イマドキの話
何度来ても心を奪われる場所だ……そんな事を真面目に言って、馬鹿馬鹿しいとは思うけどな。
透き通った涼しさを肌で感じ、アルヘームへと戻ってきのだたという実感が湧いて来る。
子供ながら夢見た魔術が使える世界では、何を思って過ごすのだろうか。……なんて始めは思っていたが、愛だの恋だの……所詮人間なんて変わらんもんだ。
——ま、魔術が思ってたより便利な物でも無いってのもあるがな……。
いいや、そりゃ期待しすぎって話。それに、俺はまだひよっこ。扱え無くて当然だ。
「むむむむ……」
それにしたって不思議なもんだ。まだ水の魔術の初歩的な事しか出来ないが、手のひらでふよふよと……無から生まれた水の塊が浮いている。
現実味なんてありやしないが、元々この世界に来てからもそうだったかな……。
「ん……」
ピシャリ……と音を立て、手のひらから地面に零れていく水塊だった物を数秒睨み、顔を上げる。
遅れた距離を取り戻すために駆け足で、仲間とは素直に呼べない彼女たちの元へ向かった。
「さて。これからどうするつもりだにゃ?」
「うむ。半ば言い訳に聞こえる節はあるが、神話に描かれた異種族恋愛……これで攻める。……と言っても、サイの提案なんだが……」
「ん……まあ、そうね」
ちゃんと話を聞いていなかった。
無責任の肯定……皆は真似しない様に。
「異種族婚は……ぃッ⁉︎ んんっ……い、異種族恋愛はまだ馴染みの薄い文化だ。今のままでは民たちの反感を買ってしまうかもしれない。そこに付け込まれて反政府による革命を成立されては困るからな……」
——別に良いんじゃねえかもう……結婚でも。
「まあ正直、別に自分の立場が恋しい訳では無いのだ……。最悪、失脚になっても構わん」
「はっは……そりゃ、恋しい対象は別に……あぶっ⁉︎」
俺の視界情報が正しければ、青白い稲光が目の前を走った気がする。いや、気のせいだ。少なくとも、そう言うべきだと本能が告げている。
「まあ、それはともかく……苦労して大公になったんだろう? わざわざ得た物を捨てる必要なんて無いっての……」
「んん……そ、そうか? ……まあ、最悪の話だ。取り敢えず、これからの話だが……」
「そのまんまではあるが……この書籍を流行らせよう‼︎」
流行を操るには、どうすれば良いか。
『あの人』が良いって言ってるから……という曖昧な理由で見始める事が大半のミーハーを、どれだけ巻き込めるかが鍵だ。
詰まる所、そのきっかけである『あの人』が必要不可欠と言えるだろう。
ある程度、顔が知られている人間。慕われている人間。
異種族恋愛の当事者がそれを言い出し始めても、逆の考えを持つ人間を動かす事は出来ない……と、いう訳で訪れた先は……。
「……久しぶりだな。お祖父様」
エルスの祖父。小親族の元大公。そして、我々からして見ればただの顔見知り……アーレヴァと名乗った、かつての老人だった。
「なるほど……エルスに男か……」
事情を全て話し、手伝ってくれるかの交渉。
元々、エルスに対しては英才教育によって彼女自身の時間を作れなかった事は気にかけている様で、良い加減自由な時間も必要だろうという事で了承はしてくれた。
……が、
「やはりこの目で直接見なければな……。爺の小言であるが、その男と腹を割って話をせねばならぬだろうよ……」
——なんか目ぇ開けて、若さ取り戻して無いか? 爺さん……。
「直ぐ発つぞ。あの、忌々しくもある火山へと……」




