


 イカサマで成り上がりました……などと公言しながら、連れてきた男の裏を暴くつもりだったと元小神族大公。

 先天性だった事はエルスにも伝えていなかった様で、空いた口が塞がらないを見事体現している現小神族大公。

 その傍らで、知らぬうちに王手を宣告されていたのだと……冷や汗をかいたシーアは呆然としていた。……こっちを見るな。俺だって知らなかったさ……。


「異種族恋愛が受け入れられれば良いのだろう? 簡単な話……儂がその建国神話を親しみやすく、ポップに書いてやろう。サイン会でも開いてやれば、あら不思議。異種族恋愛受け入れよう団体が一つ、二つと出来上がるさ」

「それイカサマしてんだろ⁉︎ それで良いのかよ……?」

「カカ……。政治なんてきな臭い話しか出てこん。大方、事実なもんよ」

「……まあ、私はノーコメントだ」


 異種族恋愛受け入れよう団体……こちらの世界である、『えるじーびーてー』的な奴だろうか。

 大概、この手の話は無関心が良いと思うのだが……何かと触れるべきだとされるのが世論である。


 個人定期な意見では、人の恋愛に、他者は関わるべきじゃないだろうに……。とも思うのだが……肯定でも否定でも、何かと首を突っ込みたいのが人間らしい。。


 故に、無関心とは便利な物である。祝福ぐらいなら、心無くても送れるもんだ。

 少なくとも俺は、二人だけの世界に入ってやろうとは思わないのである。……ああ、三人以上だってそう思うぜ?


「小親族の政治って……大丈夫なのかにゃ……?」

「実際、飢人族は……他人の事言えないよね……」

「疑惑で済めばセーフ……腹黒さで言えば、負けてない」


 ——妖精族に言われるって、相当だなぁ……。


 ……まあ、上手く事が進んで良かった。親族の了承を得ると何かと楽だ。

 これで、元の世界に帰るという目的に一歩近づいた。

 ついでに、済ませる事は済ませねばな……。





 家族の時間も必要だろう、と一度出て行くことにした一行。

 観光気分に小人族の集落を歩いていると、見知った顔が話し合っていた。


「あれ、ネールちゃん? と……」

「おや、サイさんではないですか……」

「ハロー、サチちゃん! おひさー!」


 シストラムの友人……獣人族のネールと、男湯で出会って話した小神族……モルボス。旅の最中、何度も出会った訳では無いが……昔から、他人の顔を覚えるのは得意だ。


「よく名前覚えてたな……」

「はは。ビジネス的に、人の顔と名前を覚えるのは早いに越した事は無いので……」


 軽く会釈をし、また取り繕った笑顔で皆を見回す。

 シストラム達とは面識がない為、一人……また一人と、顔を覚える様に相手を見つめた。


「知り合いかにゃ?」

「顔見知り程度、といった所でしょうか……?」


 得意の愛想笑いをかました所で、取ってつけた様に驚きながらモルボスは会話を繋げる。


「そう言えば、サイさんもよく僕の事を覚えていましたね……?」

「他に覚える顔が少ないからな……。幅広く交友関係を結んでねーんだ。嫌でも覚えるさ」


 ぼっちあるある……その一、と言った所か。

 その二は昔の関係無い思い出も、何故か覚えている……でどうだろう? 


「はーいはい、喧嘩しないのー……。そっちの竜人族の娘は初めましてよね? 私はネール。よっろしく!」

「傭兵やってるユーロスよ。二人はどういう関係?」

「仕事の郵送を頼んでいたのですよ。ああ、僕はモルボスと申します。サイさんとは少し前に、宿の温泉で出会いましたね」


 ——こいつら自己紹介上手いな……。


 ……などと自己紹介テンプレ男が関心していると、一つ……アイデアが浮かんで来る。


「そういえば、お前……起業したとか言ってたな?」

「ええ、そうですが……」

「あー……何故かは分からないんだが、確実に売れる本を出す事になったんだ……色々ツテとか無いか?」


 勿論、店に置いて貰う事だって出来るだろうが、沢山の本を売り出すには限界がある。

 企業に刷って貰えれば……部数は多いに越した事はないし、あの老人にも一泡吹かせられそうだ。


「ほう、ビジネスの話ですか……。詳しく聞かせて貰えますか?」


 そして、モルボスは話を聞いた後『面白そうですね。それ』と一言。取り繕った笑顔が剥がれた笑顔で言い放つ。

 流石にアーレヴァの先天性を話すのは彼にとっても良く無いかと思い、包んでおいた。


「ネールさん。仕事が増えてしまいました。追加で頼めますか?」

「おっけー! 小人族、小親族のトップがそんな話になってるなんて、手伝ってあげるしか無いでしょ!」


 ——これで、この件は何とかなりそうだな。サイン会……頑張れよ、爺ちゃん。それじゃ、次だ。


 遥か昔に下りる筈だった、人類史の幕を下ろそうか……。


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